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BCL6を標的とした白血病の新たな治療戦略
論文紹介著者

山下 真幸(博士課程 2年)
GCOE RA
発生・分化生物学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Cihangir Duy/Nature, 473:384-388, 19 May, 2011
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Cihangir Duy, Christian Hurtz, Seyedmehdi Shojaee, Leandro Cerchietti, Huimin Geng, Srividya Swaminathan, Lars Klemm, Soo-mi Kweon, Rahul Nahar, Melanie Braig, Eugene Park, Yong-mi Kim, Wolf-Karsten Hofmann, Sebastian Herzog,Hassan Jumaa,H. Phillip Koeffler, J. Jessica Yu, Nora Heisterkamp,Thomas G. Graeber, Hong Wu, B. Hilda Ye, Ari Melnick & Markus Müschen. BCL6 enables Ph+ acute lymphoblastic leukaemia cells to survive BCR-ABL1 kinase inhibition. Nature. 473:384-388, 2011
論文解説
一部の白血病で抗がん剤が効きにくくなるのはBCL6という分子が働くためであることを、アメリカの研究チームが発表しました。BCL6の働きを抑える物質を投与すれば、従来では治療の難しかった白血病も治療できるようになる可能性があり、治療薬としての効果が期待されます。
白血病は一般に「血液のがん」ともいわれ、骨髄で血液細胞ががん化した病気です。血液中には白血球、赤血球、血小板の3種類の血液細胞が存在しますが、これらは骨の奥にある骨髄で造血幹細胞という血液細胞のもとになる細胞から作られています。この造血幹細胞からリンパ球に成熟する段階の若い細胞ががん化した状態が急性リンパ性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia; ALL)です。ALLは小児から成人までのどの年齢層にも発生しますが、主に小児に多く、成人での1年間の発症率は約10万人に1人とされています。
一般にALLは小児の方が成人よりも予後が良く、小児ALLの治療成績は80%以上が長期生存を得られるまでになっています。成人ALLの治療成績が小児ALLと比較して良くない大きな理由は、予後不良の「フィラデルフィア染色体(Ph)陽性ALL」が成人ALLの約25%、特に50歳以上で約50%もの割合を占めていることにあります。フィラデルフィア染色体はBCR-ABL1という融合遺伝子を持っており、細胞の生存に重要なチロシンキナーゼ(※1)の働きが異常に高まる結果、Ph陽性ALLでは治療が効きにくいと考えられています。
実は、フィラデルフィア染色体はもともと慢性骨髄性白血病(Chronic Myelogenous Leukemia; CML)の原因として発見された染色体異常でした。CMLではイマチニブというチロシンキナーゼ阻害剤(Tyrosine Kinase Inhibitor; TKI, ※2)がすでに治療薬として使われており、従来の治療法を覆すような画期的な治療効果を持つことが確認されています。一方、Ph陽性ALLでもTKIの効果が期待されましたが、一旦治療に成功しても再発することが多く、CMLほど大きな治療効果は認められないことがわかってきました。さらに、効果の高かったCMLにおいても、それまで有効であったTKIがやがて効かなくなるという現象(耐性)が認められるようになりました。その原因として、白血病の細胞もそのおおもとになる白血病幹細胞から作られており、TKIによる治療だけでは白血病幹細胞を根絶できない結果、TKI耐性の白血病細胞が選択的に生き残るという考え方があります。
本研究では、Ph陽性ALLのようなチロシンキナーゼの働きに依存する白血病がどのようにしてTKI耐性を示すのか明らかにするため、まずTKIの投与前後で遺伝子の働きがどのように変化するかを調べました。すると、チロシンキナーゼ依存性の様々な腫瘍細胞でBCL6の働きがTKI投与後に急激に高まることがわかりました。そこでBCL6の働きがどのように調節されているか調べたところ、BCL6はチロシンキナーゼの標的分子であるStat5やPI3/Aktを介して通常抑制されており、TKIの投与によってその抑制が外れ、BCL6の発現が高まることを突き止めました(下図左)。さらにBCL6欠損ALL細胞を用いた検討の結果、BCL6はPh陽性ALL細胞においてp53やARFといったがん抑制遺伝子の働きを抑制していることがわかり、これがTKI耐性の原因のひとつであると考えられました。そこでPh陽性ALLを発症させたマウスにBCL6阻害薬をTKIと同時に投与したところ、TKIのみを投与した場合と比べて生存率が著しく改善する結果が得られました(下図右)。これらのことから、BCL6がTKI耐性獲得の主役であり、BCL6阻害薬とTKIの併用により薬剤抵抗性の白血病幹細胞の根絶につながると筆者らは結論付けました。
BCL6は本来別のリンパ系腫瘍であるびまん性大細胞性リンパ腫(Diffuse Large B-cell Lymphoma; DLBCL)の染色体異常から発見された遺伝子で、DLBCLの治療薬として低分子BCL6阻害薬がすでに開発されています。さらに、筆者らの検討ではBCL6阻害剤とTKIを併用しても副作用は認められず、難治性のPh陽性白血病に対する新たな治療戦略として応用できる可能性は高いと考えられます。がんの約半数で変異していると言われるp53ですが、白血病では意外にもその変異の割合は10%に満たないといわれています。このp53を介した細胞死シグナルの活性化が白血病幹細胞の根絶の鍵となることを、日頃アポトーシスの研究に取り組んでいる私はひそかに期待しています。
用語解説
- ※1 チロシンキナーゼ
タンパク質を構成するアミノ酸の一種であるチロシンを特異的にリン酸化する酵素。受容体型と非受容体型の2型に大別され、細胞の増殖、分化、接着、免疫応答など様々な細胞内シグナル伝達に関与する。チロシンキナーゼは活性化されると標的とするタンパク質をリン酸化し、別のタンパク質がそこに結合して次の反応の足場となり、次々と情報が細胞内へ伝えられていく。通常チロシンキナーゼは必要な時以外いわゆる"OFF"の状態になっているが、BCR-ABL1では常に"ON"の状態になっており、これが無秩序な細胞増殖の原因になっていると考えられる。 - ※2 チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)
チロシンキナーゼの酵素活性部位にちょうどはまり込むような形で設計され、その分子選択性の高さから分子標的薬と呼ばれる。イマチニブは史上初のチロシンキナーゼ阻害剤であるが、現在では本論文に登場するニロチニブのほか、肺がんに用いられるゲフィチニブやエルロチニブなど複数のチロシンキナーゼ阻害剤が開発され実用化されている。

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