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たった1つの因子の抑制で様々な細胞が神経に!?
論文紹介著者

斉藤 陽一(博士課程 1年)
GCOE RA
生理学教室(岡野研)
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Yuanchao Xue/Cell 152, 82-96, January 17, 2013
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Yuanchao Xue, Kunfu Ouyang, Jie Huang, Yu Zhou, Hong Ouyang, Hairi Li, Gang Wang, Qijia Wu, Chaoliang Wei, Yanzhen Bi, Li Jiang, Zhiqiang Cai, Hui Sun, Kang Zhang, Yi Zhang, Ju Chen, and Xiang-Dong Fu. Direct Conversion of Fibroblasts to Neurons by Reprogramming PTB-Regulated MicroRNA Circuits. Cell 152, 82-96, January 17, 2013
論文解説
iPS細胞の発見以来、転写因子などを導入する事により、細胞種を変化させるリプログラミングの研究が盛んに行われています。「線維芽細胞にES細胞特異的な転写因子を過剰発現させる事でES細胞様の細胞になるのでは?」という発想からiPS細胞という大発見が生まれましたが、同様に神経系の系譜においても複数の神経細胞特異的な因子(Ascl-1,Brn2,Myt1L,(NeuroD1))もしくはmicroRNA1(※1)(miR-124,miR-9)を線維芽細胞に過剰発現する事により神経系へ直接誘導する事が知られています(図1)。しかし今までは、成熟したニューロンを直接誘導させるには複数の因子の過剰発現が必要で、またどのようなメカニズムで神経系への直接誘導が起きるのかはよくわかっておりませんでした。
図1. 神経細胞特異的な転写因子やmicroRNAの過剰発現は
線維芽細胞からニューロンへの直接誘導を可能にする事が知られている
(Thomas Vierbuchen et al ., 2010; Zhiping P. Pang et al., 2011; Andrew S. Yoo et al., 2011)。
今回ご紹介する論文では、新規の1つだけの因子を制御するだけで様々な細胞を神経系へ直接誘導させる事が可能である事を明らかにし、さらに、その因子の今まで報告のなかった機能により神経系への直接誘導を行っていることを解明しました。その因子の名前はpyrimidine-tract-binding protein(以下PTB)というRNA結合タンパクです。PTBは先述のmiR-124のターゲットで、神経特異的なRNAのalternative splicing(※2)を抑制している事が知られております。発生段階におけるPTBの働きとして、神経系以外の系譜に分化する細胞においては、miR-124が働かず、神経細胞特異的なalternative splicingが行われず神経分化を抑制するのに対し、神経分化する細胞においてはmiR-124が働き、PTBを抑える事により、神経細胞特異的なalternative splicingが行われ神経系へ分化している事が知られています(図2)。
図2. 今まで明らかになっていたPTBの機能(Makeyev, E.V., 2007)。
筆者達は、ノックダウン(※3)という手法を用いて、様々な種類の細胞株のPTBの発現をin vitroで抑制する事を試みました。すると、おもしろい事に、ヒト子宮頸癌由来の細胞株 であるHeLa細胞やMEF(マウスの胎生線維芽細胞)を始めとした様々な細胞株で神経系への細胞系譜の転換が確認されました(図3)。
図3. PTBのノックダウンは様々な細胞種からニューロンへの直接誘導を可能にする
(原著論文 Fig 1 Aより一部改変)。
さらに、PTBをノックダウンした細胞とノックダウンしていない細胞の様々な因子のmRNAレベルの発現に関して定量的PCRを用いて確認したところ、過去の報告で過剰発現により、線維芽細胞からニューロンに直接誘導可能な事が知られている因子の上昇が確認されました(図4)。この結果から、PTBをノックダウンすると、何らかのメカニズムが働き、神経細胞特異的な因子の発現が上昇し、神経細胞への直接誘導が行われている事が明らかになりました。
図4. PTBのノックダウンは神経細胞特異的な因子のmRNAレベルでの発現を促進させる
(原著論文 Fig 3 Aより一部改変)。
またその後、CLIP(※4)という手法を用いて、PTBがどのような遺伝子のどの部分に結合しているかを調べたところ、CoRESTとHDAC1(共に、神経分化に重要なREST complexという複合体のキーになる因子)という遺伝子の3´UTR中に存在するmicroRNAの結合部位と一致する事がわかり、さらにPTBをノックダウンしたものではCoRESTとHDAC1のタンパク量も下がっている事が明らかになりました(図5)。これらの結果から、PTBはCoRESTやHDAC1といった遺伝子の3´UTRにmicroRNAと共に結合し、CoRESTやHDAC1といったREST complexの構成因子のタンパクの発現を上げる役割をしている事が明らかになりました。RESTはNRSF(Neuron-restrictive silencer factor)とも呼ばれ、REST complexは神経系への誘導を抑える役割をしている事が明らかになっているので、PTBのノックダウンによる神経系への誘導が説明できます。
図5. PTBはCoRESTとHDAC1のmicroRNA結合部位と同じ部位に結合し(上図)、
PTBをノックダウンするとCoRESTとHDAC1のタンパクの発現量が落ちる(下図)
(原著論文 Fig4 D, Eより一部改変)。
さらに、PTBをノックダウンした細胞とそうでない細胞に関して、SCP1(CoREST等と同様にREST complexの構成因子の1つ)のmRNAの発現量を調べるために、定量的PCRを行ったところ、PTBはmiR-124のSCP1に対する抑制機能を制御している事が明らかになりました(図6)。この結果から、PTBはSCP1のmiR-124によるタンパクの発現調節を制御している事がわかりました。
図6. PTBはmiR-124のSCP1に対する抑制機能を制御している
(原著論文 Fig 5 Cより一部改変)。
これらの結果から、PTBをノックダウンする事によりPTB自身がmiR-124に働きかけ、SCP1やCoRESTといった神経分化に重要なREST complexに影響を与えて、神経系発現遺伝子の発現を促進する事により神経系への分化転換が促進される事までを明らかにしました(図7)。このようなPTBの機能は本研究により初めて明らかになった知見です。今まで、マウス、ヒトの線維芽細胞などから神経系へ直接誘導させるといった論文は多数ありましたが、PTBというたった1つの因子の制御のみでニューロンを直接誘導できた点と、PTBを用いた直接誘導の現象を利用し、今まで報告のなかった神経誘導に関するメカニズムを明らかにしたという点が今回ご紹介した論文の新規性です。また、RESTは組織の腫瘍化やES細胞の初期分化に関与する事が近年の研究により知られており、本研究のようなRESTを介した新たなメカニズムの解明に関する研究の発展が楽しみです。
図7. これまでの知見と合わせた神経分化のメカニズム
(原著論文Fig 7 Hより引用)。
用語解説
- ※1 microRNA:
21‐24塩基程度のタンパク質をコードしない小分子RNAで他の遺伝子の発現制御を行うnon-cording RNAの一種。 - ※2 alternative splicing:
DNAが転写される際に、特定のエキソンをskipingしてsplicingを行う現象。mRNAにバリエーションを持たせる事により、1つの遺伝子から様々な転写産物を生成する事が可能になる。 - ※3 ノックダウン:
SiRNAやShRNAを導入する事により、ある特定のタンパクの発現を抑制する実験手法。 - ※4 CLIP:
microRNAのターゲットとしている部位とRNAに結合しているタンパク質を調べる方法。

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