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Young Researchers' Trip report


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54th ASH (American Society of Hematology) annual meeting

氏名

櫻井 政寿
GCOE RA
血液内科

詳細

参加日:2012年12月7日~2012年12月12日

活動レポート

このたび、2012年12月8日から11日にかけて、米国アトランタで開催された54th ASH Annual Meeting and Expositionに参加させていただきました。

ASH Annual Meetingは数ある医学会の中でも世界最大規模と言われ、毎年数万人の医師・研究者達が世界中から参加します。血液内科という決してメジャーではない分野で、なぜこれだけの大きな会が開催されるかというと、MDだけでなくPhDの参加者も多いことが大きな理由になっています。実際、プログラムをみると、MD向けの臨床分野のSessionと並行して、PhD向けの基礎的な内容のSessionが必ず開催されています。そしてPhD向けのSessionであっても、発表者はMDであることも多く、Translational Researchが他分野に先駆けて進んでいるこの領域の特徴を反映しています。

大変大きな規模の学会ですので、会場も大変広い場所である必要があります。昨年初めて参加させていただいた時には、まずその会場の広さに圧倒されたものでした。会場が広いと開放感がありますが、部屋と部屋の移動が大変で、各Session間には30分間の移動時間が設けられているほどです。ゴルフ場にあるカートを置いてくれると助かるのに、と移動の度に何度も思いました。

さて、内容の方はと申しますと、学会の前半2日間は教育的なSessionが中心です。それぞれの分野の第一人者が、現在のスタンダードを最新の知識を織り交ぜながら話します。これが非常にわかりやすく、レベルが高いのです。同じようなSessionは国内の学会でも当然あるのですが、到底及びません。

Lectureに限らず、教科書でも日本の教科書で読むと複雑なことが、海外の教科書を読むとうまくまとまっていてすんなり理解できる、ということはしばしば経験することです。大量に積み重なった知識をそれぞれ適切な棚に収納し、その中でもう一度噛み砕いて簡潔に記載する、という作業には、日本人が、というより、日本語がうまく合っていないのではないかと僕は考えています。英語で書いた方がより根本の重要なMessageがしっかりと浮き彫りになる印象があります。日本語だといろいろ形容詞をつけたり、言い切ることを避けたりして、幹となるMessageがぼやけてしまうのではないでしょうか。英語に自信がない僕でもそう思うのですから、英語が得意な人はもっと強くそう感じていると思います。

話が反れましたが、前半2日間で数々の教育的なSessionが行われ、僕は臨床分野と基礎分野、両方ちょうど半分ずつくらいの割合で聴講しました。昨年は基礎分野のSessionに出ても、ほとんど理解できず、正直あまり興味が持てなかったのですが、この1年間は主に基礎的な研究に従事し、論文もそれなりに読んだ効果なのか、基礎分野のSessionもそれなりに興味が持てるようになっていました。

僕の研究分野であるMyeloid malignancyの世界は――病気としては骨髄異形成症候群(MDS)や急性骨髄性白血病(AML)などがそれにあたりますが――次世代シークエンスの恩恵に預かり、ここ1-2年間で遺伝子変異の解析が驚異的に進みました。

若干強引な解釈ですが「がん」は遺伝子変異の結果おこるものであり、がんの研究とはその変異を探し、その機能を解析することが中心となってきました。変異がわかり、その変異がもたらす機能がわかれば、それに対応する薬剤を開発することにより、がんを克服できる、と考えたのです。そして研究を膨大な年月と人手をかけて少しずつ進めてきたのですが、次世代シークエンスの登場により、少なくとも変異に関しては、一気に網羅的な解析がなされ、今年の学会でも多くの発表がありました。

その結果わかったことは、MDSという疾患は非常に多様で幾つかのStepを踏んで進展する疾患であり、どれか特定の遺伝子変異をTargetにした薬剤をつくることにより、克服できるような簡単な話ではない、ということだと僕は解釈しています(違った意味に解釈する方もおられると思います)。血液分野で扱う腫瘍は、分子的にはわりと単純なものが多く、慢性骨髄性白血病(CML)はBCR-ABLをTargetとした薬剤のおかげで、すでに長期生存が可能な疾患になっていますし、それ以外の骨髄増殖性疾患(MPN)もJAK2という遺伝子をTargetに創薬が行われ、すでに治験が行われています(こちらは実際には思ったほどの効果が得られていませんが)。そのような論理的かつ実用的で切れ味のよい「夢の薬」の登場を、我々はMDSやAMLに対しても期待していたのですが、現在のところ、それほど簡単に話は進んでいないようでした。

それと共に、今回の学会ではEpigeneticsの話題も多く挙げられていました。

そして後半2日間は、世界中からやってきた医師・研究者達が持ち寄ってきた研究結果の発表です。今回の学会では、僕も口頭発表をさせていただきました。疾患特異的iPS細胞を使った研究で"Impaired Hematopoietic Differentiation of iPSCs Derived from Patients with FPD/AML"という演題で10分間お話させていただきました。国内学会では経験がありますが、初めての国際学会デビューです。それもポスターではなくいきなり口演です。これはとても名誉あることですので、当初の予定では、1か月前にはスライドと原稿が完成して、プレゼンテーションの練習をみっちりする予定でした。しかし、実際に原稿ができたのは1週間前でした。そこからプレゼンテーションの練習を、指導してくださっている中島先生と二人三脚(おんぶにだっこ?)で行いました。

先に述べたように会場が広く、僕の発表する会場も数百人は簡単に収納できる部屋でした。これだけの人数、しかも世界中から来た人の前で話すのは緊張するな、と発表の2日前はドキドキしていたのですが、ある理由でその緊張感はなくなりました。それは米国に着いた翌日、発表の2日前に急に声が出なくなったことです。決してストレス性ではありません。風邪をひいたのです。奇妙な風邪で、咽喉は痛くない、鼻水はでない、咳も出ない、全身状態もすこぶるよく、食欲もあるのに、声だけが出なくなってしまったのです。最悪な時期に最悪な症状の風邪をひいたものです。米国到着後も発表の練習をする予定だったのですが、そもそも声が満足に出ないので、それどころではありませんでした。うまく話せるか、質疑応答が無事に乗り切れるか以前に、ちゃんと声が出るだろうか、という前提が大きな問題となり、発表そのものに対する緊張感は逆に小さくなっていきました。

風邪のほうは、多くの方々に心配していただき、本当に御迷惑をお掛けしたのですが、当日朝起きたら声が復活しており、無事演台に立つことができました。発表自体はあまり思い返すことができません。100点とはいえないかもしれませんが、自分としてはよくやったと思います。心配していた質疑応答も、座長からいくつか質問を受けましたが、いずれも簡潔に返答しました。うれしかったことは、その質問がきちんと隅々まで聞いていないと聞けないようなポイントであった点です。

夜も、共同研究者の先生方とお食事をご一緒させていただいたり、同じ分野に進んだ高校時代の旧友と再会したり、有意義に過ごすことができました。

アトランタという街についてほとんど触れませんでしたが、上述したような状況でしたので、あまり観光する時間もなく、特に述べることがありません。印象としては、普通のアメリカの大都市だったという程度です。次回訪れるチャンスがあれば観光したいと思います。

最後になりましたが、このような貴重な機会をサポートして頂いたGCOE関係者の方々に感謝いたします。我々、臨床医を志す研究者の最終目標は、臨床への還元です。今後も研究を重ね、白血病の病態解明・創薬につなげることを目指します。

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