慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
English

Young Researchers' Trip report


ホーム > Young Researchers' Trip report > Society for Neuroscience 2012

Society for Neuroscience 2012

氏名

篠崎 宗久
GCOE PD
生理学教室

詳細

参加日:2012年10月13日~2012年10月18日

活動レポート

GCOE Young Researcher Support Planのお蔭を持ちまして、2012年10/13より10/18までSociety of NeuroscienceのAnnual Meetingに参加させて頂きました。今年の会場はアメリカのルイジアナ州ニューオーリンズであり、2005年ハリケーン・カトリーナによって8割が冠水という壊滅的な打撃を受けた都市です。

当日は夜に到着したため、フレンチクォーターという中心部にて夕飯を取りました。ニューオーリンズは牡蠣が有名ですが、季節はずれの事もありおおむねたんぱくな味でした。またそれほどバーボンのメッカとも思われないのに、飲み物のメニューの8割以上がバーボンだったのが印象的でした。ビールはアメリカらしくドラフトは概して薄い味わいでした。

翌朝、当研究室の脊髄損傷メンバーで朝食を取り、それから徒歩で1km程離れた会場に向かいました。全世界から3万人以上が集まる集会だけあり会場は巨大でした。特にポスター会場の大きさは圧巻で、東京ドーム1.7個分とのことでした。滞在中は主にこのポスター会場を中心に廻りました。

今回の学会参加の目的は主に2つ設定しておりました。1つには、慢性期の脊髄損傷の治療について臨床応用をしている、または目指している世界中の研究を網羅すること、もう1つには中枢神経、出来れば脊髄の脊髄皮質路の再生の研究を探すことです。現在脊髄損傷の研究は主に齧歯類を用いていますが、齧歯類では運動機能に関して網様体系の関与が大きく、哺乳類では運動機能のメインになると思われる脊髄皮質路を介した随意運動の再生のメカニズムに分かってないことが多いからです。

結論から述べると、脊髄損傷の臨床に向けた新しい研究は見つかりませんでした。「~が働いている」とか「~が効く可能性がある」という報告は多数なされておりましたが、運動機能すら観察してない研究も少なくなく、臨床に届くのが難しい研究が殆どでした。脊髄損傷のポスターで最も注目を集めていたのは今年マーク・ツジンスキーのラボでCell誌に発表したLu博士の発表でした。彼自身が車椅子を用いているということもあり、常に人垣が出来ていました。ただ内容に関しては論文以上のものは乏しく、まだ臨床に向けたハードルが残っているようでした。その隣でこれもツジンスキーのラボから日本人の発表がありました。日本語であるのを良いことに、現在のツジンスキーの研究内容について(当たり障りの無い範囲で)教えて貰いました。

またこれも残念ながら、脊髄皮質路の再生に関する演題もありませんでした。この分野に関しては。発生と再生の関係を明らかにするというよりは、可塑性についての研究が現在の主流のようでした。ツジンスキーのラボでも実は脊髄皮質路をターゲットにしているという話でしたが、今回の発表では網様体系に関するメカニズムのみが発表されていました。

自分のポスター発表は脊髄損傷に対するコンドロイチナーゼABC(C-ABC)という薬剤を用いたものでした。脊髄損傷後、慢性期には損傷部にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを主成分としたグリア瘢痕が形成され神経軸索の進展を阻害しますが、重症の慢性期脊髄損傷モデルを用いた治療効果の発表を致しました。今まで急性期に行った報告や、別の新しい治療との組み合わせの報告はあったのですが、最も臨床の病態に近い重症の圧挫モデルを用いていました。すると矢張りC-ABCを用いている研究者からの質問が多く、細かな所まで質問に合いました。「誰もがやりたかったことをやっている」と言ってくれた研究者もいました。発表時間外でも、写真(禁止されているのかも知れませんが...)やメモをとっていく人々も多く、自分の研究に手応えを感じました。また研究デザインについて、コントロール群についての同じ指摘が多く、これは論文作製時までに追加すべき事柄として再確認致しました。C-ABCに関して他に5つの演題がありましたが、運動機能に焦点を絞った報告はありませんでした。

今回GCOE Young Researcher Support Planの支援により、初めて国際学会に参加することが出来ました。慢性期脊髄損傷治療についてエキサイティングな報告はありませんでしたが、体験全てが斬新でした。英語での質問や受け答えはある程度出来るつもりでしたが、実際ネイティブの方々はこちらが非ネイティブと分かると内容を1ランク落として話をするのが自分に悔しい所でした。また上述の通り、自分の研究の短所を明らかにする事が出来ました。C-ABCは国内では扱っている研究室は少なく意見交換が殆ど出来ないため、国際的な学会に参加しフィードバックを得られたことは何物にも代え難い所です。この様な貴重な経験を支えてくれたGCOE Young Researcher Support Planに改めて感謝の念を申し上げると共に、後輩のために来年度以降も同様の支援があることを願わずにいられません。この場をお借りして関係諸氏、スタッフの皆様に重ね重ね御礼申し上げます。

Copyright © Keio University. All rights reserved.