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精子形成に必須なタンパク質Miwiによるトランスポゾンの発現抑制
論文紹介著者
石津 大嗣(博士課程 3年)
日本学術振興会 研究員
分子生物学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Michael Reuter/Nature 480, 264-267 (08 December 2011)
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
MMichael Reuter, Philipp Berninger, Shinichiro Chuma, Hardik Shah, Mihoko Hosokawa, Charlotta Funaya, Claude Antony, Ravi Sachidanandam & Ramesh S. Pillai. Miwi catalysis is required for piRNA amplification-independent LINE1 transposon silencing. Nature. 480, 264-267, 2011
論文解説
背景
多くの真核生物のゲノムは、その大半の領域を動く遺伝子であるトランスポゾン※1で占められている。ヒトゲノムでは45%以上、植物の場合は特に多く、例えばトウモロコシゲノムでは80%以上がトランスポゾンで占められている。トランスポゾンの起源は古く、なぜこれほどにトランスポゾン配列がゲノム内で増幅したのかは未解明な部分が多いが、トランスポゾンがゲノムに様々な変化を生み出すことでゲノム進化の多様性が促進されたと考えられている。進化上は適応的に見えるトランスポゾンだが、その転移は多くの場合、個体にとって有害な突然変異を引き起こす危険性をはらんでいる。そのため、多くの生物種において、トランスポゾンによるDNA損傷から自身のゲノムを防御するトランスポゾンサイレンシング機構が存在する。RNA干渉(RNA interference, RNAi)※2で知られる遺伝子発現抑制機構において中核的な役割を担うArgonauteファミリータンパク質※3には、トランスポゾンサイレンシングに関わるタンパク質が存在する。特に生殖細胞では、PIWIサブファミリーに属するArgonauteタンパク質が特異的に発現し、Piwi-interacting RNA(piRNA) ※4と呼ばれる小分子RNAと結合することでトランスポゾン抑制能を発揮している。piRNAはサイレンシングの標的となる相補的配列をもつRNAを認識するガイド分子として機能する。piRNAを介して標的配列と結合したPIWIタンパク質は、スライサー活性と呼ばれるRNA切断活性により標的RNAを分解することでその翻訳を抑制するが、スライサー活性は翻訳抑制のみならず、piRNAの生合成にも関わっている。このpiRNA生合成経路は、2つのPIWIタンパク質のスライサー活性によりpiRNA5'末端形成とトランスポゾンmRNA分解が共役して起こることから、ping-pongサイクルと呼ばれている。雄マウス胚の生殖細胞ではPIWIタンパク質であるMiliやMiwi2がping-pongサイクルによるpiRNA増幅反応に関与し、DNAメチル化を介してトランスポゾンを抑制することが知られている。MiliとMiwi2は精子形成過程の減数分裂初期でのトランスポゾンサイレンシングに必須であり、雄の生殖能力に不可欠である。もう一つのPiwiタンパク質であるMiwiは出生後の生殖細胞で発現し、その多くがトランスポゾンを標的としないpiRNAと結合することが知られていた。しかし、Miwiの生化学的機能やMiwiに結合するpiRNAの機能は未知だった。そこで著者らはMiwiのスライサー活性部位に点変異を導入した遺伝子改変マウスを作成し、Miwiの生化学的機能及び精子形成における役割を調べた。
結果
Miwiタンパク質がスライサー活性を持つかどうかを調べるためにin vitro での標的RNA切断アッセイをした結果、Miwiは、標的配列がpiRNA(30 nt)の5'末端から2022番目の塩基に相補的な配列を持つ場合、効率的に切断できることがわかった。次に、in vivoにおけるMiwiスライサー活性の役割を調べるために、点変異の導入によってMiwiのスライサー活性を失った遺伝改変マウスを作成した。点変異マウスでは減数分裂後の半数体精子細胞分化の途中で細胞形態が異常になる様子が観察され、正常な精子が形成されず不妊となった。これはMiwiを欠失したノックアウトマウスと同様の表現型だった。
Miwiはスライサー活性を失ってもpiRNAと結合していた。次世代シーケンサーにより、Miwi結合piRNAを解析した結果、野生型とスライサー変異型のMiwiで結合するpiRNAにはほとんど変化がなかったことから、Miwiに結合するpiRNAはスライサー活性非依存的に生合成されることがわかった。つまり、Miwi結合piRNAは、MiliやMiwi2に結合するpiRNAを生成するping-pongサイクルとは異なる経路で生成されていた。これらMiwi結合piRNAのうち約24%が反復配列由来であることから、Miwiがトランスポゾンサイレンシングに関わることが予想された。実際、点変異マウスの生殖細胞ではLINE1(L1)レトロトランスポゾンの転写産物が7~22倍に増加し、ゲノム上のDNA損傷が高頻度に誘発されていた。点変異マウスでは、トランスポゾンの活性化によるゲノム損傷に起因した細胞死により、精子形成に異常をきたしたと考えられる。これらのことから、Miwiは減数分裂後の精子細胞においてスライサー活性によりトランスポゾンmRNAを直接分解し抑制することが明らかとなった。
まとめ
これまでに、MiliとMiwi2が減数分裂初期のトランスポゾンサイレンシングを担うことが知られていた。本研究では、さらに別のPIWIタンパク質であるMiwiが減数分裂後の細胞においてトランスポゾンmRNAを分解することで抑制能を発揮することが明らかとなった。これらのPIWIタンパク質は、多段階的に機能することでゲノムをトランスポゾンから防御し、精子形成に重要な役割を果たしている。しかし、Miwiに結合するpiRNAの約75%はトランスポゾンを標的としないpiRNAであり、これらの機能は未だにわかっていない。また、スライサー活性非依存的なpiRNA生合成経路に関しても未知な部分が多く、これらの解明が今後の課題になるだろう。
用語解説
- ※1 トランスポゾン
ゲノム上の位置を転移することができる遺伝子であり、多くの真核生物のゲノム内に存在する。トランスポゾンの一種であるレトロトランスポゾンは、RNAに転写された後にDNAに逆転写されゲノムに組み込まれることで増幅する。 - ※2 RNAi
ウイルスや人工合成された外因性の二本鎖RNAを前駆体として生合成されるsmall interfering RNA(siRNA)によるRNAサイレンシング機構。 - ※3 Argonauteタンパク質
Argonauteは、RNAサイレンシングにおいて中心的役割を担うタンパク質であり、スライサー活性と呼ばれるRNA切断活性により標的RNAを分解する。小分子RNAとの結合にはPAZドメインとPIWIドメインと呼ばれる両ドメインが、スライサー活性にはPIWIドメインが必要である。 - ※4 piRNA
生殖細胞に特異的に発現する25-30塩基長の小分子RNA。PIWIタンパク質と結合し、 相補的配列を持つ標的RNAに導くガイド分子として働く。
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