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発癌機序における"はじめの一歩"
論文紹介著者

高本 やよい(博士課程 2年)
GCOE RA
先端医科学遺伝制御部
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Cheuk T. Leung/Nature 482: 410-13, 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Leung CT, Brugge JS. Outgrowth of single oncogene-expressing cells from suppressive epithelial environments. Nature. 482(7385):410-3,2012
論文解説
発癌の最初のステップの一つとして、正常細胞に対するDNA損傷が挙げられる。
DNAは遺伝情報の担い手であり、その正確な複製と子孫への伝達は生物の本質的特性の一つである。DNAは放射線、紫外線、ストレス、喫煙などの外的要因や細胞の代謝過程で生ずる活性酸素、細胞分裂に伴う2本鎖DNAの切断など内的要因によっても絶えず損傷を受けている。生物はこのようなDNA損傷に対し多様なシグナル伝達機構により細胞周期を停止して損傷を修復し(チェックポイント機構)、修復不能な場合には細胞死(アポトーシス)を誘導し、損傷によって生ずる突然変異の蓄積を回避する機構を備えている。その他、免疫機構、細胞-細胞間の相互作用も、重要な役割を担っている。このようなDNA損傷に関わる機構の破綻は、癌をはじめとする広範な疾患の原因となると考えられている。
人の身体では、癌細胞が容易に形成され・増殖しないように、上記のような異常細胞を淘汰するための数多くの非常に厳しい制御システムを有している。しかしながら、一部の細胞はこれらの制御システムを逃れ、増殖・進化・分化し、heterogeneous(※1)を有する癌へと進展すると考えられている。(図1)
図1
この論文では、1個の変異細胞が、いかにして細胞、組織が有する癌を淘汰するための制御システムから回避し、増殖していくかという癌の"はじめの一歩"に焦点を当てた報告である。
Cheuk T. Leungらは、MCA10Aというヒトの乳腺の樹立細胞株を用いている。MCA10Aは、正常の乳腺上皮個細胞であるが、16日間培養をすると、極性、基底膜を有する乳管構造を呈したところで、成長が停止する樹立細胞株である。
この乳管構造を形成したMCA10Aに対して、細胞周期におけるチェックポイントを破綻させ、癌化に関与することで知られるHPV16-E7、CyclinDT286A、多くの癌種でその活性化を認めるmyc、Akt、乳癌の約20%で高発現を認めるERBB2を、乳管上皮細胞の1個にのみ遺伝子導入した。増殖を来したのは、ERBB2を高発現させた乳管上皮のみであった。(図2)
図2
その細胞群を観察すると、乳管上皮層から移動し、乳管の管腔内に細胞がTranslocation(移動)し、増殖していることが示された。また、ラミニンやインテグリンで形成される基底膜は保たれており、細胞間接着を司るE-カドヘリンも保たれていた。その電子顕微鏡の所見は、早期の乳癌である非浸潤性乳管癌と非常に似た病理学的形態を示していた。ERBB2でのみ細胞増殖が可能であったメカニズムを考える上で、ERBB2の下流にある2つのメジャーなpathwayに注目し、解析を行った。(図3)
図3
Ras→Raf→Mek→MAPK→ETS1→MMPの細胞内シグナル、特にマトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase、MMP) (※2)が、変異細胞の乳管管腔内へのtranslocationに重要な役割を担っていることがわかった。また、そのtranslocationこそが、正常乳管上皮細胞の制御系から逃れるための"はじめの一歩"であると考えられた。
しかし、実際にtranslocationを起こした足場のない細胞は、アノイキスというアポトーシスのプログラムに入るとされている。ERBB2が過剰発現した細胞において、なぜ細胞がアノイキスを来さずに増殖可能であるかについて検討したところ、PI3-K→AktのpathwayにおけるAktの活性化がkeyとなっていることがわかった。Aktの活性化には、抗アポトーシス効果と細胞増殖の作用がある。(図4)
図4
MMPによるTranslocation、そしてAktによるアポトーシスを回避し、増殖する作用こそが、ERBB2において1個の細胞が非常に厳密な正常を維持しようとする制御機構を逃れる、癌細胞へのはじめのステップであることが示された。
用語解説
- ※1 heterogeneous:
不均一な状態。 - ※2 マトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase、MMP):
コラーゲンやプロテオグリカン、エラスチンなどから成る細胞外マトリックスの分解をはじめとし、細胞表面に発現するタンパク質の分解、生理活性物質のプロセシングなどその作用は多岐にわたる。 - ※3 アポトーシス:
個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死

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