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脊髄不全損傷後におこる、残存神経ネットワークの代償機能
論文紹介著者

近藤 崇弘(博士課程 2年)
GCOE RA
生理学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Ephron S Rosenzweig/J Comp Neurol, 2009 vol. 513 (2) pp. 151-163
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Extensive spinal decussation and bilateral termination of cervical corticospinal projections in rhesus monkeys.
Ephron S Rosenzweig, John H Brock, Maya D Culbertson, Paul Lu, Rod Moseanko, V Reggie Edgerton, Leif A Havton, and Mark H Tuszynski
J Comp Neurol, 2009 vol. 513 (2) pp. 151-163
http://doi.wiley.com/10.1002/cne.21940
論文解説
概説
交通事故などで脊髄不全損傷を起こした場合、運動機能障害を呈するが、その後リハビリテーションによりある程度その機能が回復することが知られている。これは残存した神経が代償して機能することによると言われている。しかしそのメカニズムは詳細にはわかっておらず、それを解明するための研究が世界中の様々なグループで行われている。
今回はその中でも代表的なTuszynskiグループにより発表された論文をご紹介させていただきたい。
本実験ではマカクサルの右第7頸髄を半切し、その後の経過を行動評価、電気生理、組織学的に解析している。損傷を受けたマカクサルは術後4週間後に巧緻性機能が回復しはじめ、同時期に歩行機能の上昇も認めている。左右の脳に異なる神経トレーサー(fig1/左脳:D-A488、右脳:BDA)を注した結果、組織学的解析では非損傷側由来の軸索の伸長および活性化が認められ、これが運動機能回復に寄与していると考えられた。
fig1
方法と結果
本実験では、アカゲザルを3つの群にわけ、control群として損傷を加えずトレーサーのみ注入した群、short-term群として損傷後2週間後にsacrificeを行った群、long-term群として損傷後4-8ヶ月後にsacrificeを行った群に設定した。本実験のタイムコースを簡便に図に示す(fig2)。
fig2
手運動の回復と筋電図
アカゲザルがplatformに置いてある餌を損傷側の手を使って取る際の成功率と、そのときの筋電図を測定した(fig3b)。損傷後4週までは手の筋肉を動かすことが出来ないが、4週から動かすことが可能となる(fig3a)。手の筋肉群が協調的に動かすようになるにつれて餌取りの成功率は上昇し、12週移行plateauになる(fig3a,c)。
fig3
図の用語説明
EDC:総指伸筋
FDS:浅指屈筋
FPB:短母指屈筋
Reaching:上肢が動いてから餌にタッチするまで
Retrieval:タッチしてから口に運ぶまで
歩行機能の回復と筋電図
体重を支えた状態でトレッドミル上を歩行させ、その際の上肢の各関節の動きおよび筋電図を測定した(fig4)。4週目までは歩行を行うことが出来なかったが、4週以降に手の筋肉が動かすことができるようになると、軽度歩行用運動がみられるようになった(fig4a:下段2つ)。このときは屈筋と伸筋の協調運動がうまく動員されないが、週数が経過するにつれ協調運動の回復もみられた(fig4a:24週)
同様の検査を下肢においても施行し、4週以降の歩行機能の改善を認めている。下肢の伸筋と屈筋の協調機能についても序所に回復を認めた(fig5)。
fig4
fig5
図の用語
TA:前頸骨筋(足関節背屈)
Sol:ヒラメ筋(足関節底屈)
神経トレーサーによるトレーサー解析
左右の脳に異なるトレーサーを注入することにより、左右どちらの皮質脊髄路が機能回復に影響を与えているかを確認した。図では左脳に注入したトレーサーによる神経標識を確認している。左脳から下降してきた軸索が右脊髄で標識されていることが確認できる。(fig6 d)。Short群ではその軸索の密度が非損傷側群の75%未満まで減少しているがlong群では約60%程度までその密度の回復を認めている(fig6 i)。ただし、その軸索の数はshort群からlong群にかけて上昇は認められず、軸索の数が増えることではなくすでに存在した軸索が活性化により密度が上昇したものと考えられている(Fig7)。また、右脳からの軸索投射(BDA標識)についても同様にlong群での軸索密度の上昇を認めている。
fig6 d
fig6 i
fig7
結論
以上の結果より、彼らは霊長類において、すでにmidlineを越えて存在する軸索がsproutすることによって、運動機能の回復をするということを示した(fig1)。
本研究では自然経過における運動機能回復のメカニズムに注目しているが、今後は治療による運動機能回復のメカニズムを解明する必要がある。霊長類においてそのような報告はほとんどなく、今後の研究の中心になってくるであろう。
用語解説
- 皮質脊髄路:
大脳皮質から脊髄へと直接下降する軸索の通り道のことをいう。ヒトやマカクザルなどのような霊長類の皮質脊髄路は加藤な動物のそれよりも非常に発達している。皮質脊髄路の9割近くは延髄で反対側に乗り換え下降していくが、一部は下降せずに同側の脊髄を下降する。また、反対側を下降した軸索も脊髄レベルにおいて脊髄のmidlineを越えて同側の灰白質に終末するものもあり、この片側脳からの皮質脊髄路の両側投射が脊髄損傷後の自然回復に影響を与えるのではないか、という報告がTuszynskiグループからされている(fig8/Rosenzweig et al.,J Comp Neurol 2008)。 - 神経トレーサー:
神経回路を標識するためのツール。細胞体に取り込まれたトレーサーはその後軸索輸送により軸索終末まで輸送され、その通り路を標識することができる。そのなかでもBDAやD-A488などのデキストラン系のトレーサーは、単一の神経軸索を終末部まで高感度に追跡することが可能な順行性神経トレーサーである。

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