慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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ES細胞、iPS細胞から内耳有毛細胞への分化誘導

論文紹介著者

渡部 高久(博士課程 2年)

渡部 高久(博士課程 2年)
GCOE RA
耳鼻咽喉科学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Kazuo Oshima/Cell 141, 704-716, May 14, 2010

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Kazuo Oshima, Kunyoo Shin, Marc Diensthuber, Anthony W. Peng, Anthony J. Ricci,and Stefan Heller. Mechanosensitive hair cell-like cells from embryonic and induced pluripotent stem cells. Cell. 2010 May 14;141(4):704-16.

論文解説

ヒトの内耳は蝸牛と前庭に一次感覚受容器である有毛細胞を15000個ずつ有しています。この有毛細胞は音響外傷の様な機械的刺激、アミノグリコシド、白金製剤の様な化学的刺激による傷害、また加齢等による影響を受けやすいのですが、自然に再生される事がありません。その為、ES細胞、iPS細胞からの内耳有毛細胞の再生に期待が寄せられています。しかし、これまでに内耳有毛細胞の構造的、機能的再生についての高い再現性を持ったプロトコールの報告はなされていませんでした。この論文において、ES細胞、iPS細胞から耳前駆細胞への分化を経た後、有毛細胞様細胞の分化誘導がなされた事が示されています。

ES/iPS細胞から内耳先駆細胞への分化誘導

内耳発生において、内耳予定領域は前外胚葉領域に形成されます。WntシグナルとTGFβシグナルによって形成される原始線条は内・中胚葉形成に寄与することから、Wntの抑制因子であるDkk1とTGFβシグナルを阻害するSmad3(SIS3)の添加で内・中胚葉への分化を抑制することにより、外胚葉形成が促進される事が予想されました。また、前外胚葉形成はIGFシグナルによって促進されること、内耳予定領域誘導にFGFsが必須である事が知られています。そこで、内耳予定領域を誘導すべく、浮遊培養系によるES/iPS細胞からのEmbryonic body作成に際して培養上清にDKK1(D)、Smad3(S)、IGF(I)各々単独もしくはその組合わせを添加し、その後の付着培養系においてはbFGF(+)、bFGF(-)、もしくはFGF受容体拮抗阻害剤であるSU5402(+)をゼラチンコートしたシャーレ上に蒔いて、内耳予定領域のマーカーPax2、Pax8、Dlx5、Six1、Eya1の発現を比較しています。その結果、コントロール群に比較してD、S、I各因子で処理した方がPax2の発現が増加しており、中でもD+S+Iの3種ともに加えたときが最も高発現でした。更に、bFGFを加えたコート上で培養された細胞でPax2、Pax8、Dlx5、Six1、Eya1がもっとも高く発現していました。


(図1)(K.Oshima et al.2009.)

内耳前駆細胞からの有毛細胞分化

続いて、上記により得られた内耳前駆細胞から有毛細胞を分化誘導する条件を検討しています。内耳有毛細胞のレポーターマウスであるMath1-GFPマウス由来(Math1:内耳有毛細胞に発現)のES/iPS細胞からD+S+I+bFGF処理によって内耳前駆細胞を誘導してMEFフィーダー上で培養すると、GFP陽性細胞が産生されており、同細胞には有毛細胞マーカーであるmyosinVIIaが陽性でした。しかしこれら単独の処理では有毛細胞の聴毛のマーカーであるEspinが検出されませんでした。そこで、内耳前駆細胞を有糸分裂を不活化した鳥卵形嚢間質細胞シート上で培養すると、GFP、myosinVIIa、Espin陽性細胞が確認されました。


(図2)(K.Oshima et al.2009.)

上記にて作成された有毛細胞様細胞では、電子顕微鏡所見において動毛と不動毛から構成される聴毛様の構造が確認されました。また、動毛マーカーであるF-actin、Espinと不動毛マーカーであるTubulin、そして動毛と不動毛をつなぐTip linksのマーカーであるCadherin23の発現を認めました。


(図3)(K.Oshima et al.2009.)

作成された有毛細胞様細胞の機能解析

内耳有毛細胞は聴毛が蝸牛管内の内リンパ液の流れに刺激される事に細胞内電位の変化が起こります。同細胞を機械的刺激する事による電位変化を測定すると、機械的刺激により反応が確認されました。また、その反応は耳毒性薬剤であるジヒドストレプトマイシンによって阻害され、内耳有毛細胞と同様の特徴を示しました。


(図4)(K.Oshima et al.2009.)

これらの所見から、ES細胞、iPS細胞をDKK1、Smad3、IGF、FGFs処理して作成した内耳前駆細胞を有糸分裂を不活化した鳥卵形嚢間質細胞シート上で培養する事によりES/iPS細胞から内有毛細胞の特徴を有した有毛細胞様細胞が作成される事が示されました。

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