慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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BMAP 2012

氏名

織原-小野 美奈子
GCOE PD
生理学

詳細

参加日:2012年8月29日~2012年8月31日

活動レポート

8月29日 より31日、三田キャンパスにて開催された BMAP2012に初めて参加した。

普段なかなか接することのない分野の発表もあり、このような機会をいただけて感謝している。大型動物、またはヒトそのものを対象にすることの困難さも垣間見られたが、それにもまして「感じるって何?」というような根源的な問いに答えようという意欲を感じた。

1日目 最初のセッションは特に心理学サイドからのアプローチであったが、ほ乳類ではなく鳥類を題材にとったものが存外多いことが興味深かった。認知能力に高等・下等はないだろうが、大脳皮質などの物理的配置の違いが、たとえば時間軸の進行などのとらえかたに影響しないのか、疑問に感じた。鳥類にとっての過去の「自分」や将来像などのうけとりかたが、われわれの想像が届く範囲内に収まるのだろうか、思いもつかない精神構造になっているのかもしれない、と発想の転換を楽しめた。記憶、または学習のプロセスも、生物種によって異なる点を考慮する必要性があるだろうか。少なくとも長期記憶の固定などでは、回路走行が根本的に異なる生物種間では何らかの差異を考えるべきだろう。人工知能の育成などの際に、ほ乳類型、鳥類型、は虫類型、と作り分けることができたらなにか利用価値が生まれるかもしれない。

2日目はKOマウスを用いたミクロな視点の基礎科学からテレビ視聴による子どもへの影響を論じた臨床研究までたいへん多岐にわたった。精神疾患のモデル、というと遺伝学的な扱いやすさとの兼ね合いからやはりマウスをもちいた研究が多いが、KOマウスでは病態の一部は再現できても全体を統合してヒト特有の症状まで出すのは困難なケースが多い。遺伝子改変モデル動物は、それぞれ得意分野に特化していく時代の趨勢になってきているのだろう。そんな中、霊長類を材料にした果敢な取り組みが注目される。size effectも考慮出来るように複数の種を用いた研究のデータを比較できるようになれば理解の助けになるであろう。

3日目は、さらに分子的基盤に重きを置いた解析の報告が続いた。song bird を用いてvocal learning の機序を解析する、さらに言語の起源にさかのぼる挑戦的な試みがなされていた。ことばのはじめはうたではないか、あるいは ことばのはじめは子どもを見分けるための呼びかけではないか、と思い巡らすことは容易であるが、それに分子基盤を与えるとなると、まだ殆ど手探りの状態のようであった。FoxD2 はたしかに中心的役割を果たしてはいるだろうが、一遺伝子の状態変化だけで「急にしゃべくり出す」ほどの劇的な行動変化が起きるとも考えにくい。とつとつと会話する原人類のような存在が複数いたなかから、もっとも「弁の立つ」種属が勝ち上がってきた、その結果なのだろう、と推察する。そしてまた、一見無駄に思えるほどの重複処理を可能にする膨大なneuron / circuit が並列処理することで、相手にあわせたコミュニケーション、言語的な(後天的に獲得する)コミュニケーションが可能になった事情があろう。

言語、認知科学を専門にする研究者の比率が高かったこともあり、質疑応答は大半活気にあふれ、(しばしばついて行くのも困難であったが)人類のASPM が可能にした創造空間の広大さに触発された3日間であった。

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