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iPS細胞から血小板をつくる
論文紹介著者

櫻井 政寿(博士課程 3年)
GCOE RA
血液内科
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Takayama N/J Exp Med. 2010 Dec 20;207(13):2817-30.
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
- Takayama N et al., Generation of functional platelets from human embryonic stem cells in vitro via ES-sacs, VEGF-promoted structures that concentrate hematopoietic progenitors., Blood. 2008 Jun 1;111(11):5298-306.
- Takayama N et al., Transient activation of c-MYC expression is critical for efficient platelet generation from human induced pluripotent stem cells., J Exp Med. 2010 Dec 20;207(13):2817-30.
- Nakamura S et al., Platelet Production System Using An Immortalized Megakaryocyte Cell Line Derived From Human Pluripotent Stem Cells, 2011 53rd ASH Annual Meeting and Exposition #2
- Takayama N et al., Pluripotent stem cells reveal the developmental biology of human megakaryocytes and provide a source of platelets for clinical application. Cell Mol Life Sci. 2012 Apr 24.
論文解説
2006年に発明されたiPS細胞の研究は、現在とても速いスピードで進んでおり、関連するニュースが毎週のように流れています。なぜこれほどまでにiPS細胞は注目されているのでしょう。
現代の医療は大きく進歩しており、肝臓や心臓などの臓器が悪くなった時に、薬や手術で治らなければ、最終手段として「移植医療」があります。しかし移植はドナー(臓器を提供する人)の確保など多くの問題があり、移植を必要とする患者さん全員が受けられる医療ではありません。
それでは人為的に臓器を作り出すことができたら、もっと多くの患者さんが救われるのではないでしょうか。肝臓が悪い人には肝臓をつくり、心臓が悪い人には心臓をつくる――このような医療を総称して「再生医療」と呼びます。そしてiPS細胞は様々な臓器のおおもとの細胞で、育て方次第でいろいろな臓器になる能力を持っています。iPS細胞の発明により、再生医療の実現はすぐそこまで迫ってきているのです。
今回は、主に日本のグループが研究を進め、臨床応用の一歩手前まできている分野について紹介します。
血液を臓器とみなせば、いま日本で最も移植されている臓器は血液です。いわゆる「輸血」です。ご存じのように、輸血は人々の善意から成り立っています。献血センターや献血車を見かけたことがあると思いますが、皆さんが無償で血液を提供してくださることで、救われる患者さんがいます。この美しいシステムにより多くの場合、安全な輸血が実施されていますが、まったく問題がないわけではありません。
一つはやはりドナーの問題です。献血センターにはいつも「ピンチ」と書かれていることが多いと思いますが、献血者は減りつつあります。また稀ではありますが、輸血を介しての感染もゼロではなく、時として社会問題に発展します。
もし人工的に血液を作り出すことができたら、献血に頼らず、感染症の問題のないより安全な輸血が可能となるはず――当然そう考える研究者は以前から存在し、様々なアプローチがなされてきましたが、いまだ実用化には至っていません。しかしここ数年、目覚ましい進歩があり、特に血小板輸血では実用化が見えてきています。
2008年にTakayamaらは多能性幹細胞(ES細胞)を用いて、人工的に血小板を作成することに成功しました1)。しかしこの方法では効率が悪く、1回の輸血製剤をつくるのに、シャーレが何万枚も必要となってしまうため、とても実用化できません。
そこで、Takayamaらは今度はiPS細胞を用いてより効率的な血小板づくりに挑戦しました。複数のiPS細胞からES細胞の時と同じ要領で血小板をつくってみました。その中で、産生効率のよかったiPS細胞を詳しく調べてみると、c-Myc(※1)という遺伝子の活性化が、血小板の前段階の細胞である巨核球の増殖に寄与することがわかりました。それではc-Mycを多く発現させればより効率的に血小板ができるかと思われましたが、話はそう単純ではなく、c-Mycが活性化したままだと、細胞老化誘導因子であるINK4AとARFの発現が上昇し、巨核球が十分に成熟して血小板を放出する以前に、老化して細胞が死んでしまったのです。一方で、最も血小板産生効率の良いiPS細胞ではc-Mycは一時的に活性化するものの、その後発現が低下していました。
この観察結果を裏付けるべく、人為的にc-Mycの発現を上下させてみました。すると、巨核球前駆細胞の段階で一時的にc-Mycの発現を上昇させ、その後低下させた群は、c-Mycが持続的に発現増強した群に比べ、血小板の産生効率が確かに良かったのです2)。
文献4より改変
しかし、この方法でもまだ実用化できるほどの効率を得られません。
そこでNakamuraらは、この方法にさらに改良を加えました。先ほどc-Mycを強く発現させると巨核球が増加するものの、血小板になる前に老化して死んでしまうと書きました。そこで彼らはc-Mycと共にBmi1という遺伝子を強く発現させることでこの問題を解決しました。Bmi1は、先ほど出てきた細胞を老化に導くINK4AとARFを負に制御することで、細胞の老化を防ぎます。そしてc-MycとBmi1を両方強く発現させることで、効率的に血小板を産生し、また老化せず無限に増殖する不死化巨核球細胞株を作成したのです。この方法により、約3週間で1回の輸血相当の血小板を得られるようになりました3)。
様々な臓器で研究が進んでいるiPS細胞による再生医療ですが、臨床応用に際し、最大の課題の一つとなっているのががん化の危険性です。しかし、血小板には核がなく、それ自体では増殖することができないので、がん化の心配性がありません。
輸血の中でも特に血小板輸血は、4日間しか保存しておけないため、安定供給が難しいという面があります。また、頻回の輸血に起因する抗HLA抗体(※2)の産生により、輸血の無効化が起きやすいという問題もありますが、iPS細胞から血小板輸血製剤をつくることができれば、この二つの問題も解決できます。
2012年初めに流れたニュースによれば、これら一連の研究を推し進めている東大・京大のグループは、2015年からの臨床応用を目指しているそうです。いよいよiPS細胞が実用化される日がきます。一人の血液内科医として、またiPS研究に携わる者として、その日を心待ちにしています。
用語解説
- ※1 c-Myc:
もっとも有名ながん遺伝子の1つ。iPS細胞の作製に用いられる「山中因子」の1つでもある(他の3つはOct3/4, Sox2, Klf4)。 - ※2 抗HLA抗体:
HLA(Human Leukocyte Antigen=ヒト白血球抗原)は白血球の血液型と言えるもので、自己と他者の区別に重要な役割を果たす。輸血などで頻回に本人以外のHLA抗原に曝露すると、非自己のHLA抗原に対する抗HLA抗体が出現することがある。それにより患者さんに輸血(特に血小板輸血)をしても、輸血した血液がすぐに患者さんの体内で壊されてしまい、輸血をした意味がなくなってしまうことがある。

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