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がん幹細胞発生のかぎを握るのは誰?-ユーイング肉腫がん幹細胞の解析を通じた検証-
論文紹介著者

山口 さやか(博士課程 2年)
GCOE RA
整形外科学/先端研遺伝子制御
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Claudio De Vito/Cancer Cell;21(6):807-21.June 12
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Claudio De Vito, Nicolo Riggi, Sandrine Cornaz, Mario-Luca Suva` , Karine Baumer, Paolo Provero, and Ivan Stamenkovic. A TARBP2-Dependent miRNA Expression Profile
Underlies Cancer Stem Cell Properties and Provides Candidate Therapeutic Reagents in Ewing Sarcoma. Cancer Cell. 21(6):807-21,2012
論文解説
ユーイング肉腫(ESFT※1)という病気を知っていますか。
小児を中心に発症する骨の悪性腫瘍であり、多剤併用化学療法・広範囲な外科的切除・放射線療法といった本格的な治療を要するものです。これらを組み合わせて行うことで、近年飛躍的に予後は改善し、治療との相性がよければ完治をのぞめるまでになりました。しかしながら、初期治療に抵抗性である、遠隔転移がある、腫瘍のサイズが大きいなどの場合や、再発例では、未だ十分な治療成績が得られておらず、既存の治療とは異なる新たなアプローチが必要とされる病気です。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)に関する山中教授の研究がノーベル賞を受賞され、報道でも再生医療との関連で頻繁に取り上げられている「幹細胞」ですが、実はがんの研究においても重要なキーワードとなっています。正常組織において、幹細胞が自ら複製・増殖し、多様な細胞に分化していくことで、その組織の機能や構造を保つのと同じように、がんにも「幹細胞」の役割を果たす少数の細胞が存在するというモデルが提唱されており、それらをがん幹細胞とよびます。がん幹細胞はストレスに強い特性を持つため、抗がん剤・放射線などの治療後にも生き続け、自己を元にまた新たながんを生み出すことで治療後の再発などに関与すると考えられ、新たな治療のターゲットとして注目されている細胞です。いろいろながんで実際にがん幹細胞が同定されており、また、血液幹細胞、乳腺幹細胞、神経幹細胞、間葉系幹細胞などの未分化な細胞に遺伝子変異を組み込んで人工的にがん幹細胞を作成する試みも行われています。2008年 筆者らのグループは、小児由来間葉系幹細胞(hpMSC)に、ESFTに特徴的な変異遺伝子であるEWS-FLI-1を組み込むことで、ESFTのもととなる細胞(hpMSCEWS-FLI-1)を作ることに成功しました。こうしてできた腫瘍の中には、幹細胞としての性質を有するものが一部含まれ、ESFTがん幹細胞のモデルと考えられています。
がん幹細胞を標的とする治療を考えた際、がん幹細胞をがん幹細胞たらしめる陰の立役者(分子機構)を討つのは有効な方法ですが、がん幹細胞の発生・維持については未解明な点も多く、がん幹細胞と正常幹細胞との類似点を手掛かりに、候補となる因子が考えられています。そのひとつが、マイクロRNA(miRNA) ※2です。筆者らのグループは、正常胚性幹細胞(ES細胞)の分化に必須なmiRNA-145がEWS-FLI-1という変異遺伝子によって抑制され、「幹細胞らしさ」に深く関わるSOX2などの発現上昇を介して、正常のhpMSCから、hpMSCEWS-FLI-1のがん幹細胞へと細胞内プログラムが置き換わるということを2010年に報告しました。その研究を基盤として、ESFTがん幹細胞を形成するmiRNA制御異常の本態を明らかとし、治療の標的となり得るのかを検討したのが本論文です。
結果の要旨
- ESFTのがん幹細胞のmiRNA発現パターンを非幹細胞と比較し、幹細胞に共通して発現が低下している一群のmiRNAが判明した。
ESFTがん幹細胞では、非がん幹細胞分画に比べて、成熟miRNAの発現が低下しているものがあった。(本文より)
細胞膜表面抗原であるCD133はこれまで脳腫瘍をはじめとしたいくつかの癌で癌幹細胞のマーカーとなっていることが報告されている。過去の研究で筆者らはESFTにおいてもCD133陽性細胞が癌幹細胞の性質を持つことを見出し、本論文でもCD133陽性細胞を癌幹細胞として扱っている。
- miRNAの成熟段階に沿って定量的な評価を行い、DNAからの転写は正常に行われるが、後の修飾過程の中途段階で滞っていること、さらに、その執行役であるタンパク質複合体Dicer-1 containing complexの構成分子、TARBP2(TAR RNA-binding protein 2)の発現低下がその原因であることを突き止めた。ESFT細胞で人工的にTARBP2遺伝子の機能を一部なくしてしまうと、ESFTがん幹細胞と同じようなmiRNA発現パターンを示すようになり、マウスでの腫瘍形成能も上昇した。
ESFTがん幹細胞では、TARBP2がRNAレベル(左グラフ)・タンパク質レベル(右図)ともに低下していた。(本文より)
- TARBP2は、Dicer1, Ago2とともにmiRNAの産生に必須なタンパクであり、マイクロサテライト不安定性※3を有する一部の大腸がんにおいて変異していることが知られている。さらに、エノキサシンはTARBP2の機能を高めることが過去に報告され、動物実験にも使用される薬剤である。筆者らもエノキサシンをESFT細胞またはESFT細胞由来腫瘍のマウスに投与したところ、TARBP2の機能低下によって減少していたmature な(成熟した)miRNAが回復し、腫瘍形成能が低下した。腫瘍を観察した結果、腫瘍内のがん幹細胞の割合が減少し、腫瘍内部は広範に壊死していた。ESFTがん幹細胞に対して同様の実験を行うと、mature miRNA発現の回復とともに、「幹細胞らしさ」(足場非依存性の細胞塊(sphere)形成)を失う所見が得られた。
エノキサシンを投与すると、腫瘍の内部は壊死し(上図★)、がん幹細胞の目印であるCD133陽性の細胞の割合が減少した(右図)。
TARBP2の機能を増強する薬剤のESFTに対する有効性が示唆される。(本文より)
- TARBP2の影響下にあるmiRNAのうち、ESFT細胞に含まれるがん幹細胞群で発現の低いmiRNA143および145を人工的に合成し、ESFT細胞を移植したマウスに静注すると、合成miRNAは効果的に腫瘍に取り込まれ、腫瘍の増大速度も低下した。
miRNA143または145を経静脈的に投与すると、ESFT細胞を移植してできた腫瘍の増大速度が緩徐となった。
miRNAの機能異常をターゲットとした治療の有効性が示唆される。(本文より)
肺がん・乳がん・消化器がん・血液腫瘍などに比べ発生頻度が少ないことが障壁となって、研究が進まず治療の発展が難しい骨軟部腫瘍領域ですが、その中でも子供たちに多く発生するESFTの難治例に対し新たな攻略法への道を指し示したことは、患者さんや治療にあたる医師にとり大きな励みです。また、これまで不明な点が多かったがん幹細胞の発生過程において、miRNA制御異常のキーとなり得る分子の存在を呈示した功績は、今後がん種を超えて、がん幹細胞を支えるメカニズムのさらなる解明につながってゆくことでしょう。
まとめの概念図
用語解説
- ※1 ESFT:
Ewing sarcoma family tumorの略。骨以外の部位に発生し、原始神経外胚葉腫瘍(PNET)という別疾患として扱われていた腫瘍とユーイング肉腫とが同じ起源をもつことが近年明らかとなり、同種の疾患群として新たに命名された。 - ※2 マイクロRNA(miRNA):
DNAから転写されるRNAのうち、自身はタンパク質をコードせず、翻訳されたタンパク質を分解したり、他の遺伝子の転写を抑制したりする働きをもつ。マイクロRNAははじめに、DNAを鋳型に数千塩基長のヘアピン構造をとるRNAとして合成されるが、その後多段階の修飾を受けて、最終的に18~25塩基長の一本鎖RNA(mature miRNA)となる。 - ※3 マイクロサテライト不安定性:
DNAの複製の際に生じる塩基配列の間違いを修復する機能の低下により、1~数塩基の短い配列の反復が腫瘍組織において正常組織と異なる反復回数を示す現象。

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