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細胞接着分子のインテグリンが血液の幹細胞の維持を制御する
論文紹介著者

外山 弘文(博士課程 3年)
GCOE RA
発生・分化生物学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Terumasa Umemoto/Blood. 2012 Jan 5;119(1):83-94.
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Umemoto T, Yamato M, Ishihara J, Shiratsuchi Y, Utsumi M, Morita Y, Tsukui H, Terasawa M, Shibata T, Nishida K, Kobayashi Y, Petrich BG, Nakauchi H, Eto K, Okano T. Integrin-αvβ3 regulates thrombopoietin-mediated maintenance of hematopoietic stem cells. Blood. 2012 Jan 5;119(1):83-94.
論文解説
造血幹細胞とインテグリン
今回は血液の元となる幹細胞、すなわち造血幹細胞(※1)におけるインテグリンという細胞表面タンパク質の機能を研究した論文を紹介させていただきます。Nカドヘリンという細胞同士の接着を担う分子が造血幹細胞の維持に働くことを以前に紹介しましたが、インテグリンはカドヘリンと同様に細胞接着分子の一つです。復習になりますが、造血幹細胞はヒトやマウスの成体において骨の内部の骨髄に低い頻度で存在し、血液の細胞を産み出す造血という機能を果たします。造血幹細胞は骨髄においてニッチと呼ばれる微小環境に存在し、周囲の多様な細胞と相互作用することで維持されると考えられています。これらの役割の一端を担うのが細胞接着分子と呼ばれる細胞同士の結合を媒介する分子です。
インテグリンは細胞の表面に存在するタンパク質で、細胞を細胞外の間質とつなぎ合わせ、細胞外からの情報を伝達する役割を担います。以前、著者らのグループは、インテグリンが造血幹細胞において、造血前駆細胞(※1)よりも高い頻度で存在することを発見しました。このことから、インテグリンが造血幹細胞の制御において重要な役割を果たすと考え、特にインテグリンαvβ3に着目して造血幹細胞における役割を解析しました。
インテグリンはα鎖とβ鎖からなる細胞表面のタンパク質であり、アミノ酸が連なって構成されます。形態的には活性型と非活性型があり、inside-out signal(細胞内から外への情報伝達)によって形を変えます(上図)。以前に、TPO(トロンボポエチン)(※2)というリガンド(※3)とその細胞膜上の受容体であるc-mplが血液中の巨核球の産生や造血幹細胞の数および機能の維持に必要であることが報告されました。今回の論文では、造血幹細胞における以下のような機序を検討し、明らかにしています。
造血幹細胞においてTPOのc-mplへの結合がinside-outシグナルを生じ、タリンがインテグリンαvβ3におけるアミノ酸配列の747番目のチロシン(Y747)と結合します。すると、インテグリンαvβ3は形態変化を起こして活性型となり、リガンドが結合しやすい状態になります。ここにリガンドが結合することでY747がリン酸化され、outside-inシグナル(細胞外から内への情報伝達)を生じます。このoutside-inシグナルが造血幹細胞の維持に必要であるという機構が解明されました。以下に根拠となるデータを解説します。
インテグリンβ3のoutside-inシグナルが生体内での造血幹細胞活性の維持に重要
前述の機構を調べるため、まずインテグリンβ3のアミノ酸を置換したL746A(746番目のアミノ酸ロイシンLをアラニンAに変化)、Y747A(747番チロシンYからアラニンAへ変異)それぞれのノックインマウス(※4)(解説)を用いて、それぞれの造血幹細胞の性質を解析しました。Y747A変異ではoutside-inおよびinside-outシグナルの両方が阻害されますが、L746Aではinside-outシグナルのみ阻害され、outside-inシグナルには影響を与えません。この2種の変異マウスの骨髄から造血幹細胞を分取し、致死量放射線照射したマウスの骨髄を置換する連続移植(※5)(解説)を行い、幹細胞の性質として重要な骨髄再構築能を検討しました。
その結果、L746Aの造血幹細胞は野生型マウスの造血幹細胞と同様の生着率を示した一方、Y747Aの造血幹細胞は一次移植、二次移植の両方で生着率が野生型マウスのものよりも有意に低い値を示しました。よって、インテグリンβ3のinside-outシグナル ではなくoutside-inシグナルこそが生体内における造血幹細胞の活性の維持に必要であることがわかりました(下図)。
インテグリンβ3のシグナルは生体外でTPO依存性に造血幹細胞活性を上昇
次に、インテグリンβ3とTPOの関連を調べるため、野生型マウスの造血幹細胞を5日間TPOあるいはSCF(※6)と共に培養し、骨髄移植して生着率を調べました。さらにそれぞれの培養系において、インテグリンαvβ3の媒介する細胞内シグナルを促進するインテグリンの抗体を添加しました。すると、インテグリン抗体はTPO存在下においてのみ造血幹細胞の生着率を上昇させました(下図)。
一方、Y747A変異マウスの造血幹細胞を同様にTPOとともに培養して移植しました。すると、TPOによるインテグリンβ3を介した幹細胞活性の上昇効果はY747A変異によって阻害されました(右図)。よって、インテグリンβ3シグナルはTPOに依存して造血幹細胞の活性を上昇させることが明らかになりました。
TPOが造血幹細胞のインテグリンαvβ3を活性化
さらに、野生型マウスおよびインテグリンβ3を欠損したマウスの造血幹細胞をTPOあるいはSCF存在下で18時間培養し、蛍光標識されたインテグリンのリガンドを解析しました。すると、TPOはリガンドのインテグリンへの結合を増強すること、そして特にインテグリンαvβ3による結合の増強効果が優位に存在することが示されました。すなわち、TPOが造血幹細胞上のインテグリンαvβ3の活性化を誘導することを見出しました。
インテグリンβ3はTPOのシグナルによって造血幹細胞を維持
これらの結果から、インテグリンβ3は造血幹細胞においてTPO―c-mplを介して活性化され、幹細胞の維持に働くと考えられ、インテグリンβ3およびそのリガンドが造血幹細胞ニッチの重要な構成要素となる可能性が示唆されました。今回の研究はNカドヘリンの研究と同様に、細胞接着分子が幹細胞のシグナル伝達に関与し、幹細胞の維持に寄与するという重要な役割を果たすことを示すものです。今後、幹細胞の維持・制御機構の解析が進むとともに、他の接着分子の寄与も明らかとなることを期待します。
用語解説
- ※1 造血幹細胞、造血前駆細胞:
造血幹細胞は血液中の様々な血球細胞を作り出す幹細胞で、分裂して自分のコピーを作る「自己複製能」と、他の細胞に自身の形態を変える「分化能」をもつ。造血幹細胞は自身を複製するとともに、白血球、赤血球、血小板など血液を構成する細胞を生み出している。造血幹細胞が分裂増殖して次の段階に形態を変えたものが造血前駆細胞であり、特定のより限定された細胞に形を変えていく運命にある。 - ※2 TPO(トロンボポエチン):
血液中の巨核球の産生ひいては血小板の形成を促進する造血因子であり、c-mpl受容体と結合するリガンドである。造血幹細胞の維持にも寄与すると考えられている。 - ※3 リガンド:
特定の受容体に選択的に結合することで細胞間あるいは細胞内の情報伝達を担う物質。受容体に特異的に結合することで特定の機能を果たす。 - ※4 ノックインマウス:
遺伝子を組み換えて挿入したマウス。ノックアウトマウスは目的の遺伝子を欠損させるが、ノックインマウスでは、遺伝子を組み換えて別の機能的な遺伝子を挿入する。今回の場合、インテグリンβ3のアミノ酸配列1つを失わせるのではなく、別のアミノ酸にするように、遺伝子を導入している。 - ※5 連続移植:
骨髄移植を一次移植、二次移植と連続して行い、目的の造血幹細胞が骨髄をどれくらい再生する能力を有するかを解析する実験のこと。一次移植では目的の細胞と別の指標を持つコントロールの細胞を混ぜて、放射線照射した受け手のレシピエントマウスに移植する。二次移植では、両者の細胞が混在している一次移植のレシピエントマウス骨髄細胞を別のレシピエントマウスに移植し、より幹細胞にストレスがかかった状態で骨髄を再生する能力を調べる。 - ※6 SCF:
造血幹細胞の維持および造血に重要な役割を果たす因子。

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