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ADAM13はClass B Ephrinsの分解とWntシグナルの調節により頭部神経冠を誘導する
論文紹介著者

宮前 結加(博士課程 2年)
GCOE RA
病理学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Shuo Wei/Developmental Cell 19, 345-352, August 17, 2010
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Shuo Wei, Guofeng Xu, Lance C. Bridges, Phoebe Williams, Judith M. White, and Douglas W. DeSimone. ADAM13 Induces Cranial Neural Crest by Cleaving Class B Ephrins and Regulation Wnt Signaling. Dev Cell. 19:345-52, 2010
論文解説
動植物は、複数の細胞で構成されている多細胞生物である。多細胞生物は大きくわければ、細胞と、細胞と細胞の間をとりまく細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)の二つからなっている。それらは単独で存在できるわけではない。例えば、細胞が集合して形成されている臓器は、細胞同士がくっつくための細胞接着分子や、細胞が情報を受け取るために細胞の表面に発現している受容体、細胞に信号を送って働きかける細胞外シグナル分子やECMなどの様々な要素が連絡を取り合うことで臓器はその形態を維持したり、機能することができる。そういった連携された状態を組織内微小環境といい、その環境因子を分解・代謝することで調和をとっている分子が存在する。その分子の代表的な例として、A disintegrin and metalloproteinase (ADAM)(※1)分子やmatrix metalloproteinase(MMP)(※2)などが挙げられる。
MMPはオタマジャクシがカエルに成熟する時に発見された分子であるが、ADAMはハブやコブラなどの毒蛇がもつ毒素と似た構造を持ち、MMPの近縁遺伝子ファミリーとされている。ADAMは受精時の精子と卵子の結合や、発生時の筋細胞癒合に関わっており、生命現象に欠かせない存在であるといえる。一方で、癌細胞の他臓器への転移・接着・増殖に関与していることや、肺癌などの癌予測因子となるなどの報告もあり、その機能は計り知れない。しかしADAMには機能に関する情報がまだ少なく、私もその解析をしているところである。今回の論文ではまさにADAMの新たな機能について報告されているので紹介する。
近年アフリカツメガエルの胚を用いた研究で、原腸胚期(※3)における頭部神経冠細胞(cranial neural crest, 以下CNC)(※4)の誘導にWntシグナル経路(β-カテニンが関わる経路)(※5)が深く関係していると報告されている(Steventon et al., 2009)。また、筆者らはこれまでにADAMファミリーの一つであるADAM13がアフリカツメガエルの原腸胚において神経冠細胞や中胚葉に発現していることを報告しており、これを踏まえて今回ADAM13とCNC誘導の関係について検討している。
本論文では、アフリカツメガエルの胚(※6)を用いてADAM13の発現を欠損した変異体(ADAM13 KD)を作製し胚に導入することで、頭部軟骨の発達の度合いや神経冠マーカーであるSnail2の発現変化を確認した。その結果、ADAM13 KDを導入した胚ではWild typeに比べ頭部軟骨の発達度合いや、Snail2の発現量が有意に減少した。
また、WntシグナルがエフリンB (Efns class B)(※7)のレセプターに依存的に活性化することや、Efns class BがCNCの誘導に関与することが報告されていることから、EfnB1/B2とADAM13の関係について調べたところ、ADAM13がEfnB1/B2を切断することがわかった。ADAM13 KDを導入すると過剰なEfnsBシグナルの活性化に伴ってCNCの誘導が阻害されていた。つまり、ADAM13はEfnB1を分解することによりCNCの誘導阻害を減弱させることを証明している。
正常な胚ではADAM13がEfnB1/B2を切断することでシグナルが減弱化し、Wntシグナル活性やSnail2発現が亢進されてCNCが誘導される。よってEfnB-Wnt-Snail2活性化経路においてADAM13は重要な調節因子であり、胚形成の時期に適度な発現パターンを示すことで正常な胚分化が行われることを示している(図1)。
本論文より、ADAM13が存在しないと正常な軟骨が形成できないという結果から、ADAM13が形態形成に重大な役割を担っていることが証明された。このように、ADAMは、今回の論文のような生理的な環境においても他の分子を操作することで細胞相互作用に関わっている。ADAM13だけでなく他のADAM分子も同じようなメカニズムで機能している可能性があり、発生や分化において特別な役割をしているのかもしれない。
図1 CNCを誘導するEfnB-Wnt-Snail2経路
正常の胚組織ではADAM13によりEfnB1/B2が分解され、EfnBシグナルが活性化されないためWntシグナルが正常に働き、CNCが誘導される。一方、ADAM13が欠損した胚ではEfnB1/B2が分解されないため、Wntシグナルが抑制されてCNCの誘導が阻害される。
用語解説
- ※1 ADAM(A disintegrin and metalloproteinase)ファミリー
ディスインテグリンやメタロプロテアーゼと呼ばれる機能ドメインを有する膜結合型糖タンパク質からなる遺伝子ファミリーである。ADAMは受精や形態形成などの発生・発育などの生理的現象に加えて、心肥大、癌細胞の増殖・転移、アルツハイマー病、てんかん、けいれんなどにも関与することが明らかとなっている。 - ※2 MMP(Matrix metalloproteinase)
コラーゲン、ラミニン、ゼラチンなどの細胞外マトリックスを基質として分解する酵素。酵素活性は特異的なインヒビターにより阻害され、癌細胞の浸潤・転移形成に大きな役割を果たしている。 - ※3 原腸胚(gastrula)
将来内胚葉、中胚葉となる胞胚表面の細胞群が相互移動と細胞間親和性の変化により胚内へ移行して原腸を形成し、内外2層の細胞の壁(胚葉)をもつ(原腸胚)。この時期は初期発生における形態・機能上の重要な転換期で、母性mRNAの翻訳から胚自身の遺伝子情報に基づく発現への転換などが起き、遺伝子発現にも重大な転換が起こるといわれている。 - ※4 頭部神経冠細胞(cranial neural crests)
神経管ができた後に表皮外胚葉と神経管の境界部分で神経管内部に位置する細胞が、神経管から遊離して胚の間葉組織中へと移動し始める。これらの細胞群が神経冠細胞である。頭部神経冠細胞は、体幹部の神経冠細胞の細胞分化に加えて間葉細胞に分化するため、軟骨細胞・骨細胞・結合織細胞などに分化して顔面頭蓋と皮下組織を構成している。 - ※5 Wntシグナル経路(Wnt signal pathway)
分泌タンパクであるWntが受容体Frizzledに結合することによりWntシグナルを細胞内に伝える。Wntシグナルによりβカテニンが安定化して核移行し、TCF/LEFファミリーの転写因子と複合体を形成して標的遺伝子の転写活性化を引きおこす。 - ※6 胚(embryo)
受精卵が分裂して発生していく段階の個体。 - ※7 エフリンB(Efns class B)
膜貫通型タンパク質エフリンBのサブタイプ。B1からB3まであり、血管新生誘導に関与する。

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