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Down症候群のiPS細胞の染色体数を修正する
論文紹介著者

山口 有(博士課程 2年)
GCOE RA
小児科学
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Li B. Li/Cell Stem Cell. 11(5):615-9. 2012 Nov
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Li LB, Chang KH, Wang PR, Hirata RK, Papayannopoulou T, and Russell DW. Trisomy Correction in Down Syndrome Induced Pluripotent Stem Cells. Cell Stem Cell. 11(5):615-9, 2012.
論文解説
今回は、頻度の高い染色体異常症であるDown(ダウン)症候群に関わるiPS細胞研究を紹介します。Down症候群の人から作られた21番染色体(※1)を3本もつiPS細胞から、2本もつiPS細胞を作ったという論文です。今後の研究への応用が期待されます。米国・ワシントン大学の研究グループが2012年11月に米国の雑誌 Cell Stem Cellで報告しました。
研究の概要
Down症候群は、筋肉の緊張低下や発達の遅れ、特徴的な顔立ちなど、多くの症状の組み合わせのことを指します。出生あたり700人に1人にみられ、21番染色体のトリソミー(1つの細胞に通常2本ある染色体が3本になっている状態)が原因です。Down症候群の合併症には、心疾患や認知障害、特定の白血病などがありますが、それぞれが起こる詳しいメカニズムは、まだよくわかっていません。特にDown症候群の人の神経細胞の変化などに関しては、これまで基礎的な研究が困難でしたが、iPS細胞技術を用いることで神経細胞など様々な細胞を作ることができるため、国内外の複数のグループが研究に取り組んでいます。
Down症候群に関するこれまでのiPS研究は、Down症候群の人から提供された細胞と、Down症候群でない人から提供された細胞を比較したものでした。しかし、その方法では21番染色体の数の違いだけでなく、個人差(21番染色体以外の遺伝子の違いや年齢、その他の環境による違い)の影響を受けてしまう可能性があります。
Down症候群の人から作られたiPS細胞(Down症候群iPS細胞)は、21番染色体が3本ありますが、まれに細胞分裂の過程で余分な21番染色体が自然に失われることがあります。今回、研究者らは、Down症候群iPS細胞に遺伝子操作を行うことで、21番染色体が1本失われて2本になった細胞(この状態を21ダイソミーといいます)を選別し、増やすことに成功しました。言い換えると、1人のDown症候群の人から、21トリソミーの細胞と、染色体数が修正された21ダイソミーの細胞を両方作ることができたことになります。
今回の技術はDown症候群の人の治療に直接役立てられるものではありません。しかし、こうした技術をDown症候群のiPS細胞研究に利用すれば、Down症候群の人の細胞の変化をより正確にとらえることができるようなると考えられます。
研究の概略図:論文から抜粋して改変
研究方法と結果
1. 21トリソミーのiPS細胞から21ダイソミーのiPS細胞を作った
研究者らは、次の方法で21トリソミーのiPS細胞と21ダイソミーのiPS細胞を作ることに成功しました(1.~3.は上の図に対応)。
- Down症候群の人から提供された細胞(21トリソミーの線維芽細胞)に4遺伝子を導入しiPS細胞をつくる。
- 21番染色体のAPP遺伝子の中に、アデノ随伴ウイルスベクター(※2)を使って新たな遺伝子(薬剤GCVによって細胞死を起こす遺伝子TKと、薬剤G418の存在下でも細胞を生存可能にする遺伝子NEOを融合させた人工的な遺伝子TKNEO:黄色)を組み込む。G418を加えて細胞を培養すると、遺伝子が組み込まれていない細胞、つまりNEO遺伝子が機能しない細胞は死ぬ。
その後、G418のない状態で培養を一定期間続ける。ごく一部の細胞から、自然に21番染色体が1本失われる。 - 更にGCVを加えて培養すると、遺伝子を組み換えた21番染色体が失われていない細胞(TK遺伝子が残っている細胞)は死に、21ダイソミーのiPS細胞が生き残る。
2. 薬剤選択で生き残った細胞は、21ダイソミーの細胞が最も多かった
上の図は模式的に書かれていますが、実際には薬剤GCVの選択によって生き残る細胞は21ダイソミーの細胞だけではありません。組み込んだ遺伝子に更に突然変異が起こってTKNEO遺伝子の機能が失われたり、更なる組み換えが起きてTKNEO遺伝子そのものが失われたり、何らかの仕組みでTKNEO遺伝子の発現が抑えられたりした細胞もTKが機能しないため、生き残ってしまいます。研究者らは、生き残った細胞株の遺伝子変化を調べ、ねらい通り、染色体の自然な喪失が起きていた細胞株が全体の77%と最も多かったことを確認しました。また、こうした現象が1万個の細胞に1個の頻度で起こることを確かめました。
3. 作った21ダイソミーの細胞を、21トリソミーの細胞と比較した
研究者らは、作った21ダイソミーの細胞と21トリソミー細胞の増殖や遺伝子発現など様々な特徴を比較しました。すると、21ダイソミーのiPS細胞は、21番染色体の本数以外の遺伝子が同一と考えられる21トリソミーのiPS細胞と比べて、増殖が速いことがわかりました。また、21トリソミーのiPS細胞では血管の異常と関連があるとされるACTA2遺伝子等の発現量が変化していたことがわかりました。また、過去の研究では21トリソミーの細胞は血液細胞への分化能に異常があることが示唆されていましたが、今回の比較では、培養した21ダイソミーのiPS細胞と21トリソミー細胞の間に血液細胞への分化能に違いは見られませんでした。
今後の課題と展望
今回の方法は、21番染色体の1本が自然に消失する現象を利用していると考えられるため、効率が悪く手間もかかっています。しかし、選ばれた21ダイソミーの細胞には遺伝子操作がされていない21番染色体が残るところが、この方法の長所の一つです。原理的に21番染色体の数だけが異なる細胞を比較する方法が示されたことは、今後のDown症候群のiPS研究に大きな影響を与えると考えられます。さらに、遠い将来には、染色体の数を修正した血液の細胞を移植するなどして、白血病になりやすいDown症候群の人の治療に役立てることが可能になるかもしれません。
用語解説
- ※1 21番染色体:
遺伝子はDNAの配列によって成り立っています。細胞の中では多数の遺伝子が連なって大きなまとまりをもった構造として存在しており、これを染色体と呼びます。ヒトでは約2万の遺伝子が、22種類の常染色体と2種類の性染色体に振り分けられています。常染色体は通常1つの細胞に2本ずつあり、大きいものから1番、2番・・と番号がつけられました。つまり、21番染色体は2番目に小さい常染色体という意味ですが、その後の研究で最も小さい常染色体だったことがわかりました。21番染色体にはおよそ300の遺伝子が存在すると考えられています。 - ※2 アデノ随伴ウイルスベクター( Adeno-Associated Virus:AAV ):
遺伝子の組み換えを行うときには、DNAの断片を目的の細胞に運んだり、複製させたりするのにウイルスを利用しますが、これをウイルスベクターと呼びます。今回の研究では、アデノ随伴ウイルスがベクターとして使われました。アデノ随伴ウイルスは、アデノウイルスなど他のウイルスの力を借りないと自己増殖ができないため、単独では病原性を持たないことが特徴の一つです。

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