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重度脊髄損傷後に移植した神経幹細胞が非常に長く軸索を伸長し、シナプス結合した!
論文紹介著者

西山 雄一郎(博士課程 1年)
GCOE RA
整形外科
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Paul Lu/Cell 150, 1264-1273, September 14, 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Long-distance growth and connectivity of neural stem cells after severe spinal cord injury.
Lu P, Wang Y, Graham L, McHale K, Gao M, Wu D, Brock J, Blesch A, Rosenzweig ES, Havton LA, Zheng B, Conner JM, Marsala M, Tuszynski MH.
Cell. 2012 Sep 14;150(6):1264-73.
論文解説
成体哺乳類の中枢神経系は一度損傷を受けると再生しないという定説が長い間信じられてきたが、中枢神経系の再生の研究がすすめられ、損傷した中枢神経系でも微小環境が整えば再生することが明らかとなってきた。
脊髄損傷とは、外傷などによる脊髄実質の損傷を契機に、損傷部以下の知覚・運動・自律神経系の麻痺を呈する病態であり、未だに有効な治療が確立されていないのが現状である。
その脊髄損傷に対し、神経幹細胞移植治療の研究が世界中で行われている。ラット神経幹細胞をラット損傷脊髄に、さらにヒト神経幹細胞をコモンマーモセット損傷脊髄に移植すると、運動機能の回復が得られた報告もある。さらに、マウスやヒトから得られ、様々な細胞に分化する能力を持つ多能性幹細胞のES細胞、iPS細胞から誘導した神経前駆細胞をマウスやコモンマーモセットの損傷脊髄に移植し、運動機能回復が得られた報告もある。
この論文では、ラットの神経幹細胞をラット損傷脊髄に移植し治療効果を調べた。
ラットの第3胸髄を完全切断し、脊髄損傷を作り、そこに胎生14日の神経幹細胞を移植したが、生着しなかった。移植片の生着を良好にするための工夫として、成長因子を含んだfibrin matrix(※1)という入れ物を用い、移植細胞をそのmatrixに入れ移植した。
移植後7週の組織学的評価では、移植細胞がそこに生着していることを確認し、神経3系統であるニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトに分化していた。そのニューロンは驚くほど多く、また、長く頭尾側方向に長く軸索(※2)を伸長した。さらに詳しく調べてみるとその伸長する軸索は移植後2日目までに出現し、1日1~2mmという早いスピードで白質内を伸展した。
緑色が移植された細胞です
驚くほど長く伸長した軸索です
移植細胞由来の軸索は宿主のオリゴデンドロサイトによって髄鞘化され、さらに前根にも軸索を伸ばしていたが、後根にはほとんどなかった。
移植細胞由来の軸索はボタン様の神経終末を形成し、宿主の樹状突起または細胞体にシナプス結合(※3)していた。しかも頭尾側とも。電子顕微鏡でも移植細胞由来軸索と宿主のニューロン・樹状突起とシナプス結合していることを確認した。
髄鞘を形成しています
シナプス結合が認められます
さらに、移植細胞由来の神経終末は興奮性、抑制性のどちらの神経伝達物質も有していた。移植神経幹細胞由来の軸索の豊富な投射は損傷部から正常脊髄に向かっており、シナプスを形成した。
ニューロンはNogoなどのミエリン関連軸索伸長阻害因子のレセプターを発現していたが、本研究では、軸索伸長が認められ、ミエリン関連軸索伸長阻害因子の不応性が考えられた。
近年、PTENという腫瘍抑制遺伝子が、ニューロンが持つ軸索再生の主たる抑制因子であることが同定された。そして、PTENはmTORという細胞内シグナル伝達に関与するものを抑制し、そのPTEN を欠損するマウスでは軸索再生が増強されたという報告がある。
mTORが軸索伸長のメカニズムに関与しているか調べるために、mTORの阻害剤であるラパマイシンを移植後2日間腹腔内注射したら軸索は50%に低下したが、移植細胞の生存率や分化に変化はなかったことから、mTORシグナルは初期段階においてニューロンから軸索伸展を促すと考えられた。
また、宿主の軸索も移植細胞に入り込んでいた。宿主の上位からの軸索は移植片内で軸索伸展したが、それより尾側の宿主脊髄実質までは伸展しなかった。宿主軸索もまた、移植細胞にシナプス形成していた。
機能評価では、損傷後4週までは移植群も非移植群も障害があったが、損傷後5週(移植後3週)で移植群は機能回復し、損傷後8週までにプラトーに達した。この機能改善が、宿主軸索の移植片への伸長によるものかを確認するため、移植部位のすぐ尾側で再切断すると、一度回復した機能は再び低下した。
電気生理学的検査をすると、正常ラットでは潜時(※4)は3.42秒だったが、第3胸髄完全切断では、消失した。神経幹細胞を移植したラットのうち2/3は、多数のシナプス形成の結果、潜時が回復し5.47msだった。
また、移植群の振幅(※5)は0.09mVで正常群の0.27mVより小さかった。再切断したラットでは強い刺激を与えても活動電位は完全に消えた。NMDA受容体ブロッカーであるキヌレン酸(シナプスをブロック)を移植後7週で投与すると振幅は50%に低下したが、潜時は影響しなかった。つまり、尾側への伝達へはシナプスを経由することが必要であった。
青が移植されたラットの機能回復の程度です
非移植群と比べると機能回復していることがわかります
免疫拒絶反応の起きないラットにT3完全切断を作り、1週後にヒト神経幹細胞を上述と同様の方法で移植し、機能評価、組織解析を行った。ちなみにこのヒト神経幹細胞はすでにALS臨床試験に使われている。
すると、移植片は生着し、頭尾側方向に軸索をのばし、宿主とシナプス結合していた。腫瘍形成は確認されず、機能回復も得られた。
ヒト神経幹細胞でも驚くほど伸長した軸索を認めます
機能も回復しました
要するに、この論文は、神経幹細胞を重度の脊髄損傷に移植したら、驚くほど長く軸索を伸ばし、シナプス結合することで、脳からの命令が回復した脊髄を通って伝わり、運動機能を回復させたという内容で、組織解析や、電気生理学的検査などから、移植した細胞が重要であることを突き止めました。また、いつごろから軸索が伸長するかなどを明らかにし、mTORシグナルというものの関与も示唆されました。
筋萎縮性側索硬化症という病気の臨床試験にも使われているヒト神経幹細胞を用いたことで、脊髄損傷の臨床応用にも期待が持てる内容になっています。
用語解説
- ※1 fibrin matrix:
この論文では、完全切断部に細胞をそのまま移植してもうまく生着しなかったため、fibrin matrixという入れ物に細胞を入れ、それを切断部に移植することでうまく生着させた。さらにこの入れ物に成長因子を多く含めさせ、細胞が生存しやすい環境を作っている。 - ※2 軸索:
ニューロンの一部で、神経細胞からのびる長い突起。終末はシナプス結合して神経の命令を伝えていく。 - ※3 シナプス:
ニューロンとニューロンの間隙。電気信号が終末に伝わると、化学物質を放出し、間隙を介して次のニューロンへ電気信号へ変換されて命令が伝わる。 - ※4 潜時:
刺激を与えてから反応が起こるまでの時間。潜時の消失とは刺激が伝わらなかったということ。 - ※5 振幅:
その反応の大きさ。

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