慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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~筋肉の恒常性と健康は相反するものなのか?~ 筋肉においてオートファジーが存在するが故にインスリン抵抗性が存在する

論文紹介著者

木場 健(博士課程 2年)

木場 健(博士課程 2年)
GCOE RA
整形外科学

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Kook Hwan Kim/Nat Med. Published online December 2, 2012.

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Kim KH, Jeong YT, Oh H, Kim SH, Cho JM, Kim Y-N, Kim SS, Kim DH, Hur KY, Kim HK, Ko TH, Han J, Kim HL, Kim J, Back SH, Komatsu M, Chen H, Chan DC, Konishi M, Itoh N, Choi CS, Lee M-S.
Autophagy deficiency leads to protection from obesity and insulin resistance by inducing Fgf21 as a mitokine.
Nat Med. Published online December 2, 2012.

論文解説

オートファジーはバルク分解ともよばれ細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、過剰にタンパク質合成したときや栄養環境が悪化したときにタンパク質のリサイクルを行ったり、細胞質内に侵入した病原微生物を排除することで細胞の恒常性を保つために必須の機構であり、過去にはオートファジーと幹細胞分化に関する報告も散見されます。

この項を呼んで頂いている皆様の中にも「健康に未練があるうちは満足な筋量を得ることが出来ない」とうすうす感じている人もいらっしゃると思います。
まさにその通りで、この恒常性を保つ目的で存在するはずの機能があるが故に筋肉では"負の影響"が起こりうる可能性があることを示唆している論文です。

糖・脂質代謝におけるオートファジーの役割は年々解明が進んでいるとはいえ、現在も不明な点が多いことが現状です。オートファジーに関わる遺伝子の1つとしてAtg7があります。骨格筋特異的Atg7欠損マウスを作製したところ、予想外なことにこれらのマウスは脂肪量が少なく、高脂肪食による肥満やインスリン抵抗性が起きにくいことが判明しました。

この予想外のインスリン感受性亢進は、Fgf21の発現増加に伴う、脂肪酸β酸化の増加と白色脂肪組織(WAT)の褐色化によるものと考えられています。Petersenらは骨格筋でのオートファジー欠損はミトコンドリア機能異常をもたらすと報告しておりますが、これがAtf4(※1) (integrated stress responseのマスター調節因子の一つ)の発現亢進を介して、Fgf21の発現を増加させたことが明らかになりました。骨格筋培養細胞であるC2C12に薬剤(ミトコンドリア呼吸鎖阻害剤)によるミトコンドリア機能異常を起こした場合も、Atf4依存性にFgf21の発現が誘導された。すなわちAtf4がFgf21を介してインシュリン感受性を改善することが示唆されました
なお、肝でオートファジーを欠損させたマウスでも、高脂肪食に伴う肥満とインスリン抵抗性が改善しました。

Atg7ΔsmマウスはAtgタンパクの一部を欠損させ、オードファジー機構が働かない様にしたマウスですが、正常食摂食下でコントロールに比べて体重および除脂肪体重が少なく、骨格筋量と筋線維のサイズが有意に小さいことがわかりました(オートファジー欠損に伴う筋萎縮)。また、このcKOマウスはWATでのオートファジーは正常に保たれているのに、コントロールに比べて脂肪量が少なく脂肪細胞が小さいことも判明しました。

またAtg7Δsmマウスはコントロールに比べると、摂食および運動に差はありませんでした。また運動以外のエネルギー消費が大きく、このマウスは空腹時血糖とインスリン値が低く、(骨格筋でのオートファジー欠損で予想されたインスリン抵抗性とは逆に)耐糖能亢進とインスリン感受性亢進が認められました。

Atg7Δsmマウスは高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性増悪が起きにくいことが判明しました。
またAtg7Δsmマウスに高脂肪食を負荷しても、コントロールに比べて、体重・脂肪重量の増加が起きにくく、高脂肪食負荷したAtg7Δsmマウスはコントロールに比べ、エネルギー消費が大きいことがわかりました。また、このマウスは空腹時インスリン値、またインシュリン感受性を調べるHOMA-IR、高インスリン正常血糖クランプ試験によりインスリン感受性の亢進が認められた。なお、クランプにおけるインスリン抵抗性の改善は、(骨格筋でオートファジーの欠損があるにもかかわらず)骨格筋での糖取り込みの亢進と肝での糖産生抑制によるものであることも判明しました。

以上の結果から、骨格筋でのオートファジーの欠損によってミトコンドリア機能異常が起こり、それがFgf21の発現を増加させ、Fgf21の増加によって肥満とインスリン抵抗性が改善されることが示されました。Fgf21はミトコンドリアに生じたストレスを伝達するために細胞外に放出される一種の内分泌因子であり、mitokineと呼ぶことができるものであります。

今回、紹介させて頂いた論文ですが幹細胞とはほぼ関連ない内容だと思っております。しかしながら前カロリー制限と筋衛生細胞の関連を示す論文を紹介させて頂いて点、オートファジーと幹細胞の関連を示唆する論文が散見されるため、その内容と関連ある内容だと考えここで紹介させて頂きました。

用語解説

  • ※1 Atf4:
    integrated stress responseのマスター調節因子の一つ。

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