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がん細胞の死に際
論文紹介著者

佐藤 亮(博士課程 1年)
GCOE RA
先端医科学研究所遺伝子制御研究部門
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Scott J. Dixon/Cell 149, 1060-1072, May 25, 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Scott J. Dixon, Kathryn M. Lemberg, Michael R. Lamprecht, Rachid Skouta, Eleina M. Zaitsev, Caroline E. Gleason, Darpan N. Patel, Andras J. Bauer, Alexandra M. Cantley, Wan Seok Yang, Barclay Morrison III, and Brent R. Stockwell. Ferroptosis: An Iron-Dependent Form of Nonapoptotic Cell Death. Cell 149:1060-1072, 2012
論文解説
はじめに
生物は最期には必ず死に至ります。どのように生きていくか、その生き様は生物によって多種多様ですが、死に至るという点では共通しています。ヒトを死に至らしめるがん細胞も生物である以上、その例外ではありません。腫瘍の中で活発に増殖しているがん細胞もいれば、死んでいくがん細胞も存在します。今回紹介する論文は、がん細胞が死ぬ時どのように死んでいくのか、その死に方に焦点をあてた論文です。
私の研究室もそうですが、現在非常に多くの研究者ががんをどうやって治していくか、様々な視点から精力的な研究を行っています。現在の研究の主流は、「がん細胞と正常細胞との違い」を見つけ、その違いを利用してがん細胞だけを選択的に殺すことのできる薬を開発する、という方法です。このような薬剤を一般に分子標的治療薬とよびます。今回の論文では、「がん細胞の死に方」を明らかにすることで、がん細胞だけを選択的に死に誘導できないか、という観点から研究が行われています。
一般に、細胞が死に至るきっかけはたくさん存在します。例えば、感染症や物理的なストレス、放射線や薬剤など、いずれも細胞を死に至らしめるストレスとなり得ます。このように死を引き起こすきっかけはたくさん存在していても、結局は同じような死に方をすると考えられてきました。その細胞死のメカニズムがアポトーシス(※1)です。非常に多くの細胞がこのメカニズムによって死に至ることがわかっており、詳細な分子メカニズムが研究されています。しかし、近年、細胞が死んでいく過程で、このアポトーシス以外にも、様々なメカニズムが利用されていることが判明してきました。現在のところ、細胞死の3大メカニズムは、アポトーシス、ネクローシス、オートファジー細胞死の3つになりますが、他にもピロトーシス、ネクロプトーシス、パラプトーシスなど、多彩なメカニズムの存在が示唆されています。では、がん細胞はどのようにして死んでいくのでしょうか。
今回の論文で登場するがん細胞は、ras(※2)という遺伝子に変異がある細胞(以下、Ras mutant cellと記します)です。このras遺伝子の変異は、非常に多くの癌(大腸がん、膵臓がん、肺がんなど)で認められる異常であるため、治療標的としてとても注目されています。このRas mutant cellを特異的に殺すことのできる薬剤を、筆者らのグループは過去に見出しており、erastinという名前がつけられています。このRas特異的に治療効果を発揮する薬剤によって、Ras mutant cellがどのように死んでいくのか、この論文ではそのメカニズムの解明に挑んでいます。
実験結果
まず、erastinをRas mutant cellに投与した際に、どのように細胞が死んでいくのかを形態学的に見たのが図1です。Staurosporinという薬剤を投与するとアポトーシスが誘導され、H2O2ではネクローシスが、Rapamycinではオートファジー細胞死が惹起されることが知られています。erastinを投与されたがん細胞は、これらの細胞死とは形態学的に異なった特徴を呈しています。アポトーシスで見られるような核の凝集や、ネクローシスで特徴的な細胞膜の破裂、オートファジーで認められる二重膜小胞のいずれも観察することができず、ミトコンドリアが委縮している像が見受けられます。つまり、今まで知られている細胞死とは異なった形態学的特徴を有していることになります。
図1
次に、erastinによって誘導される細胞死では、どのような分子メカニズムが働いているのか、図2ではこの細胞死に極めて特徴的な性質が示されています。erastinの投与によって、(1)細胞内の活性酸素(ROS)が貯まっていくという特徴と、(2)erastinと一緒に鉄のキレート剤(DFO)(※3)を一緒に投与しておくと活性酸素が貯まってこない、という2つの性質が読み取れます。つまり、erastinによって誘導される細胞死では、鉄依存的に活性酸素が蓄積されている、ということになります。この、鉄が細胞死に関与しているというのが、他の細胞死とは際立った違いであり、筆者らがferroptosisと名付けた所以になっています。
図2
では鉄がどのように細胞死に関与しているのか、残念ながら今回の論文ではその詳細なメカニズムまではわかっていませんが、活性酸素の蓄積に関しては、もう少しつっこんだ結果を示しています。erastinがアミノ酸の一つであるシスチンの取り込みを阻害することで、抗酸化剤の産生が滞り、活性酸素が蓄積してしまうという結果です。
今後の展望
今回の論文では、ferroptosisと名付けられた、鉄 (Fe)依存的な細胞死のメカニズムが存在することが示されました(図3)。このメカニズムをうまく誘導することができれば、ras遺伝子に変異を有するがん細胞を効果的に殺すことが可能になるかもしれません。今後は、どうすればferroptosisを誘導できるかを突き止めていくことが必要となります。ras遺伝子の変異は多くのがんにおいて見受けられ、効果的に殺すことができれば恩恵を被る患者さんが多いだけに、更なる詳細なメカニズムの解析が期待されます。
図3
用語解説
- ※1 アポトーシス:
細胞死の一形態。生物の発生や恒常性の維持に必要不可欠なメカニズムであり、広く進化的に保存されている。ヒトの生体内で死ぬ細胞は、ほとんどがアポトーシスによって死に至るとされる。最も詳細に分子メカニズムが解明されている細胞死である。
近年、新たな細胞死機構が続々と報告されてきているが、広く受け入れられている細胞死の形態には上述のアポトーシスの他、ネクローシス、オートファジー細胞死が挙げられる。アポトーシスによって死んでいく細胞は、まるで木から葉が落ちるように脱落していく。個体維持のプロセスで積極的に引き起こされるプログラムされた細胞死である。細胞内容物を周囲に漏らすことなく最終的にマクロファージなどの食細胞によって除去され、その細胞が存在した痕跡は何も残らなくなる。一方、ネクローシスは感染、物理的破壊、化学的損傷、血流の減少などによる細胞の死滅である。ネクローシスで死んでいく細胞は、細胞自体が膨潤し最終的に破裂してしまうため細胞内容物を周囲にばらまいてしまう。その結果、ネクローシスで死んだ細胞周囲には炎症が惹起される。3つ目のオートファジー細胞死では、オートファジーと呼ばれる自食過程が過剰に進むことで死に至る細胞死である。細胞は飢餓状態におかれると、生きるための最小限の細胞内要素だけを残して、細胞小器官、タンパク質は分解される。この自食過程をオートファジーと呼ぶ。 - ※2 ras遺伝子:
がん原遺伝子の一つ。Rasタンパク質は転写や細胞増殖、細胞の運動性の獲得のほか、細胞死の抑制など数多くの現象に関わっている分子である。ras遺伝子の変異によって、タンパク質の機能が活性化すると、細胞増殖が亢進しがんを誘導する。 - ※3 デフェロキサミン(deferoxamine, DFO):
デフェロキサミンとは体内から過剰な鉄を除去するために使用されるキレート剤の一つで、鉄過剰症及び鉄中毒の治療薬として一般に使用されている。

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