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核酸医薬は実現するか~筋強直性ジストロフィー治療の可能性~
論文紹介著者

大塚 貴文(博士課程 1年)
GCOE RA
生理学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Thurman M. Wheeler/Nature. 488, 111-115, 02 August 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Wheeler TM, Leger AJ, Pandey SK, MacLeod AR, Nakamori M, Cheng SH, Wentworth BM, Bennett CF, Thornton CA. Targeting nuclear RNA for in vivo correction of myotonic dystrophy. Nature. 2012 Aug 2;488(7409):111-5.
論文解説
背景
核酸医薬とはDNAやRNAなどの核酸をその骨格にもつ医薬品で、アンチセンスやリボザイム、デコイ核酸など様々な手法が試みられており、いずれも特定の塩基配列やそれに結合するタンパク質を標的としているため、非常に特異性が高いという利点があります。
本論文で治療対象としている筋強直性ジストロフィー(DM1)は、筋細胞で発現するミオトニンプロテインキナーゼ(DMPK)遺伝子の3'非翻訳領域でCTG反復配列が増幅していることが原因とされています。CTG配列の増幅によって、転写産物であるmRNAが核内に蓄積し、MBNLやCUG-BPといったRNA結合タンパク質(※1)に結合し、クロライドチャネルや筋小胞体カルシウムATPアーゼといった筋肉の収縮・弛緩に重要なタンパク質遺伝子のRNAスプライシング(※2)の異常を引き起こすことが病態の原因であることが報告されています(図1)。
図1 DM1患者筋細胞核内での異常mRNAの蓄積とそれがもたらす病態
従来のような一つのタンパク質だけを標的とした医薬品ではこのような疾病の根本的治療は不可能でした。そこで、筆者らはアンチセンスオリゴヌクレオチド(※3)(ASO)と呼ばれる核酸医薬によって、核内に蓄積する有害なmRNAを分解してしまおうという戦略をとっています。ASOを用いたDM1の治療は、異常なmRNAのCUG反復配列部分に対するASOが既に試みられていますが、筋細胞への取り込みが非常に少ないため、生体に用いることができるレベルでは成功していませんでした。
方法
筆者らは、筋強直性ジストロフィー(DM1)の動物モデルとして、HSALRマウスを用いています。このマウスはhACTA遺伝子(筋細胞で恒常的に発現するヒト遺伝子)3'側CTG反復配列を220回に増幅したものをゲノム中に組込んだトランスジェニック動物(※4)で、筋細胞でCUG配列が増幅したmRNAが発現することによって、DM1同様の症状が現れます。
また、ASOは分解されやすく、骨格筋や心筋細胞には取り込まれにくいという難点がありましたが、筆者らはリボースのホスホジエステル結合をホスホロチオエート化し、さらにASO両端の5ヌクレオチドのリボース2位炭素をメトキシエチル化することでRNaseに対する安定性を向上させ、筋細胞への取り込みを促進しています(ただし、中心の10ヌクレオチドに関してはRNaseH1による標的mRNAの分解を誘導するため改変を加えていません。これをMOE gapmerと呼んでいます(図2))。
図2 ホスホロチオエート化とメトキシエチル化したASO(MOE gapmer)とその作用機序
これらの工夫によって皮下投与でも筋細胞にASOが届き、さらに投与後一年以上体内に残存することが示されています。
結果
筆者らはHSALRマウスにhACTAのmRNAに対するASO(MOE gapmer)を投与したところ、筋細胞の核内に蓄積した異常なmRNAが特異的に分解され、さらにクロライドチャネルや筋小胞体カルシウムATPアーゼのPre-mRNAスプライシングも正常化することを確認しました。また、筋電図測定によって強直性ジストロフィーに診られるミオトニー電位が解消することも明らかとなりました。さらに、これらの効果は、ASOを投与して1年後でも継続しており、安定性の向上も示されています(図3)。
図3 ASOによる異常なmRNAの分解とスプライシング正常化、筋強直の解消
ただしASOによるmRNAの分解効果は、主に核内で働くRNaseH1という酵素に依存するため、細胞質などに標的mRNAがいる場合は分解効果が得られないことが示唆されています。
まとめ
図4 ASOによるDM1治療のメカニズム
異常なmRNAが核内に蓄積することで引き起こされる筋強直性ジストロフィー(DM1)は、ASOによるRNaseH1を介したmRNAの分解に非常に感受性が高いことが示唆され、モデルマウスに対するASO皮下投与では高い治療効果が得られました(図4)。これはDM1同様に核内に異常なmRNAが蓄積することが原因となる疾患に対して応用できる可能性を示しています。
用語解説
- ※1 RNA結合タンパク質:
細胞内でmRNAと結合することでRNAスプライシングを制御したり、細胞質での分解を抑制するなど多様な機能をもつタンパク質の総称。細胞内での局在とターゲットmRNAへの結合位置によってその機能は変化する。 - ※2 RNAスプライシング:
核内でDNAがPre-mRNAへ転写された後、イントロンの除去とエクソンの再結合が行われる。選択的スプライシングでは、複数あるエクソンの一部はイントロンと共に選択的に除去される。 - ※3 アンチセンスオリゴヌクレオチド:
標的となるmRNAの一部と相補的な配列をもつ人工的に合成された核酸配列。 - ※4 トランスジェニック動物:
外部から人為的に特定の遺伝子を導入した遺伝子改変動物。

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