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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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脊髄損傷後の機能回復には自発的なリハビリが効果的

論文紹介著者

張 亮(博士課程 3年)

張 亮(博士課程 3年)
GCOE RA
リハビリテーション医学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Rubia van den Brand/Science.;336:1182-5:2012

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

van den Brand R, Heutschi J, Barraud Q, DiGiovanna J, Bartholdi K, Huerlimann M, Friedli L, Vollenweider I, Moraud EM, Duis S, Dominici N, Micera S, Musienko P, Courtine G. Restoring voluntary control of locomotion after paralyzing spinal cord injury.Science. 2012 Jun 1;336(6085):1182-5.

論文解説

背景

脊髄完全損傷し、神経伝達機能が完全に絶たれると、損傷部位以下の運動と感覚機能が障害を受け、その後遺障害からの回復が困難であり、臨床現場でも根本的な治療法は存在しないのが実状である。損傷した部分より長い神経が再生し、再生した神経が元の歩行を制御している中枢の領域に繋がることが、歩行機能の回復には重要とされるが、その方法は多くは知られていない。近年、リハビリテーションの治療が中枢神経系の可塑性(※1)をもたらし、機能回復に寄与すると示唆されているが、そのメカニズムはまだ解明されていないところが多い。本論文は、ラットを用い、意識的な訓練を行うことで、損傷した神経を再建し、自発運動をコントロールできるようになると報告している。

方法

  1. ラットの脊髄に損傷を与える。
  2. 二つの方法でリハビリをする。
    1. Involuntary training: 受動的(無意識)なトレーニング
    2. Involuntary training + neuroprosthetic training program:受動的(無意識)なトレーニング+自発的なトレーニング(OG訓練:Fig.1)


Fig.1

結果

1.歩行能力の回復
Involuntary trainingは荷重機能と歩行能力を上昇させることができるが(Fig.2 i)、随意運動を再建させることができない(Fig.3 D)。一方、OG訓練のラットはoverground運動が再建できるだけではなく(Fig.3 D)、正常ラットに似た歩行もできるようになり(Fig.3 step1-9)、さらに障害物を越えることもできるようになった(Fig.3 C,G)。すなわち、OG訓練による随意運動が促進することができると示唆されている。


Fig.2


Fig.3

2. 神経回路の再構築
リハビリしたラットでは、しないラットに比べ、損傷部位の神経活動が増加する事が分かった(Fig.4)。この部分のCST(※2)も、OG訓練群のみ、有意な再生を認めた(Fig.5)。この神経回路の再構築は、脊髄内だけではなく、脳にも認められた。


Fig.4


Fig.5

3. 脳から歩行回路までの神経路の再建
運動皮質(※3)から電気刺激を与えて前脛骨筋に記録すると、リハビリしないラットは全く反応がないに対し、OG訓練群のラットでは電気反応が記録されてきた(Fig.6)。Involuntary trainingの方法を加えてみたら、OG群ではさらに振幅が上昇することが認められた(Fig.6 EF)。


Fig.6

結論

脊髄損傷後には、歩行中枢を刺激し、自発的なリハビリを行う事で脳からの神経軸索が再び損傷部につながり、運動機能が回復するということを示した。自発的にリハビリに参加することで、中枢神経の可塑性をもたらし、運動機能の回復が期待されることができると示唆されている。

用語解説

  • ※1 中枢神経系の可塑性:
    中枢神経系の機能や構造が遺伝情報によってすべてが決定されているわけではなく、生後の種々の内的・外的環境によって変化する能力。
  • ※2 CST:
    皮質脊髄路、大脳皮質から脊髄にかけて走行する軸索(神経線維)の大きな束(伝導路)のこと。錐体路(英:pyramidal tract)ともいう。
  • ※3 運動皮質:
    中心前回の背側部と中心溝の前壁にあたる。

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