慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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TACEを調節するiRhom2は、リステリア菌やLPSの反応により産生されるTNFを制御している

論文紹介著者

藏本 純子(博士課程 3年)

藏本 純子(博士課程 3年)
GCOE RA
病理学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

David R.Mcllwain/Science 335, 229 (2012).

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

iRhom2 Regulation of TACE Controls TNF-Mediated Protection Against Listeria and Responses to LPS
David R.Mcllwain, et al.
Science 335, 229 (2012);

論文解説

自然免疫応答は、病原体防御に不可欠であるが、ときに過度の反応が生じると敗血症性ショック(※1)を引き起こす。敗血症性ショックの重要なメディエーター(※2)は、Tumor Necrosis Factorα(TNFα)であり、強力な炎症性サイトカインの一つである。TNFαはリステリア菌(※3)などの病原体に対する宿主防御に重要であるとともに、関節リウマチ、クローン病、敗血症性ショックなどの病態の主要なメディエーターである。膜型蛋白であるTNFα前駆体は、TNFα変換酵素であるTNFα converting enzyme( TACE/ADAM17)によってシェディング(※4)され、可溶性TNFαとなり細胞膜より放出される。

著者らは、rhomboid family member(※5)であるiRhom2が造血細胞において(主として活性化マクロファージ(※6))TACEの成熟と細胞表面への輸送に関与していることを明らかにした。また、TNFα関連敗血症性ショックモデルを用いた実験(マウスにLPS(※7)とD-galactosamineを注射する)では、iRhom2-/-マウスがコントロールと比べて血清中のTNFαの値が低く、組織では肝細胞の障害の程度が軽度であるという結果であった。コントロールが24時間以内に死亡したのに対して、iRhom2-/-マウスは48時間を超えても生存していた。TNFαは細菌感染防御に不可欠であるが、iRhom2-/-マウスとコントロールにリステリア菌を投与するとiRhom2-/-マウスは死亡した。よって、iRhom2がTACEを介したTNFαによるリステリア菌防御に重要であることがわかった。

以上より、関節リウマチや敗血症性ショックなどTNFαによって引き起こされる病態は、iRhom2を抑制することにより改善され、よってそれは新たな治療法に結びつくかもしれない可能性を示している。

用語解説

  • ※1 敗血症性ショック
    細菌、真菌、ウイルスなどの感染症によって引き起こされる急性循環不全。病原微生物が産生する毒素や菌体成分の刺激によって免疫細胞や組織細胞から放出される多種のケミカル・メディエーターによる全身性炎症反応症候群が本体。多臓器不全をもたらし、患者の死亡率は約40%程である。
  • ※2 メディエーター
    抗原抗体反応や炎症反応の際に遊離されるヒスタミンやセロトニン等の化学物質。
  • ※3 リステリア菌
    リステリア菌はグラム陽性、鞭毛を持つ無芽胞の短桿菌で、Listeria属に入れられており、この属には8菌種がある。これらの中でヒトおよび動物に病原性を示すのは今のところL.monocytogenes1菌種である。一般のリステリア菌といわれるのは、この菌種を指している。乳幼児、高齢者等では、本菌に汚染された食物を摂食した後に髄膜炎や敗血症を発症し、重篤化することがある。
  • ※4 シェディング
    細胞膜貫通型の蛋白質を細胞外の膜近傍で選択的に切断し、細胞外領域を可溶化するという翻訳後修飾機構である。
  • ※5 Rhomboid family member
    ロンボイドプロテアーゼ・ファミリーであり、膜内プロテアーゼのうちの一つである。ロンボイドプロテアーゼは、原核生物から真核生物までの広い範囲の生物種に分布し、その役割は多様で生物種ごとに異なる。例えば、ショウジョウバエの Rhomboid-1はEGF 受容体の膜貫通ヘリックスを切断してシグナル伝達を制御する。
  • ※6 活性化マクロファージ
    マクロファージは血中を移動する未熟型マクロファージである単球と,血管から出て組織に定着し、異物侵入時の障壁の役割を果たす単球から分化した成熟マクロファージとに大別される。活性化マクロファージは成熟マクロファージであり、非自己抗原をもつ外来異物だけではなくウイルスや細胞内寄生性細菌によって感染した細胞やガン細胞のような変異細胞の表面の抗原の変化も認識する。LPSやインターフェロンγなどによって活性化される。
  • ※7 LPS
    敗血症性ショックを起こすグラム陰性菌の細胞壁から遊離されるリポ多糖。

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