慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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10th International Society for Stem Cell Research 2012

氏名

江頭 徹
特任助教(博士課程4年)
(2009-2011年度 GCOE RA)
循環器内科

詳細

参加日:2012年6月13日~2012年6月16日

活動レポート

私は2012年6月13日~6月16日に開催された国際幹細胞学会(ISSCR)に参加しました。世界中の幹細胞研究者たちが横浜に集い、最先端の知見を含む洗練された多くの講演あり、活発な議論が交わされたポスター発表ありと、とても見どころの多い学会でした。iPS細胞発信の地でもある日本開催ということもあったのか、iPS細胞に関する多くの講演・発表があり、まさにiPS細胞研究花盛りの様相を呈していました。

自身の研究テーマもiPS細胞技術を用いた疾患解析であり、本学会においてポスター発表の機会を持つことができました。演題名は"Disease characterization using long QT syndrome-specific induced pluripotent stem cells"というもので、QT延長症候群という難治性遺伝性心疾患の患者さんからiPS細胞を作製し、分化誘導した心筋細胞の表現型を解析した研究です。本研究はiPS細胞が疾患解析の研究ツールとして非常に優れていることを示した研究であり、本研究成果から初めて疾患iPS細胞研究のスタートラインに立ったという位置づけであると解釈しています。これから疾患iPS細胞研究を新規の知見解明に繋げていく段階であり、循環器の臨床をライフワークとしている自分としては今後ともより多くの心臓病の患者さんに還元できるような研究ができたら理想的であると考えています。

本学会では、自身の研究テーマに関連するiPS細胞を用いたDisease modelingのセッションや一般演題を主に注視してきました。様々な疾患からiPS細胞が樹立され、解析が進んでおり、疾患iPS細胞研究の驚異的な推進力と各分野からの注目度を改めて実感しました。iPS細胞技術が世界中に浸透し、世界中で様々な知見が蓄積されていく中で、疾患iPS細胞領域では、疾患解析をする際の対照群の問題がディスカッションされていたのが印象的でした。患者さんの持つ遺伝情報がそのまま保存された万能細胞というのが最大の魅力であるiPS細胞ですが、その樹立方法およびリプログラミング課程や細胞維持課程で蓄積される遺伝子変異やバリエーションの問題や、これまでは病気でない健康な人から樹立したiPS細胞を対照群として用いていた研究が多い中で、遺伝的により同等な、すなわちターゲティングで責任遺伝子のみ置換させたisogenicな細胞を樹立し、対照群として用いるべきであるという議論がなされていました。また将来的なdrug screeningなどの運用において、表現型のぶれを起こす培地の細かい組成(液温、PHなど含め)の補正が必要であるという主張があり、それらの検証を行っているグループも見られました。単純なものからより高度なものへと革新を目指すのは物の常ですが、高度すぎると限られた施設でしか施行できない嫌いも生じます。様々な形で淘汰され、残った重要な技術が時間をかけて世界中に普及してくるのだと思いますが、重要な技術は早い段階で自ら学びに行く機会を持つことも必要なのではないかと思いました。流行廃りが著しいこの業界で、真に重要な技術・知見は何かを見極めて、今後の研究を見据えていく必要があると思います。

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