慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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10th International Society for Stem Cell Research 2012

氏名

石井 聖二
GCOE PD
生理学教室

詳細

参加日:2012年6月13日~2012年6月16日

活動レポート

今回私は、横浜で行われた国際幹細胞学会(ISSCR)に参加しました。私は学会2日目にポスター発表を行うことになっていたので、主に学会2日目に注力してシンポジウムや口頭発表、およびポスター発表を見ました。特に本学の岡野教授が座長を務める神経幹細胞のセッションが非常に興味深かったです。具体的には、ソーク研究所の成体の神経新生で非常に高名なFred Gage研究室のBilal E. Kerman博士の、マウスES細胞からオリゴデンドロサイトを誘導し、ミエリン形成を確認したという発表が興味深かったと思います。中枢神経系は、ニューロンおよびグリア細胞であるアストロサイトとオリゴデンドロサイトの3種類の細胞から構成されています。これらの3種類の細胞をES細胞およびiPS細胞から誘導するという研究は今までに盛んに行われてきました。実際に誘導した細胞が機能するのかという解析に関しては、ニューロンに関してはパッチクランプ法などの電気生理学的手法を用いることで評価することが可能です。一方で、グリア細胞は実際に試験管内(in vitro)および生体内(in vivo)における細胞移動などで評価しなければなりません。Bilalらが用いたマウスES細胞からのオリゴデンドロサイト誘導効率はあまり高いようには見えませんでしたが、彼らが誘導したオリゴデンドロサイトは確かに移動していることを確認し、機能的評価を行っていました。今後の研究の展開として、ただ免疫染色などによってオリゴデンドロサイトのマーカーの発現を確認するだけでは十分ではなく、機能的な評価をしなければ良い研究であるとは評価されなくなるのではないかと思いました。また東大の分生研の後藤由季子先生の研究室の岸雄介先生の研究発表は、つい先日Nature Neuroscience誌に発表されたHMGAと呼ばれる遺伝子群が神経幹細胞のニューロンを産み出す能力に重要であることを明らかにした内容でした。HMGAは胎児期の神経幹細胞では発現が高く、出生以降になると発現が低下することが知られています。つまりこの結果は、HMGAの発現が高いことが神経幹細胞のニューロンを産み出す能力に重要であることを示唆しています。また重要なことに、ニューロンを産み出すことができずにグリア細胞を産み出す成体の神経幹細胞に、生体内でHMGAを過剰発現すると、その神経幹細胞は再びニューロンを産み出すことができるようになったという研究発表は、研究分野が近いということもあり、興味深く聞くことができました。

また、その後にポスター発表を行いましたが、私の隣のポスターを発表していたポスドクは、世界で初めてヒト線維芽細胞から直接ニューロンを誘導することに成功したStanford大学のMarius Wernigの研究室に所属していました。何か見覚えのある顔だなと思ったら、4年前に私の指導教授の岡野先生とスウェーデンのルンド大学を訪問した際に、私に大学内の施設を案内してくれた研究者でした。4年ぶりの再会でしたので、さすがに私の名前は覚えていませんでしたが、慶應大学の大学院生を案内したことは覚えていると言ってくださって、感動の(?) 再会を果たすことができました。研究の世界は狭いと感じるとともに、このような意外な出会いと再会があるからこそ、研究の世界は面白いと思えるし、これこそが研究の醍醐味といえると思います。彼とはその後小一時間ほど話し、彼の研究や彼の所属する研究室について聞くことができました。

最後になりましたが、この学会に行くことができ、そして私自身の研究にとって有益な情報を得ることができたのも、また旧友と再会することができたのも、このグローバルCOEのYoung Researcher Support Planによるサポートのおかげです。この場を借りて、深く感謝の意を述べたいと思います。本当にありがとうございました。

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