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脊髄損傷にヒートショックプロテインが有効?
論文紹介著者

川端 走野(博士課程 1年)
GCOE RA
整形外科学
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Armelle Klopstein/The Journal of Neuroscience, October 17, 2012 ・ 32(42):14478 -14488
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Armelle Klopstein, Eva Santos-Nogueira, Isaac Francos-Quijorna, Adriana Redensek, Samuel David, Xavier Navarro, and Rube`n Lopez-Vales. Beneficial Effects of αB-Crystallin in Spinal Cord Contusion Injury. The Journal of Neuroscience. 32(42):14478 -14488, 2012
論文解説
背景
脊髄損傷に対する様々な治療法の研究がなされているが、臨床の現場において決定的といえる治療法は未だ確立されていない。今回紹介する論文では、脊髄損傷に対する急性期の治療にヒートショックプロテイン(以下Hsp)(※1)が有効である可能性が示されている。
脊髄に損傷が起こるとさまざまなメカニズムが生じるが、それらは大きく2次損傷を促進するものと修復するものとに分けられる。最終的にそのバランスの結果で損傷の程度が決まると筆者らは考え、内因性の脊髄保護効果のある経路を活性化することで2次損傷を抑えることができると考えた。
Hspは多くの組織保護効果が報告されている内因性タンパクであるが、脊髄損傷時の組織保護効果を検討した研究は過去になく、筆者らはそこに着目した。Hspは全ての種の細胞に多く発現しているタンパクであり、中枢神経系にもいくつかのHspファミリーが存在して組織を保護していることが知られている。その機能は具体的に、タンパク凝集の抑制、部分的に変性したタンパクの構造を修復、さらには細胞死経路の抑制や、炎症反応の制御などが挙げられる。
αBクリスタリン(CRYAB)はHsp27に関連するsmall Hspファミリーであり、CRYABもやはり様々なストレス下で細胞を保護したと報告がされている。中枢神経系におけるCRYABの役割はほとんど知られていないが、最近の研究でマウスの多発性硬化症モデルや脳梗塞モデル、アレキサンダー病モデルに対して組織保護効果をもたらしたと報告された。現段階では中枢神経の外傷に対するCRYABの効果は報告されておらず、本論文にて初めてその有効性が示された。
方法と結果
マウスに脊髄損傷を加え、αBクリスタリン(rhCRYAB)を投与してその効果を評価した。
下の図は治療群と非治療群のマウスの運動機能評価をグラフで示したものである。損傷後5日目から運動機能に有意差が出現し、4週後まで有意に改善していた
続いて、治療群と非治療群において組織の欠損の程度を評価した。アストロサイト(※2)のマーカーで組織を可視化して比較したところ、治療群では組織の欠損が有意に減少していた。(下の図で、右が治療群で左が非治療群。)
これまでの研究では、神経変性疾患に対するCRYABの組織保護効果はタンパクのmisfolding(※3)と凝集を抑制することでもたらされていると考えられていた。誤って折りたたまれて凝集したタンパクは細胞死を誘導するが、それは転写因子CHOP(※4)の集積が引き金となっている。そこで筆者らがrhCRYABを投与することによってCHOPの発現が抑制されるかを評価すると、予想と反してCHOPの発現には変化がなかった。つまり、rhCRYABはタンパクのmisfoldingや凝集を抑制することで神経保護効果をもたらしているのではなかったことが示唆された。最近の研究で、CRYABが多発性硬化症や脳梗塞モデルのマウスに対して炎症反応を調節することで神経保護効果をもたらしたと報告されている。そこで、脊髄損傷でも同様のメカニズムが生じているかを評価した。すると、免疫反応の活性化の引き金となる主要核内因子であるNF-κB(※5)の活性が治療群において有意に上昇していることが分かった。さらに、NF-κBの上昇がサイトカインやケモカイン(※6)にどのような影響を及ぼすか検討すると、治療群で4つのケモカイン(CCL1/KC,CCL2/MCP-1,CCL3/MIP-1,CXCL10/IP-10)と2つのサイトカイン(IL5,IL6)が有意に上昇していることが明らかになった。それらのサイトカインやケモカインの上昇によって誘導される炎症細胞の違いを評価すると、rhCRYABの投与により脊髄損傷1日目には顆粒球を増加させ、損傷3日後には炎症性マクロファージを減少させることが明らかになった。筆者らは今回の神経保護効果について、誘導された炎症細胞の変化によって得られたものと考えている。
最後に
本実験において、Hsp の1種が脊髄損傷の急性期治療に有効である可能性が示唆された。しかし、その詳細なメカニズムは解明されておらず、さらなる検討を要する。また、今回の実験による治療は急性期の脊髄損傷に対するもので、臨床応用された場合にも適応が限られてしまう。今後の課題はまだ残されているが、HSPが脊髄損傷に有効であることを報告した世界で初めての論文であり、今後の研究に期待される。
用語解説
- ※1:
ヒートショックプロテインとは、体の細胞が熱や炎症、低酸素などのストレス下にさらされた際に発現するタンパク質で、組織保護効果をもたらすことが知られている。 - ※2:
アストロサイトは中枢神経系に存在するグリア細胞の一種であり、神経系の構築や細胞外液の恒常性の維持などの重要な役割を担っている細胞である。 - ※3:
タンパクのmisfoldingとはタンパク質が誤った構造に折り畳まれてしまう現象であり、その結果起こる有名な疾患として、プリオン病やアルツハイマー病などが挙げられる。 - ※4:
CHOPは転写因子の一つであり、小胞体ストレスにより誘導される。種々の炎症誘導刺激により小胞体ストレス-CHOP 経路は誘導される。CHOP 発現より下流において、そのシグナルがサイトカイン分泌活性化に向かう場合と、アポトーシス誘導に向かう場合があると考えられている。 - ※5:
NF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー、核内因子κB、nuclear factor-kappa B)は転写因子として働くタンパク質複合体である。免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つであり、急性および慢性炎症反応や細胞増殖などの数多くの生理現象に関与している。 - ※6:
サイトカインとは細胞が産生する微量生理活性タンパク質の総称であり、標的細胞の受容体に結合することで作用をもたらす。ケモカインはサイトカインの中の一群であり、白血球遊走作用を有するものの総称である。

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