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腸に住んでいるある平凡な細菌によって大腸がんは引き起こされる!
論文紹介著者

田宮 大雅(博士課程 2年)
GCOE RA
微生物学・免疫学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Janelle C. Arthur/Science. 2012 Oct 5;338(6103):120-3.
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Arthur JC, Perez-Chanona E, Muhlbauer M, Tomkovich S, Uronis JM, Fan TJ, Campbell BJ, Abujamel T, Dogan B, Rogers AB, Rhodes JM, Stintzi A, Simpson KW, Hansen JJ, Keku TO, Fodor AA, Jobin C.
Intestinal inflammation targets cancer-inducing activity of the microbiota.
Science. 2012 Oct 5;338(6103):120-3.
論文解説
ヒトの腸内には100兆個もの細菌が存在しており、腸内で細菌同士が互いに協力し、腸内細菌叢とよばれるネットワークを形成して生息しています。そのネットワーク形成には細菌だけではなく、細菌と宿主であるヒトの腸管の細胞や免疫細胞とのつながりも重要になっています。たとえば、ヒトの年齢や食事、体調によっても腸内細菌叢は変化し、そのバランスが崩れた場合には病気の原因にもなったりします。
腸管内では常に細菌とヒトの細胞とは接触しており、免疫反応など様々な反応が起きています。免疫反応としての炎症は自らの体を細菌やウィルスから防御するために引き起こされますが、その炎症反応ががんの発症にも関わっていることが明らかになっています。
様々な研究により、いくつかのがん、特に大腸がんにおいて慢性炎症が危険因子として知られています。これまで、炎症細胞とそれらの細胞から産生される炎症性サイトカイン(解説)や活性酸素などが大腸がんの発生に関わっているのではないかと考えられてきました。しかしながら、今までは慢性炎症と大腸がんを結びつけるものははっきりとは理解されていませんでした。今回、筆者たちは「がん」と「炎症」と「腸内細菌」の3つに着目して、慢性炎症によって腸内細菌叢のバランスが崩れ、ある特定の細菌が増殖することで、その細菌によって産生される因子が大腸がんの発生を引き起こしていることを明らかにしました(図1)。
炎症によって腸内細菌叢が変化する
この論文では大腸がんを引き起こすために発がん剤としてazoxymethane(AOM)(解説)を用い、腸炎モデルマウスとしてIl10-/-マウスを用いて実験を行っています。IL-10とは抗炎症性サイトカインとして知られており、Il10-/-マウスはIL-10を産生することができません。結果として腸炎など炎症が起きやすくなっており、20週齢になったマウスは100%腸炎を発症します。筆者らは正常マウスと比較し、Il10-/-マウスの腸内細菌叢が異なっていることを見出しました。さらにIl10-/-マウスでは腸内細菌の種類が少なくなっており、逆にエンテロバクター科の細菌の割合が大きくなっていることがわかりました(図2)。エンテロバクター科の細菌には大腸菌も属しており、大腸菌はヒトにおいて炎症性腸疾患や大腸がんに関与していることが言われています。驚くべきことに、大腸菌は正常マウスの100倍にまで増加していました。
炎症状態において大腸菌が大腸がんの発生に関与している
大腸菌は大腸がんの発症にどんな役割を果たしているのでしょうか。筆者らは腸内細菌がまったく存在しない無菌Il10-/-マウスに大腸菌またはフェカーリス菌を感染させ、一種類の細菌のみ生息しているマウスを作製しました。大腸菌およびフェカーリス菌(解説)はどちらもIl10-/-マウスに感染させると、腸炎を引き起こします。これに発がん剤AOMを投与し、それぞれの細菌による大腸がん発生への影響を調べました。結果、腸炎の程度はどちらの細菌においても変化はみられませんでしたが、大腸菌においてのみ大腸がんの発生が認められました(図3)。
大腸菌の分泌するポリケチド合成酵素pksは宿主の細胞にDNAダメージを与える
筆者らは、大腸菌に存在しフェカーリス菌には存在していない何かによってがん化させる能力をもつのではないかと仮定しました。それらを比較した結果、宿主の細胞にDNAダメージを与えうるいくつかのタンパク質が大腸菌には存在し、フェカーリス菌には存在していないことを明らかにしました。その中の一つにポリケチド合成酵素(解説)pksがあり、pksはがん化作用のあるコリバクチン(解説)とよばれる物質を合成できることが知られています。
ヒトでも大腸がんや炎症性腸疾患の患者において、pksを持つ大腸菌の割合は有意に高くなっていることが明らかになりました。そこで、pksを持たない大腸菌を作り出し、pksの大腸がんへの関与を調べたところ、pksを持たない大腸菌を感染させたマウスでは、pksを持つ大腸菌を感染させたマウスよりも大腸がんの悪性度が低くなっていることが示されました(図4)。
まとめ
以上の結果より、大腸菌がpksを用いてコリバクチンを合成し腸管内の細胞にダメージを与えることによって、大腸がんの発生に関わっていることが明らかになりました(図1)。しかしながら、IL-10を産生できる正常マウスにpksを持つ大腸菌を感染させても大腸がんの発生はみられなかったことから、腸管内での「炎症」状態により「腸内細菌」叢のバランスを崩し、大腸菌などのある特定の細菌が増殖することが大腸「がん」の発生に重要であることが示されました。大腸がん全体がこのような一連の流れによって引き起こされているわけではないですが、この発見は大腸がんの発生のしくみの解明や予防に役立つことが期待されます。
用語解説
- ※1 炎症性サイトカイン:
生体内における様々な炎症症状を引き起こす原因因子として関与するIL-1やIL-6,TNF-αなどのサイトカイン。 - ※2 azoxymethane(AOM):
マウスやラットにおける大腸がんを強力に誘発させる物質。 - ※3 大腸菌・フェカーリス菌:
腸管内の常在細菌。 - ※4 ポリケチド合成酵素:
ポリケチドとは、アセチルCoAを出発物質とし、マロニルCoAを伸張物質としてポリケトン鎖を合成した後、様々な修飾を受けて生合成された化合物の総称。ポリケチド合成酵素によって生合成される。 - ※5 コリバクチン:
ポリケチドの一種。

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