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血液がん克服にむけて!~JAK2阻害剤の薬剤耐性メカニズム解明~
論文紹介著者

國本 博義(博士課程 4年)
GCOE RA
内科学教室 血液内科
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Priya Koppikar/Nature 489, 155-159 (06 September 2012)
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Priya Koppikar, Neha Bhagwat, Outi Kilpivaara, Taghi Manshouri, Mazhar Adli, Todd Hricik, Fan Liu, Lindsay M. Saunders, Ann Mullally, Omar Abdel-Wahab, Laura Leung, Abby Weinstein, Sachie Marubayashi, Aviva Goel, Mithat Gonen, Zeev Estrov, Benjamin L. Ebert, Gabriela Chiosis, Stephen D. Nimer, Bradley E. Bernstein, Srdan Verstovsek & Ross L. Levine. Heterodimeric JAK-STAT activation as a mechanism of persistence to JAK2 inhibitor therapy, Nature 489, 155-159 (06 September 2012)
論文解説
背景
がんは、体を構成する細胞の増殖、生存や分化(未熟な細胞から成熟した細胞へ変化すること)など様々な細胞の生理的機能を司る遺伝子の異常が蓄積して発生すると考えられている。ヒトの体では毛髪と爪を除くほぼ全ての組織の細胞からがんは発生しうるといわれており、赤血球、白血球、血小板などの血液細胞も例外ではない。血液細胞から発生するがんは造血器腫瘍と呼ばれ、本論文はこの造血器腫瘍の一種である骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms : MPN)に対して抗がん剤が効かなくなるメカニズムについて論じたものである。
MPNは赤血球や血小板などの骨髄系細胞※1が骨髄内で過剰に産生される腫瘍であり、一部の症例では白血病に移行して致命的な経過をとることがあるため、その詳細な分子病態の解明とそれに基づく新たな治療薬の開発は盛んに研究されている。
正常な生体内での赤血球や血小板などの骨髄系細胞が作られる過程には様々なサイトカイン※3という細胞外に分泌される情報伝達物質や受け取った情報を細胞内に伝えるシグナル伝達分子※4が関与しており、中でもJAK / STATというシグナル伝達経路はその中心的な役割を担っている。赤血球産生を促すエリスロポエチン、血小板産生を促すトロンボポエチンなどのサイトカインを受け取る細胞表面の受容体にはJAKという分子が結合しており、これらのサイトカインが受容体に結合するとJAKは活性化し、STAT、RAS-MAPK、PI3K-AKTと呼ばれる様々な細胞内下流シグナルを活性化させる(図1)。これらのシグナルは、細胞の増殖、生存や分化に関わる遺伝子の働きをコントロールして最終的な効果を発揮する。2005年、MPNに共通する遺伝子異常としてJAKの変異が報告され(N Engl J Med.352:1779-90,2005, Nature.434:1144-48,2005)、その後の研究から変異型JAKはエリスロポエチンやトロンボポエチンなどのサイトカインがなくても受容体の活性化を起こし、下流シグナルを活性化させる(引き起こす)ことが明らかとなった。JAKの変異はMPNの主要な分子病態を担っていると考えられている。近年、恒常的活性化型のJAKを阻害するJAK2阻害剤が開発され、2011年末には米国において最初のJAK2阻害剤がMPNに対する治療薬として認可された。しかしこのJAK2阻害剤は脾腫※6や全身症状は改善するものの、MPNの根治や生存率の向上までは寄与しないことも明らかとなってきた(Blood.119:2721-30,2012)。JAKの変異がMPNの主要な分子病態を担っているのは疑いないが、JAK2阻害剤によりなぜMPNが根治できないのか、その薬剤耐性メカニズムはこれまで不明であった。
図1 JAK2を介したサイトカインシグナル経路
(Oncogene.1-13,2012より改変引用)
本論文の要旨
本論文ではMPNにおけるJAK2阻害剤耐性の分子メカニズムを解明するため、JAK変異を有する白血病の培養細胞株(SET-2/UKE-1)と、実際のMPN患者の末梢血顆粒球※2を用いて研究を行った。その結果、
- JAK2阻害剤存在下で長期間白血病細胞を培養していると、JAK2阻害剤存在下でも増殖可能な細胞(薬剤耐性細胞persistent cell)が出現すること
- Persistent cellではJAK2阻害剤存在下でもJAK / STATシグナルが活性化していること
- JAK2阻害剤による臨床試験を受けたあとのMPN患者末梢血顆粒球でも同様に、JAK / STATシグナルが活性化していること
- Persistent cell、JAK2阻害剤による治療を受けたMPN患者末梢血顆粒球では、JAK / STATシグナルはJAK2の活性化ではなくJAK1、TYK2という他のJAKファミリーの分子によって活性化されていること
- JAK1、TYK2を不活化すると、persistent cellにおけるJAK / STATシグナルの活性化が抑制され、かつJAK2阻害剤に対する感受性が回復し増殖が抑えられるようになること。
が明らかとなった。
今後の展望
本論文の研究から、MPNがなぜ従来のJAK2阻害剤で治癒に至らないのか、その詳細な分子メカニズムの一端が明らかになったと同時に、JAK1、TYK2という他のJAKキナーゼファミリーによるJAK / STATシグナル活性化の抑制こそがMPNの新たな有望な治療標的になりうることが示唆された(図2)。
図2 (Nature.2012, doi:10.1038/nature11303より改変引用)
用語解説
- ※1 骨髄系細胞:
血液細胞は骨髄系細胞とリンパ系細胞に分けられ、前者は赤血球、血小板、顆粒球、単球などが含まれ、後者はBリンパ球、Tリンパ球が含まれる。 - ※2 顆粒球:
白血球の一種で細胞質に殺菌作用を有する顆粒を有する。染色性の違いにより好中球、好酸球、好塩基球に分けられる。 - ※3 サイトカイン:
細胞が産生、分泌する蛋白質で、細胞の増殖、生存、分化などの生理機能を担っている。 - ※4 シグナル伝達分子:
細胞の増殖、生存、分化に関わる細胞外からの刺激に応答して、細胞内でそのシグナルを核まで伝える分子。最終的には核内の特定の遺伝子の転写調節を行い効果を発揮することが多い。 - ※5 チロシン:
細胞の生理機能を司る分子の多くは蛋白質からなり、チロシンはこの蛋白質を構成するアミノ酸の1つ。チロシンの化学構造の一部がリン酸化される反応は、細胞内シグナル伝達の際に頻繁に起こっている。 - ※6 脾腫:
脾臓が腫れている状態。MPN以外にも白血病、悪性リンパ腫、心不全、肝硬変などでもみられる。特にPMFでは骨髄での造血の代わりに脾臓で造血が起こり(髄外造血)、巨大な脾腫を認めることがある。

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