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筋幹細胞の静止状態はmiRNA-489により維持される
論文紹介著者

丹藤 世身(博士課程 1年)
GCOE RA
整形外科
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Tom H. Cheung/Nature. 2012 Feb 23;482(7386):524-8. doi: 10.1038/nature10834.
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Cheung TH, Quach NL, Charville GW, Liu L, Park L, Edalati A, Yoo B, Hoang P, Rando TA. Maintenance of muscle stem-cell quiescence by microRNA-489.
Nature. 2012 Feb 23;482(7386):524-8. doi: 10.1038/nature10834.
論文解説
背景
成体幹細胞と分化した子孫細胞の違いとして、成体幹細胞は長期間にわたり細胞分裂停止状態を維持することが出来るという特性があります。しかし、幹細胞の細胞分裂停止状態を維持するメカニズムについてはまだあまりわかっていません。この論文では、細胞分裂停止状態に維持するメカニズムについてマイクロRNA(miRNA、遺伝子発現抑制に関与する短いRNA)(※1)に注目して、その作用を明らかにしています。
本論文では、成体マウスの筋幹細胞(筋衛生細胞)をモデルとしてmiRNAの解析を行っております。筋幹細胞は筋の細胞膜間に存在する未分化の細胞のことです。通常、筋幹細胞は細胞分裂停止状態ですが、筋が損傷した時などに活性化され、細胞分裂周期が再開し、分裂、分化し、筋を再生させています。
具体的な実験では、次のようなことをしております。
はじめに、筋幹細胞の細胞分裂停止状態にmiRNAが関与しているのか明らかにするために、miRNAの成熟に関与する酵素を筋特異的に欠損させた遺伝子改変マウスを作製し、その解析を行いました。この遺伝子改変マウスでは、筋幹細胞は自発的に細胞分裂停止状態を脱して細胞分裂が再開することが明らかとなりました。このことからmiRNAが、筋幹細胞が細胞分裂停止状態にあるために必要であることが示唆されます。さらにどのようなmiRNAが関与しているのか明らかにするために網羅的な解析を行い、いくつかの候補のうちmiRNA-489(miR-489)が細胞分裂停止状態の筋幹細胞に高く発現しており、筋幹細胞の細胞分裂再開に際して発現が低下することがわかりました。さらに通常のマウスより採取した筋に電気穿孔法によりmiRNA-489を高発現するように処置を行うと筋幹細胞が分裂しないため通常と比較して細胞数が減少し、損傷した筋の再生ができないことがわかり、このことからmiRNA-489が筋幹細胞を細胞分裂停止状態に保ち、分裂を抑制しているということがわかりました。
ではmiRNA-489はどのような働きで筋幹細胞を細胞分裂停止状態に保つのかということについて、さらに実験が行われました。解析の結果、miRNA-489のターゲットとしてがん遺伝子の一つであるDekが候補にあげられたため、Dekについて実験を行いました。その結果、細胞分裂停止状態の筋幹細胞ではDekの発現が少なく、細胞分裂が再開した筋幹細胞ではDekが高発現していることがわかりました。さらに、通常のマウスにDekの作用を抑制する処置を行ったところ、筋幹細胞の減少と、細胞分裂の抑制がみられました。これらのことからDekは筋幹細胞の分裂、分化を抑制し、細胞分裂停止状態に保つうえで重要な役割をもっていることがわかりました。
また、幹細胞は自身の複製と、分化していくための細胞に非対称分裂を行うことが知られていますが、筋幹細胞が分裂するのに際し、一方の細胞にしかDekは発現せず、Dekが発現している細胞が分化に向かい、Dekが発現していない細胞が自己複製をしていることがわかりました。
以上のことから、筋幹細胞の細胞分裂停止状態を維持するにはmiRNA-489が必要であり、miRNA-489はDekを介してその作用を表していることがわかりました。
今回の研究では、幹細胞が静止状態を維持するために必要な分子が同定されました。今回は筋幹細胞でしたが、いろいろな幹細胞に対し特定の因子が関わっていることが考えられており、今回のような実験で今後も多くの因子が同定・解析されていくと思います。まだ不明な部分も多いため、これからでも十分に活躍できる分野だと思います。
用語解説
- ※1 miRNA(マイクロRNA):
DNAから転写されるRNAのうち、タンパク質をコードせず、翻訳されたタンパク質を分解したり、他の遺伝子の転写を抑制したりする働きをもつ。

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