慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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HIV-2って何?

論文紹介著者

山崎 さやか(博士課程 1年)

山崎 さやか(博士課程 1年)
GCOE RA
微生物学・免疫学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Thushan I. de Silva/Trends in Microbiology  Vol.16  No.12 588-595 2008年10月

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Thushan I. de Silva1, Matthew Cotten1 and Sarah L. Rowland-Jones. HIV-2: the forgotten AIDS virus. Trends in Microbiology Vol.16 No.12.588-595,2008

論文解説

はじめに

HIV-2はHIV-1の発見より数年後に発見されたウイルスであり、AIDSをごく少人数にしか発症しないウイルスである。なぜHIV-2が多くの感染者に対して症状を発症しないのか、これについてはまだよくわかっていない。しかし、最近の研究ではHIV-2に感染すると宿主の免疫反応が強くなるから、あるいはウイルスの複製能力がもともと弱いからAIDSが発症しないのではないかということが提唱されている。

HIV-2の研究をすることはどんな意味があるのか?

HIV-1ワクチン開発は未だに成功していない。大きな原因とは、感染あるいは病気の進行から守ろうとする宿主の免疫応答とウイルス機構についてよくわかっていないからである。これをよく知るためには、サル免疫不全ウイルスを調べること、またHIV-1感染者のうち長期に渡って病状が進行しない人たち(LTNPs)を調べることが一番の方法である。しかし、これらの研究は検体数が少なく、なかなか進めることができない。そこで、HIV-1によく似たウイルスであるHIV-2の研究が必要となってくるのである。HIV-2感染者の中にはLTNPsがたくさんおり、HIV-2の研究をすることによってHIVの免疫学的病体学を理解する価値ある洞察を得ることができるのである。

HIV-2起源とその分布

HIV-2は西アフリカのテナガザルから見つかったSIVとよく似ているので、これが起源だと考えられている。HIV-2感染者のうち多くはHIV-2西アフリカにいる。多くの国では、HIV-1の感染者が増加している一方で、HIV-2感染者は減少している。

HIV-2に感染したらどうなるのか?

HIVに感染した人のうち5年後にAIDSを発症していない人は、HIV-1が67%であるのに対しHIV-2は100%である。つまりCD4+T細胞の減りがHIV-1感染者に比べてかなり遅い。HIV-2の感染者のうち死亡するリスクがあるのは、感染していない人より単に2倍高いだけで、HIV-1感染者の10倍から20倍低いという報告もある。臨床的な特徴としてはHIV-2の感染者はカポジ肉腫をほとんどの人から観察されないことをのぞいてはHIV-1と同じである。

HIV-2は感染力が弱いウイルスなの?

HIV-2の感染者がほとんどAIDSにならないことから、ウイルスの複製能力が低い、宿主の免疫応答が高まる、あるいは両方ではないかと考えられている。症状が出ていない段階でのウイルス量(VL)と血漿中のRNA量は、HIV-2感染者はHIV-1感染者の30倍ほど低い。同じHIV-1とHIV-2感染者のうちCD4+T細胞量が同じぐらいの人を比べてみると、プロウイルスの量は同じであるが、HIV-1感染者の方が血漿中のVLは高い。これらのことから、HIV-2のプロウイルスはより強い規制を受けているのではないかと考えられる。実際、HIV-2は転写領域よりもヘテロクロマチン組み込まれやすいという報告もされている。

HIV-2に感染した時の宿主の免疫応答

ヒトではない霊長類の研究ではHIV-1の感染から守ろうとしてTRIM5αの経路が発現するがわかっている。臨床的コホート研究で、様々なTRIM5αは感染HIVの感染するリスクをさげているがわかった。シチジン脱アミノ酵素であるAPOBECファミリーもまたウイルスを制限するのだが、HIV-2もまた感受性がAPOBEC3Gに感受性がある。

HIV-1とHIV-2の二重感染

HIV-2の感染者はHIV-1の感染をしにくいという報告がある。しかし、西アフリカの報告ではHIV-2の感染者のほうがHIV-1の感染のリスクを高めているという報告もされている。これはまだ生物学的なものなのか、あるいは行動学的なのかはわかっておらず、またこれを証明するのは難しい。In vitro の研究ではHIV-2の感染はHIV-1の感染を防いでくれているという結果が出ているが、だからといって完全に感染を防いでくれるわけではないので「自然のワクチン」というわけにはいかない。

HIV-2の治療

HIV-2に感染者のなかで抗レトロウイルスの治療を受けている人はすくない。また、HIV-2の感染の治療のガイドラインをきちんとできていない。HIV-1の治療と同様なものが求められている。

HIV-2研究の今後は?

HIV-1の感染とは異なり、免疫応答で出てきたNab、これはHIV-1のワクチン開発のためによく研究されているものなのだが、これはHIV-2でもよく見られる。また、HIV-2の免疫応答によってもHIV-1の感染のリスクがへることは、HIVのワクチンの開発の鍵になるかもしれない。もちろん、HIV-2のワクチンの開発もかなり意味のあることである。約100万人ものHIV-2の感染者は西アフリカにいてARTの治療を受けることはできていないからだ。予防と治療目的のHIV-2ワクチンは、HIV-2の感染のリスクがある地域に役立つのみならずHIV-1の開発の役に立つだろう。

用語解説

  • ※1 LTNPs
    long-term non- progressors
  • ※2 VL
    viral load
  • ※3 コホート
    分析疫学における手法の1つであり、特定の要因に曝露した集団と曝露していない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病の発生率を比較することで、要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究である。

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