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TALENs -新遺伝子改変技術が生命科学を変える!?-
論文紹介著者

平野 孝昌(博士課程 3年)
GCOE RA
分子生物学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Victoria M. Bedellr/Nature, Published online 23 September, 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Victoria M. Bedell, Ying Wang, Jarryd M. Campbell, Tanya L. Poshusta, Colby G. Starker, Randall G. Krug II, Wenfang Tan, Sumedha G. Penheiter, Alvin C. Ma, Anskar Y. H. Leung, Scott C. Fahrenkrug, Daniel F. Carlson, Daniel F. Voytas, Karl J. Clark, Jeffrey J. Essner & Stephen C. Ekker. In vivo genome editing using a high-efficiency TALEN system. Nature, Published online 23 September, 2012
論文解説
皆さんは子供の頃、クマやシマリスが冬眠の間何も食べずに過ごせるのはなぜだろうかと思った事はありませんか。あるいはクジラやイルカのように、長い間息を止めて水中にいられることに憧れたことはありませんか。トカゲの切れたシッポが復活しているのを発見して、ヒトでは出来ないのになぜトカゲには出来るのだろうか。プラナリアなんて、細かく切り刻んだってもとの形に戻ってしまいます。なぜだ!? このようなことに疑問を感じた事が一度はあるのではないでしょうか。また、もしもこの能力がヒトにも備われば、医療や生活に絶対に生かされるのに、と思った事がきっとあると思います。これまでに上げた例のうちいくつかは、もう答えが出ているものもあるかもしれません。しかし、遺伝子レベルで詳細にわかっているものは多くはありません。なぜなら、これらの生物は遺伝子を欠損させることが確立しておらず、あまり "分子遺伝学的" な解析に向かなかったからです。一方、マウスやショウジョウバエでは、遺伝子変異・改変技術が確立しているので、様々な現象が詳細に解析されています。ヒトに関しても、培養細胞や遺伝性疾患をもつ患者様から得られた知見等で多くの解析が行われています。でも、いくらヒトやマウスを解析しても、クマの冬眠時の代謝や、トカゲの驚異的な再生能力の秘密はわかりません。すなわち、これまでの主な生命科学の知見は、研究しやすい "モデル生物の知見" ということになります。
生命科学の技術は、近年凄まじい勢いで進化しています。たとえば、最新鋭のDNAシークエンサーを用いれば、ヒトゲノムをたった15分で解析可能です。さらに、今回紹介する論文の主題である "TALENs" 技術を用いれば、DNAのどこでも自由に改変出来るようになるかもしれません。
TALENとは
植物の病原菌(Xanthomonas)にはTranscription activator-like (TAL) effectorと呼ばれる遺伝子群が存在します。TAL effectorタンパク質は、34アミノ酸が繰り返した構造部分をもち、この繰り返し構造の1つ1つがそれぞれDNAのひとつの塩基を認識します(図1)。DNAには4種の塩基(A,T,G,C)がありますが、TAL effectorの繰り返し構造の13番目と14番目の2つのアミノ酸によって、DNA配列の結合特異性が決定されます。すなわち、各繰り返し構造の13-14番目のアミノ酸を選択する事で、人工的にTAL effectorを好きなDNA領域に結合させることが出来ます。このTAL effectorに、2量体のときDNA切断活性を示す酵素Fok Iと融合させたものをTAL effector nuclease (TALEN) と言います。このTALENを2つ近傍に結合させるように設計すると、Fok Iが二量体を形成し、2つのTALENの間のDNAを切断します(図2)。
切断が起こった後、修復が行われるのですが、その際、切断部位が多少削れるものや、新たに付加が入るものがみられます。さらに、切断部位近辺と相同の配列をもつ二本鎖DNAも加えると、相同組替えにより新たにDNA配列を加える事もできます(図3)。このようにして、TALEN技術を用いて人工的に変異を入れる事が可能になります。この技術を用いると、これまで遺伝子変異を起こさせる事が困難であった生物に対しても比較的容易に行う事が出来ます。
GoldyTALEN
本論文では、TALENタンパク質を短く改良したもの(GoldyTALEN)を利用して切断効率を上昇させ、さらに一般的な二本鎖DNAではなく一本鎖DNAで相同組替えを起こさせました。その際、一本鎖DNAの配列を本来のゲノムに数塩基余計な配列を加える事で、以前より高効率かつ特異的を高めた遺伝子変異ゼブラフィッシュの作製法の報告になります。
まだTALENs技術には問題点もあります。例えば、ヒトは生殖細胞を除いて、ひとつの染色体を対で持っています。そこで、同じ染色体両方に変異を加えない限り、完全な遺伝子ノックアウトにはなりません。また、遺伝子変異が入った細胞をどのように選択するのか、変異が入ったとしても遺伝子発現に影響が生じるのかは調べないと分からない等、越えなければならない課題もあります。しかし、GoldyTALEN法のような技術革新がこれからも続き、将来はTALENが誰にでも利用出来るようになる事を期待しています。そのような日が来れば、モデル生物ではないイルカの長く息を止めていられる秘密や、トカゲの尻尾の再生の不思議を、誰でも遺伝子レベルで詳細に解析する事ができるでしょう。あとは、大いなる情熱と、実験をする為の少々のお金(沢山か!?)さえあればね。

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