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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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メラノーマのエキソソームで予後予測ができる?!

論文紹介著者

吉武 桃子(博士課程 4年)

吉武 桃子(博士課程 4年)
GCOE RA
歯科・口腔外科学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Hector Peinado/Nature Medicine.18, 2012 June: 883-891

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Hector Peinado, Masa Alec kovic, Simon Lavotshkin, Irina Matei, Bruno Costa-Silva, Gema Moreno-Bueno, Marta Hergueta-Redondo, Caitlin Williams, Guillermo Garcia-Santos, Cyrus M Ghajar, Ayuko Nitadori-Hoshino, Caitlin Hoffman, Karen Badal, Benjamin A Garcia, Margaret K Callahan, Jianda Yuan9, Vilma R Martins, Johan Skog, Rosandra N Kaplan, Mary S Brady, Jedd D Wolchok, Paul B Chapman, Yibin Kang, Jacqueline Bromberg & David Lyden

Melanoma exosomes educate bone marrow progenitor cells toward a pro-metastatic phenotype through MET.
Nature Medicine.18, 2012 June: 883-891

論文解説

メラノーマは皮膚癌のなかでも非常に悪性度が高いことで知られています。初期であれば外科的に切除することで完治を見込めますが、転移性のメラノーマになると、治療抵抗性となり、非常に予後が悪くなります。しかし、メラノーマの進行を予期できるマーカーは知られていません。転移能や進行を予期できるマーカーがあれば、治療の可能性が広がるのではないでしょうか?

今回の論文では、腫瘍由来のエキソソームがメラノーマにおいて原発腫瘍と転移の形成に果たす役割を解析しています。エキソソームとは、30~100nmの小型膜小胞であり、マクロファージや樹状細胞などの免疫細胞や癌細胞をはじめ、多くの細胞がエキソソームを分泌することで遠く離れた細胞まで情報を伝達しているといわれています。

エキソソームは脂質二重膜で囲まれた膜小胞で、分泌細胞由来の膜蛋白質と細胞質成分で構成されています。増殖因子受容体などの細胞膜表面に存在するタンパク質がエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、初期エンドソーム、引き続き後期エンドソームが形成されます。後期エンドソーム膜がさらに内向きにくびれて形成される小さな腔内膜小胞が細胞膜と融合することにより、細胞外へと開口分泌されます。このような機構で分泌される小胞がエキソソームと呼ばれます。最近、腫瘍由来のエキソソームは、腫瘍形成メディエーターであることが新たに明らかになりつつあります。

また、癌細胞が産生するサイトカインは肺などの転移先臓器で、骨髄由来の造血前駆細胞や間葉系幹細胞、内皮前駆細胞などの細胞を集め、線維芽細胞などの間質細胞を活性化させ、フィブロネクチンの産生により、癌細胞が転移しやすい環境 (pre-metastatic niche) を構築し、そこに癌細胞が転移巣を形成するという概念を今回の著者らのラボでは発表してきました。

今回はメラノーマの転移の形成において、骨髄細胞や、肺などの転移先臓器におけるpre-metastatic nicheの形成に腫瘍由来のエキソソームが関与しているのではないかという仮説のもと、解析を進めていきます。

ステージの異なるメラノーマの患者さんから抽出したエキソソームを比較すると、ステージ4でエキソソームの分泌量が多いことがわかりました。また、ステージ3、4の患者さんのエキソソームで特異的に発現しているタンパクがあり、またそのタンパクの発現の量によって、一部予後予測ができることがわかりました。非常に転移性が高いメラノーマのエキソソームは、受容体型チロシンキナーゼMETを介して、骨髄前駆細胞を絶えず「教育」することによって原発腫瘍の転移挙動を増加させました。メラノーマ由来のエキソソームはまた、転移前の部位(pre-metastatic niche)で血管漏出を誘導し、骨髄前駆細胞をMetが陽性である血管形成誘導型の表現型へと再プログラム化しました。エキソソームでのMet発現を低下させると、骨髄細胞の転移誘発的挙動が消失しました。特に、転移性メラノーマ患者さんの循環中にある骨髄前駆細胞では、METの発現が上昇していました。膜輸送とエキソソーム形成の調節因子である RAB27A は、メラノーマ細胞で高度に発現していることがわかりました。 Rab27A のRNA干渉による発現抑制はエキソソーム産生を低下させて、骨髄細胞の「教育」が阻止され、腫瘍増殖と転移が低減しました。進行した転移性メラノーマの患者さんから派生したエキソソームは、TYRP2、VLA-4、HSP70、MET、Rab27a蛋白質を高濃度に含んでいることがわかり、エキソソーム特異的なメラノーマの特徴を明らかにしました。これは、予後予測と治療に使える可能性があります。

このように、メラノーマにおいて、エキソソームの産生と輸送・骨髄細胞の誘導は腫瘍増殖と転移を促し、予後予測に重要で、転移過程における新たな治療管理に展望を与えることを示しています。

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