慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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Society for Neuroscience 2012

氏名

田代 祥一
GCOE RA
リハビリテーション医学教室

詳細

参加日:2012年10月13日~2012年10月18日

活動レポート

GCOE補助を頂いて、米国神経科学学会 Society for Neuroscience 2012学術集会に参加させて頂きました。SfN 2012はミシシッピー川の下流で米国南部の主要都市の一つであるニューオーリンズ市で開催されました。ニューオーリンズ市へは、成田からシカゴまで行って、そこから国内線で向かうわけですが、トランジットを含めて約22時間の行程でした。

今回の参加者は数万人とも言われていて、まずは非常にびっくりしたというのが正直な感想です。神経科学ですから、脳か脊髄か末梢神経を扱う研究者だけの集まりということになります。しかし各々の分野も分子生物学や幹細胞医学を用いている研究者もいれば、機械工学の研究者もいますので、このような巨大な規模になるのでしょう。それらの研究者が約1週間にわたって研究発表を行うこの学会は、神経科学領域における研究の中枢であると言えると思います。口演のセッション数はそこまで多いという印象はありませんでしたが、ポスター会場はとても広大で、端から端まで数百メートルもあるのではないかと思われるほどでした。

私はとくに脊髄損傷に対するリハビリテーションの効果について研究を行っておりますので、関連領域を中心にポスターセッションや口演を見聞きし、また自分の研究の発表を行って参りました。私の研究は、"Treadmill training reduced spasticity after Spinal cord injury"という題で、ポスター発表でした。内容は、中等度の脊髄損傷のモデルのラットに対して訓練を行ったときに「痙性」が低下したというものです。痙性というのは聞き慣れない方も多いかと思いますが、脳卒中や脊髄損傷の後でおこる合併症の一つで、筋肉をうまく動かすことができないために筋肉が勝手に収縮してしまって、日常生活や歩行がうまくできなくなってしまうものです。これが脊髄損傷後早期のリハビリテーションによって良くなったということと、一部の神経栄養因子との関係性が見られたことを報告した内容です。これは6月に行われました、GCOEのプレゼンテーションスキル向上のためのワークショップの場で、内容をAugustine教授やほかの先生方にみていただいたもので、ある程度自信を持って発表を行い、また質問者に対して回答したりすることができたように思います。非常によい機会であり経験でした。

SfNでは脊髄損傷のリハビリテーションに関する演題も多く出展されており、損傷程度や訓練期間などについてもほとんど同じアプローチを採っている研究者もいましたし、論文を参照しているときに非常によくお名前を目にする高名な研究者も多くお見かけしました。そういう人たちと研究内容について討議することはとても楽しい時間でしたし、いろいろと示唆を頂けたりして、大変勉強になりました。今後の研究の方向性も更に見えてきたように思われます。また特に印象深かったのは、やはり大勢の優秀な研究者が多く集っているだけ会って、私たちのグループでこの先やってゆくことを計画していた内容をすでに発表されてしまったというような研究内容もありました。しかしそうした内容からは特に、自らの研究に今後応用可能な部分も多くありますので、しっかりとお話を聞いてきました。

痙性に関する研究はそのほかの合併症、麻痺や感覚障害と比べて遅れています。実際にSfNの場でも痙性に関する研究は多くはなく、測定手法も十分ではない印象でした。私の研究では、痙性の評価をとても簡便で感度の良い方法で行っています。これは他の研究者に比べて勝っている点であると思いました。実際に何人かの研究者から詳しい説明を求められたりしました。今回これを発表してしまいましたので、出し抜かれてしまうことが無いように、早く研究をまとめてゆく必要があると思いました。このように私が得た知識や示唆、経験も非常に大きいものがありましたが、自分の方からも参加者に一部でも利益になる内容が出展できたことは、自分にとって自信にもなりましたし、今後の研究を進める上での大きなモチベーションになりました。

またSfNのもうひとつの大きな意義には、検査装置の現況を知るということがあります。ポスターセッションの会場と同じ場所に、ポスターよりはスペースは広くないですが、それでも非常にたくさんの機器メーカーが展示ブースを出していました。もちろんヒト用の装置も多く見受けられましたが、実験動物用のものもたくさん出展されていました。現在研究に使用している装置の中には老朽化してきているものや、ずいぶん前に購入されているために、最近のトレンドを把握する必要があるものなどがあります。ですから、齧歯類のリハビリテーションや機能評価にどのような機器が使われているのか、これもしっかりと見てくることができました。カタログでは十分にどんなものか理解することができませんが、機械の実物を見ながら説明をしてもらえるのでとてもよかったです。

学会自体は非常に盛りだくさんで、土日もずっと開かれている学会ですので、観光は全くできませんでしたが、それでもとても意義深く楽しい経験でした。
滞在費も含めると20万円を超える旅費となりますので、大学院生には(おそらく現役の医師でも家族がいたら大変だと思います)捻出するのは大変です。ですのでこうした補助が頂けて本当に助かりましたし、それ以上の良い経験ができたように思います。

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