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自殺遺伝子を持ったiPS細胞
論文紹介著者

板倉 剛(博士課程 1年)
GCOE RA
整形外科学
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Fuyi Cheng/Biomaterials 33 3195-3204 (2012)
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Fuyi Cheng, Qiong Ke, Fei Chen, Bing Cai, Yong Gao, Chenghui Ye, Ding Wang, Li Zhang, Bruce T Lahn, Weiqiang Li, Andy Peng Xiang. Protecting against wayward human induced pluripotent stem cells with a suicide gene. Biomaterials. 33:3195-3204, 2012
論文解説
現在、iPS細胞は再生医療において、非常に大きな期待を寄せられています。しかし、間違った細胞へ分化してしまったり、増殖過多となったり、はたまた癌化してしまう可能性もあります。実際の治療で使うためには、これらの問題の解決が必要となります。例えば癌化するような未分化な細胞の除去や、実際にマウスに移植して長期経過観察を行って安全な細胞株を選別するなど、現在少しずつですが、解決法が提案されてきています。しかしこれらのほとんどが、移植する前に行うものであり、これに加え、移植後に万が一腫瘍ができてしまった場合の解決法も必要となります。この論文で筆者らは、移植するiPS細胞とES細胞にガンシクロビル感受性のある単純ヘルペスウィルスのデルタチミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子を導入して、移植後にガンシクロビルを投与すると死ぬ様な細胞を作成しました。ガンシクロビルは現在臨床において、ヘルペスウィルスの一種であるサイトメガロウィルス感染症の治療薬として使用されています。つまりウィルスのガンシクロビル感受性を、移植細胞に導入するという考え方です。まずES細胞とiPS細胞のEF1αプロモーターと、Nanogプロモーター下にレンチウィルスを用いてTK遺伝子を挿入しました。EF1αプロモーター(ポリペプチド鎖伸長因子遺伝子プロモーター)は広範な細胞腫に存在する、基本的なプロモーターでサイレンシングという遺伝子の抑制なども受けない安定したプロモーターで外来遺伝子の導入部位として一般的なプロモーターです。そして、Nanogとは未分化な細胞のマーカーであり、これらに先ほどのHSV-TK遺伝子を導入する事で、移植する細胞と、さらには腫瘍化するような未分化な細胞を標的としています。
この段階で筆者らはTK遺伝子を導入している細胞の分化能、増殖能を実際に培養して評価しています。これによると元の細胞と遜色ない分化能、増殖能を有していました。
次にこれらの細胞をガンシクロビル存在下にシャーレで培養を行い、TK遺伝子が導入された細胞は死に、導入されていない細胞は生存している事を確認しました。
H1はES細胞、hiPSCsはヒトのiPS細胞を指します。ET、NTはそれぞれEF1α、Nanogプロモーター下に導入した事を指しています。緑は生きている細胞、赤が死んでいる細胞です。ガンシクロビルを投与するとES、iPS細胞どちらもET、NTで細胞が死んでいる事が分かります。
最後に実際に免疫不全マウスの皮下に細胞を注射し、腫瘍を作成しました。5mmを超えたところでガンシクロビルを投与し、腫瘍の縮小を認めました。また一部では腫瘍が完全に消失したマウスも存在しました。
現在、幹細胞移植研究は様々な発展を見せ、臨床応用目前まで来ています。しかしまだ超えなければならない壁が沢山あり、その一つがこの腫瘍化の問題です。この論文では移植後の腫瘍に対して、TK/GCVシステムという一つの方策を示しています。患者の身体に移植する細胞に、新たに遺伝子導入するという点が、今後臨床応用に向けての難点となってくると考えられますが、一つの実際に使用できる方法を提案したという点で評価できる論文です。
用語解説
- ※1 HSV-TK遺伝子
この遺伝子が導入された細胞は、発現したHSV-TKが、抗ウイルス薬として汎用されているガンシクロビルに作用し、DNA合成阻害活性を有する毒性物質に変化させるため、自らをアポトーシス死に至らしめる機能(自殺機能)を有しています。従ってガンシクロビルを投与する事によりHSV-TK遺伝子を発現する細胞のみを死滅させる事が可能となります。このことから、HSV-TK遺伝子は一般的に「自殺遺伝子」と呼ばれています。

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