- 2012年度
- 大脳皮質の進化の謎に迫る
(2013/03/29) - 活性型ビタミンDで小胞体ストレスを緩和しよう!
(2013/03/29) - Sweat Glands Grown from Newly Identified Stem Cells
(2013/03/29) - ~筋肉の恒常性と健康は相反するものなのか?~ 筋肉においてオートファジーが存在するが故にインスリン抵抗性が存在する
(2013/03/29) - たった1つの因子の抑制で様々な細胞が神経に!?
(2013/03/28) - 乳酸菌を取り込むと、細胞も若返る?! ~"人間、またしても発酵食品のお世話になる"の巻~
(2013/03/27) - 脳腫瘍における新しい遺伝子変異~エピジェネティク
(2013/03/27) - CCR2-dependentrecruitment of macrophages by tumor-educated mesenchymal stromal cells promotes tumor development and is mimicked by TNFα
(2013/03/25) - 補体C1qはWntシグナルの活性化を介して細胞を老化させる
(2013/03/19) - Speramtogonial Stem Cell Transplantation into Rhesus Testes Regenerates Spermatogenesis Producing Functional Sperm.
(2013/03/12) - 糖尿病薬剤による抗腫瘍効果
(2013/03/12) - 難病ALSの新たな原因遺伝子の発見
(2013/03/12) - 脊髄損傷にヒートショックプロテインが有効?
(2013/03/11) - 片頭痛患者では血管内皮前駆細胞が少ない?
(2013/03/11) - 筋幹細胞の静止状態はmiRNA-489により維持される
(2013/03/11) - ストレスに弱いってどういうこと?(心の病気にかかるメカニズムの一つ、「ストレス脆弱モデル」をネズミで再現)
(2013/03/09) - 核酸医薬は実現するか~筋強直性ジストロフィー治療の可能性~
(2013/03/09) - なくならないのは技がある!
(2013/03/08) - Down症候群のiPS細胞の染色体数を修正する
(2013/03/08) - 高品質なiPS細胞作製のキーファクターZscan4の同定
(2013/03/08) - Turning off the Neuron Death Pathway
(2013/03/07) - 新しい安全な分子標識-マルチ同位体画像質量分析法-が明らかにした幹細胞の不等分裂様式
(2013/03/07) - 重度脊髄損傷後に移植した神経幹細胞が非常に長く軸索を伸長し、シナプス結合した!
(2013/03/07) - 神経系前駆細胞を元気にして水頭症を治す!?
(2013/03/05) - FUS/TLSとTDP-43 二つのALS原因遺伝子の交差点
(2013/03/01) - 貪食細胞マクロファージが造血幹細胞を優しく包み込んで自己複製能の維持に貢献していた!?
(2013/02/27) - TALENs -新遺伝子改変技術が生命科学を変える!?-
(2013/02/27) - RESTタンパク質による遺伝子発現調節 ~遺伝子発現とシナプス機能~
(2013/02/25) - 腸に住んでいるある平凡な細菌によって大腸がんは引き起こされる!
(2013/02/25) - 癌抑制遺伝子p53の変異はメバロン酸経路を活性化することで、正常な乳腺の構造を失わせる
(2013/02/25) - 樹状細胞は制御性T細胞の恒常性をコントロールすることで多発性硬化症を寛解させる
(2013/02/25) - Schwann Cell Plasticity After Spinal Cord Injury Shown by Neural Crest Lineage Tracing
(2013/02/15) - エクソソームは、癌細胞の「飛び道具」!
(2013/02/08) - 老化したニッチでは筋肉幹細胞は静止状態を保てない
(2013/01/31) - 幹細胞を使った創薬開発
(2013/01/31) - 体細胞リプログラミングにおける遺伝子発現調節の解析からわかること-single cellで見てみようの巻-
(2013/01/31) - がん幹細胞発生のかぎを握るのは誰?-ユーイング肉腫がん幹細胞の解析を通じた検証-
(2013/01/31) - 小動物用PET(Positron Emission Tomography)で、ラットの脳梗塞巣を探知することができる [18F]BMS-PET
(2013/01/31) - 脳の神経ネットワークにおけるヤングパワー!
(2013/01/18) - アストロサイトの性格はどうやって決まる?
(2013/01/18) - 幹細胞の自己複製能を制御する因子とは?
(2013/01/18) - アルデヒドが真犯人!?DNA損傷と再生不良性貧血
(2012/12/18) - HIV-2の新しい定量法
(2012/12/18) - Japanese People's Preference for Place of End-of-Life Care and Death: A Population-Based Nationwide Survey
(2012/12/18) - がん細胞の死に際
(2012/12/18) - 癌幹細胞を眠りから目覚めさせる"Coco"
(2012/12/13) - 細胞接着分子のインテグリンが血液の幹細胞の維持を制御する
(2012/12/11) - 移植された神経幹細胞は免疫系にも作用する
(2012/12/11) - 血液がん克服にむけて!~JAK2阻害剤の薬剤耐性メカニズム解明~
(2012/12/04) - 癌進展を陰で操る支配者
(2012/11/30) - 幹細胞の2つの顔を暴け!!! 未分化性維持と特異的分化との狭間で...
(2012/11/30) - 脊髄損傷後の機能回復には自発的なリハビリが効果的
(2012/11/21) - もしあなたの歯が無くなってしまった時に...
(2012/11/15) - iPS細胞から血小板をつくる
(2012/10/30) - メラノーマのエキソソームで予後予測ができる?!
(2012/10/30) - Oligodendroglia Cells Can Do Much More Than an Insulator for Neuron
(2012/09/11) - APJは、心臓肥大のデュアル受容体として作用する
(2012/09/11) - 幹細胞医療;脳梗塞治療への挑戦
(2012/09/11) - 造血幹細胞の老化と若返り
(2012/09/11) - カロリー制限が筋肉を増やす? - トレーニング界の常識に挑戦する新たな"逆説"
(2012/09/11) - 癌幹細胞は治療標的にならない!?
(2012/08/24) - iPS細胞でC型肝炎ウイルス感染のモデルをつくる
(2012/08/09) - ES細胞、iPS細胞から内耳有毛細胞への分化誘導
(2012/08/09) - 造血幹細胞を冬眠させる細胞はなんと神経系の細胞だった!
(2012/07/06) - 個別化治療への障壁 ~多重人格なガンを克服せよ~
(2012/07/06) - 栄養のバランスが新しいニューロンを作り、体重や新陳代謝をコントロールする
(2012/05/11) - 脊髄不全損傷後におこる、残存神経ネットワークの代償機能
(2012/05/11) - "スーパーPTENマウス"
(2012/04/20) - 統合失調症iPS細胞研究が臨床研究になるために
(2012/04/20) - 発癌機序における"はじめの一歩"
(2012/04/06) - iPS細胞は脊髄損傷を治せるのか?
(2012/04/06)
- 大脳皮質の進化の謎に迫る
- 2011年度
- 2010年度
ホーム > 世界の幹細胞(関連)論文紹介 > 癌抑制遺伝子p53の変異はメバロン酸経路を活性化することで、正常な乳腺...
癌抑制遺伝子p53の変異はメバロン酸経路を活性化することで、正常な乳腺の構造を失わせる
論文紹介著者

岡崎 章悟(博士課程 1年)
GCOE RA
先端医科学研究所遺伝子制御研究部門
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
William A. Freed-Pastor/Cell, 148, 244-258, January 20, 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
William A. Freed-Pastor, Hideaki Mizuno, Xi Zhao, Anita Langerod, Sung-Hwan Moon, Ruth Rodriguez-Barrueco, Anthony Barsotti, Agustin Chicas, Wencheng Li, Alla Polotskaia, Mina J. Bissell, Timothy F. Osborne, Bin Tian, Scott W. Lowe, Jose M. Silva, Anne-Lise Borresen-Dale, Arnold J. Levine, Jill Bargonetti and Carol Prives. Mutant p53 Disrupts Mammary Tissue Architecture via the Mevalonate Pathway. Cell 148, 244-258, 2012
論文解説
p53(※1)は癌においてもっとも高確率に変異が認められる癌抑制遺伝子で、ヒトの癌では、30~50%の確率で何らかの変異を持つと報告されています。今回紹介する論文の著者、Carol Privesは、この、変異型p53の研究における代表的な研究者の一人です。
遺伝子の変異には、大きく分けると二種類存在します。一つは、遺伝子の全体、または一部が翻訳することができなくなり、遺伝子の機能を失ってしまう場合、もう一つは、タンパク質の一部のアミノ酸が、異なるアミノ酸に置換されてしまうことで正常な機能を失う、または新たな機能を獲得してしまうというものです。p53の変異は、前者の遺伝子欠失に比べ、後者のアミノ酸置換が圧倒的に多いという点で、他のがん抑制遺伝子とは大きく異なっています。また、遺伝子改変マウスでの解析結果より、p53を欠失したマウス由来の腫瘍と、アミノ酸置換を持った変異型p53を持つマウス由来の腫瘍では、異なる特徴を示すことが示されています。以上の事実より、アミノ酸置換による変異型p53は、その機能を失っているだけではなく、新たに何らかの機能を獲得していることが示唆されます。しかし、変異型p53がどのようにして癌化を促進しているかということは、まだ、はっきりとは解明されていません。今回紹介する論文では、この、変異型p53が、どのように癌化に寄与しているのか、その一因を解析した論文になります。
変異型p53が癌に及ぼす影響の解析として筆者らは、まず、2種の変異型p53を有する乳癌細胞株を用い、3次元培養技術により、その乳腺構造形成への影響を解析しています。3次元培養を行うと、正常乳腺細胞は管腔構造を構築することが可能ですが、これらの癌細胞ではほとんど形成することができず、主に無秩序な構造をとります。しかし、変異型p53の遺伝子発現を低下させると、正常に近い、管腔構造をとる細胞の割合が増加します。
図1.(左・写真)三次元培養した時に乳腺細胞がとる構造。右側の2つは正常な細胞がとる管腔構造で、左に行くほどその構造が崩れた状態。(右・グラフ)DOXが-になっているものは変異型p53を発現している状態、+になっているものは変異型p53の発現を減少させた状態。変異型p53が減少すると、管腔構造を形成する細胞の割合が増加していることが分かります。
本文Figure 1.より引用、一部改編
また、筆者らは、この時、ステロイド合成に関与する遺伝子群の低下が起きていることを見出しています。さらに、ステロイド合成経路であるメバロン酸経路(※2)の阻害剤であるシンバスタチンは、乳癌細胞株の管腔構造形成割合を増加させたことから、メバロン酸経路の活性化が変異型p53により生じており、乳腺構造の崩壊を誘導することを証明しました。
図2.(上)変異型p53は、脂質代謝を調整する転写因子、SREBPと複合体を形成することでメバロン酸経路関連遺伝子の発現を上昇させる。(下)p53に変異がない乳腺細胞は管腔構造を形成するが、p53に変異が入ることで無秩序な構造をとる。しかしスタチン系薬剤を作用させることで、正常の管腔構造に近い状態に戻すことができる。
Graphical Abstractより引用
変異型p53を持つ乳癌にて、メバロン酸経路関連遺伝子の発現上昇は、実際の臨床においても見られ、また、そのような癌では予後も悪いことも示されています。
以上のことより、変異型p53を持つ乳癌に対して、スタチン系薬剤が有効かもしれないということが示されます。スタチン系薬剤は、高脂血症に対して広く用いられている薬剤で、コレステロールの合成を阻害することで、血中コレステロールを下げます。コレステロールは細胞膜の重要な構成成分であることから、スタチン系薬剤でコレステロール合成を抑制すれば、癌の増殖を抑えることができるのではないかということは以前より言われていて、実際に、スタチン系薬剤が癌細胞を抑制するという報告はたくさんあります。今回紹介した論文では、メバロン酸経路が細胞増殖のみならず、乳腺の構造形成にも関与していることを示しており、癌に対するスタチンの作用について、今後、さらなる期待が寄せられます。スタチンは世界一の売り上げを誇る医薬品と言われていますが、癌で高頻度に見られる変異型p53を持つ癌に効果を示すことから、将来、スタチン系薬剤が、高脂血症のみならず、乳癌をはじめとする、多くの癌の治療でも用いられる日が来るかもしれません。
用語解説
- ※1 p53:
癌において、変異が最も頻繁にみられる癌抑制遺伝子。アポトーシスや細胞増殖サイクルなど、多くの現象の制御にかかわっているとされる。多くの癌抑制遺伝子では変異により機能が失われることで、癌化に寄与するが、変異型p53に関しては、機能喪失のみならず、何らかの機能を新たに獲得することで、癌に有利な形質を与えている証拠がいくつか発見されている。 - ※2 メバロン酸経路:
アセチルCoAを出発物質とし、コレステロールやステロイドなど、多くの重要な生体内物質の合成に関与する経路である。メバロン酸経路に含まれるHMG-CoA還元酵素は高コレステロール血症治療薬であるスタチン系薬剤の標的分子であり、コレステロール合成を抑制することで血中コレステロールを減少させる。

Copyright © Keio University. All rights reserved.