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体細胞リプログラミングにおける遺伝子発現調節の解析からわかること-single cellで見てみようの巻-
論文紹介著者

木下 泰輔(博士課程 2年)
GCOE RA
発生・分化生物学
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Yosef Buganim/Cell 150, 1209-1222, September 14, 2012
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Yosef Buganim, Dina A. Faddah, Albert W. Cheng, Elena Itskovich, Styliani Markoulaki, Kibibi Ganz, Sandy L. Klemm, Alexander van Oudenaarden, and Rudolf Jaenisch.
Single-Cell Expression Analyses during Cellular Reprogramming Reveal an Early Stochastic and a Late Hierarchic Phase.
Cell 150, 1209-1222, 2012
論文解説
iPS細胞やES細胞(※1)など、理論上どの系統の細胞にもなることができる多能性細胞は、再生医療において重要な役割を担うとして注目されており、特に、皮膚や血球の細胞から多能性細胞を作りだすことができるiPS細胞技術は熱心に研究が進められています。
細胞が多能性を獲得する過程において、どんなことが起きているのか。この疑問にはこれまでも多くの研究グループが取り組んできております。今回ご紹介する論文では、筆者らは「単一細胞での遺伝子発現解析」を「多能性獲得過程のいろいろな段階で」行うことで、その一端を明らかにしています。
研究の背景。
体細胞がどのようなメカニズムで多能性を獲得しiPS細胞になるのかについての研究は、iPS細胞がどのような細胞からできるかについての研究とも密接に関わってきますが、いまのところ、多くの細胞でリプログラミング(※2)が開始されるものの、確率論的な問題でリプログラミングが完遂し多能性を獲得する細胞はごく一部に留まるという確率論モデル(Stochastic model)が有力だと考えられています(※3)。
その過程は完全にずっとランダムで細胞ごとにバラバラなのかというと、そうでもないようです。リプログラミングされていく過程で徐々に、同じく多能性をもった細胞であるES細胞で見られる特徴的な性質が備わっていきます。その過程を開始、成熟、安定化(initiation, maturation, stabilization)の3つの段階に分けて捉える考え方もありますが、例えば遺伝子の発現量変化については、もとの細胞の遺伝子発現が消えていき、代わりに多能性に関係する遺伝子の発現がみられるようになり、また、その中でもどの遺伝子は早くから発現がみられ、どの遺伝子は発現が遅い、といった具合のことが起きています。
iPS細胞の誘導効率は低いため、培養皿の細胞をまるごとごそっと回収して解析した場合、リプログラミングが進んでいない多数の細胞の結果に、リプログラミングが順調に進んでいる少数の細胞の結果が埋没することや引き摺られてしまうことが考えられます。筆者らは今回、単一細胞での遺伝子発現解析を行うことでこの障壁を回避しており、リプログラミングの際の遺伝子発現について後期での順序だった、階層的なメカニズム(sequential or hierarchical mechanism)を提示しています。
論文で示唆されたこと。
単一細胞での遺伝子発現解析はこれまでにもいくつかの研究で用いられていますが、体細胞からiPS細胞への転換における細胞の性質と分子的な変遷を解析するのには用いられていませんでした。
今回の実験の結果を筆者らは以下のようにまとめています。
- 初期のコロニーの姉妹細胞は著しい多様性を示し、遺伝子発現において特定の順番・規則は見出せませんでした。これはプロセス初期の遺伝子活性が確率論的メカニズムに則っているという説を支持します。
- 一方で初期段階の遺伝子の活性が"予測的な遺伝子(Predictive markers)"の活性化につながり、Sox2遺伝子の活性化へと続いていくことが示唆されました。
- この予測的な遺伝子としてEsrrb、Utf1、Lin28、Dppa2の4遺伝子が候補として示されました。これらの遺伝子発現は、これまでに同様なマーカーとして提示されているFbxo15やFgf4、Oct3/4よりも厳密にリプログラミングの状態を表している、としています。
- 後期の段階はより順序立った、階層的な遺伝子発現のメカニズムに制御されていることが示唆されました。単一細胞データを基に作成したBayes network modelから、Sox2の活性化が多能性状態へ導く連続したステップを開始させるというモデルが示されました。
行った実験について。
この論文で行われている実験について少し詳しく見てみましょう。
筆者らは発現を確認する遺伝子の候補として、もととなる細胞に特徴的な遺伝子や多能性関連の遺伝子、細胞周期制御因子などから48個を選んでいます。
材料とする細胞はマウスの胚性繊維芽細胞(MEF)ですが、リプログラミング開始時点での細胞の状態をなるべく均一にするため、化合物(doxycycline; dox)を添加することで組み込まれたリプログラミング因子を発現させることのできるシステムを採用しています。
96個の細胞を分取して培養を続けたところ、7個の細胞からコロニーが形成されました。尚、この7つの中には最終的にiPS細胞を樹立できなかった、部分的なリプログラミングに留まっていたものもありました。これらの細胞について遺伝子発現を解析しました。
図は各ドットが細胞を示しており、色が暖色のものほどリプログラミングが進んだ状態を示しています。48の遺伝子なので48次元のところをPrincipal component(PC)解析で2次元に落とし込んでいます。図の右に位置しているもとの繊維芽細胞の側から、左に位置しているiPS細胞の側へ向かって、リプログラミング途中の細胞の性質が徐々に近づいている様子が確認されました。
遺伝子についても同様にPC解析を行っています。XY軸より数値が離れるほど遺伝子の発現量の変化が大きく、これによると、繊維芽細胞特有の遺伝子が右上の方に位置される一方、左下の方に多能性に関係する遺伝子が多く位置していることがわかります。これらの解析でリストされた遺伝子について、筆者らはさらに詳しく調べています。
まず、部分的なリプログラミングに留まっていた細胞では、Ctcfという遺伝子が高発現していました。この遺伝子を強制発現させるとiPS細胞の樹立が抑制されることから、Ctcfの発現量調節がリプログラミングに重要である可能性が示されました。
リプログラミング早期のマーカー遺伝子として知られているFbxo15やFgf4は、部分的なリプログラミングの細胞でも高発現しているので、リプログラミングの指標としては十分ではないことがわかりました。内在性のOct4の発現も同様でした。一方でEsrrb, Utf1, Lin28, Dppa2はiPS細胞で発現が高く、部分的なリプログラミングの細胞ではほとんど発現していないため、指標として適していると考えられます。
Sox2の発現について、リプログラミング開始直後の細胞や部分的なリプログラミングの細胞で発現しておらず、リプログラミングが進んだ細胞で高く発現していることから、リプログラミング後期の指標となることが示唆されました。
また、得られた遺伝子発現の解析から、Bayesian network modelを作成しています。ネットワークでつながった遺伝子の発現を測定、比較することで、このネットワークの確からしさを確認しています。
今回は細胞がリプログラミングされる過程に注目した論文を紹介しました。iPS細胞から分化誘導して作成した細胞、そして臓器を用いた再生医療への機運が高まっていますが、この論文のように、ベースとなるところの研究もさらに進展することが期待されるところであります。
用語解説
- ※1 ES細胞:
ES(Embryonic Stem; 胚性幹)細胞は、発生初期の胚盤胞期の内部細胞塊を取り出して樹立される細胞で、どの組織の細胞にも分化することができる多分化能と、その性質を維持したまま増殖することのできる自己複製能を備えていることが特徴です。 - ※2 リプログラミング:
語感としては細胞の性質を遺伝子導入などによって別の細胞の性質に「書き換える」ことですが、とくに、分化した細胞を未分化な状態に「初期化する」ことを指して使われることが多いです。 - ※3 確率論モデル(Stochastic model)とエリートモデル(Elite model):
iPS細胞の誘導効率の低さから、細胞のごく一部があらかじめ多能性を獲得できる性質をもっており遺伝子導入によってそれがiPS細胞になる、というエリートモデルも提案されています。しかしながら、神経幹細胞など未分化性のより高い細胞を材料にするとリプログラミング効率が良くなるという事実はありますが、最終分化した細胞、たとえば血球系の細胞や膵臓細胞からもiPS細胞が樹立できることが報告されており、化合物を併用することで効率を上昇させることができることからも、確率論モデルが優位と考えられています。

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