慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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カロリー制限が筋肉を増やす? - トレーニング界の常識に挑戦する新たな"逆説"

論文紹介著者

木場 健(博士課程 2年)

木場 健(博士課程 2年)
GCOE RA
整形外科学

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Massimiliano Cerletti/Cell Stem Cell 10.515-519, May 4,2012

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Short-Term Calorie Restriction Enhances Skeletal Muscle Stem Cell Function

論文解説

背景

近年の研究ではカロリー制限することにより様々な疾病を予防するだけではなく寿命そのものを延ばすことが知られています。
しかしながらカロリーを制限した状態が筋肉の幹細胞の自己修復能及び分化能を増加させる(=筋肉が増えやすい状態になる?)という報告がありました。
筋肉は最大のグルコースコンシューマーでありトレーニング界では筋肉を増やす場合はカロリー過剰が必須だとかんがえられてきました。すなわちカロリー制限は筋肉量の減少するというのが一般的な認識であり,当論文は"逆説"となるといっても過言ではない興味深い内容です。

結果

まず野生型マウスのカロリー制限を行うことにより筋繊維一本あたりに発現する※1 Pax7の量が増加することが明らかになりました。(図1)


(図1)カロリー制限により筋繊維に存在するPax7の数が増える。
すなわちSatellite Cellの数が増える。

また同様の手段によりSatelliteCellに発現するミトコンドリアが増加することも分かりました。
これらに伴い幹細胞の筋細胞への分化能力が上昇することが明らかになりました。これらの状態では FoxO3a,SIRT1の発現が上昇することからこの2者が強く関与することが示唆されております。FoxO3a,SIRT1とカロリーの関係はカロリー制限によりSIRT1/Sir2が活性化され,その結果,標的となる転写因子FOXO3aが脱アセチル化され転写活性が亢進するといわれている。

カロリー制限することにより筋肉での幹細胞の機能を活性化させることを応用して筋疾患などの治療に使えるのではないか?ということで次の実験がなされました。
まず人工的に凍傷を受傷させたマウスの受傷後7日目の筋肉を比較したところカロリー制限群では明らかに筋肉がより再生していました。(図2A)
またデシャン型筋ジストロフィーモデルマウスに野生型マウスもしくはカロリー制限マウスの幹細胞を移植したところ一日目での幹細胞の定着を比較してみたところ,カロリー制限マウスの幹細胞を移植した群の方がより定着しておりました。(図2B)
またこれらは元から存在する細胞のみではなく移植された細胞でも同様のことが起きます(図2C)


(図2)
A カロリー制限することにより筋損傷からの回復が早くなる
B カロリー制限したマウスから採取した幹細胞は移植の生着率が良い
C 他から移植された幹細胞でもカロリー制限の効果は同様である

まとめ

カロリー制限をすることにより筋繊維に存在するSatellite Cellが増加し,筋肉の幹細胞の自己修復能及び分化能が増進しまた幹細胞の移植効率が上がります。このことからカロリー制限は筋肉疾患や筋肉の損傷に有用である可能性が示唆され今後の研究の発展が期待されます。

カロリー制限により活性化されるのはあくまで幹細胞です!
筋肉をつけたい人,筋力をつけたい人はオーバーカロリーが鉄則ですので1日5000kcal以上を目標にして下さい!

用語解説

  • ※1 Pax7:
    筋サテライト細胞に特異的なマーカーで衛星細胞静止期に発現するまた一部の横紋筋肉腫ではPAX7の関わるキメラ遺伝子が同定されている

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