慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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EMBL Conference: Stem Cells in Cancer and Regenerative Medicine

氏名

大多 茂樹
GCOE 特任講師
先端医科学研究所
細胞情報研究部門

詳細

参加日:2012年8月29日~2012年9月1日

活動レポート

今回、2012年8月29日~9月1日まで、ハイデルベルグ(ドイツ)で開催されましたEMBL Conference (Stem Cells in Cancer and Regenerative Medicine)に参加いたしましたのでご報告させて頂きます。EMBL (European Molecular Biology Laboratory)が運営する5つの研究所のうちの1つがハイデルベルグにあります。ハイデルベルグは古くから学際都市として知られるとともに、戦禍を逃れたことから、古い町並みが良く保存されているドイツの古都と言えます。研究所自体は、市内から車で20分ほどの山中にあり、まわりは牧草地というのどかな環境の中にあります(構内に羊が散歩しているほど)。会場となったセンターの建築デザインは奇抜で、DNAの2重らせん構造を模した回廊が館内に設置されていました。ポスター会場は、そのらせん回廊に沿って設置されていました。EMBLでは年数回、様々なトピックでConferenceを主催しており、今回は「腫瘍と幹細胞」をトピックにして、米国および欧州から気鋭の研究者が集い、それぞれの研究成果を報告しました。

今日、体性幹細胞と癌幹細胞が生体に存在することが広く知られており、とくに腫瘍治療において、癌幹細胞を標的とした治療戦略の重要性が指摘されています。今回の発表の中で、特に印象に残ったものが、J. Dick (Toronto Univ.)の発表でした。彼らは、Single cellレベルでLeukemia initiation cellを解析し、 それら癌幹細胞が5つの異なるパターンの挙動を示すことをマウスで示しました。このことは、幾つかのマーカーを用いて濃縮を試みてきた、種々の癌幹細胞がヘテロな存在であることを示唆しています。最近、Single cellレベルでの幹細胞の解析が盛んになってきましたが、H. Cleves (Hubrecht Inst.)が腸幹細胞で示した蛍光多重ラベルによる細胞系譜解析手法と相まって、In vivoでの癌(体性)幹細胞の高解像度解析が、今後重要であることが示唆されました。

また、H. Nakauchi (Tokyo Univ.)は、神経細胞による骨髄における造血幹細胞の制御に関して報告をしました。骨髄内でシュワン細胞様のものが造血幹細胞を制御していることがマウスで証明されたことは大変興味深いものでした。サイエンスを考える際に、誰も思い描かないコンセプトを提唱することは、非常に意義のあることであり、たいへん参考になりました。

Brustle (Bon Univ.)やL. Studer (Memorial Sloan-Kettering Inst.)らは神経細胞をES/iPSC細胞より誘導し、各種神経疾患(アルツハイマー病等)の治療薬の探索に用いたり、ドーパミン産生ニューロンをパーキンソン病治療を目的として高純度で生産する系を確立するなど、創薬や神経疾患治療に積極的に取り組んでいました。日本も、当該細胞治療分野でさらなる努力が望まれます。また、生体内で、移植した細胞のうち増殖するものを選択的に殺す系を遺伝子改変により可能にする技術についても、Studerらはふれていましたが、今後の細胞治療分野において重要な技術革新であると言えます。M. Wernig (Stanford Univ.)はマウス線維芽細胞からオリゴデンドロサイトへの直接分化誘導の報告を行いましたが、StuderらがヒトES細胞より、80%以上の純度でオリゴデンドロサイトを誘導していることを考えると、その誘導効率は未だ低いため、直接分化誘導法も未だ改善の余地が残されていると言えます。すなわち、ES/iPSC細胞に未だアドバンテージがあることを意味しています。

学会全体を通じて感じたことは、大抵の思いつくことは世界の誰かが既に研究していること。技術革新に遅れないことの重要性です(例えば、ChIPシークエンスやSingle cellレベルでの遺伝子発現解析が当たり前に行われている)。さらに、研究テーマの設定は特に重要ではあるが、それを実行する優秀な研究者を養成することの重要性です。今後、日本のバイオサイエンスを興隆ささせるためには、日本の研究施設における、ヘテロな人材(国籍・研究分野)の確保の重要性を感じました。GCOEプログラムは、海外研究者の招聘や、若手研究者の海外派遣等を通じて、若手研究者に刺激を与えるという意味において、大きな貢献を成しえたと言えます。今回、一流研究者の演題を幾つも聞き、今後の自分の研究の在り方について考えさせられる所もあり、本学会参加をサポートして頂いたGCOEプログラムに御礼申しあげます。

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