慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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小腸は抑制性Th17細胞の宝庫

論文紹介著者

三上 洋平(博士課程 4年)

三上 洋平(博士課程 4年)
GCOE RA
内科学教室(消化器)

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Enric Esplugues/NATURE | VOL 4 7 5 |PAGE 5 1 4 | 28JULY 2011

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Esplugues E, Huber S, Gagliani N, Hauser AE, Town T, Wan YY, O'Connor W Jr, Rongvaux A, Van Rooijen N, Haberman AM, Iwakura Y, Kuchroo VK, Kolls JK, Bluestone JA, Herold KC, Flavell RA. Control of TH17 cells occurs in the small intestine. Nature. 2011 Jul 17;475(7357):514-8.

論文解説

白血球の重要な役割は、宿主からみた細菌やウイルスなどの外敵を排除するという免疫を担う事である。この免疫を担う免疫担当細胞には昆虫からヒトまで存在する自然免疫と、ほ乳類など一部の高等動物にしかない獲得免疫とに大別される。自然免疫は微生物等に感染した時、即座に機能する免疫機構である。他方、獲得免疫とは宿主に感染した細菌やウイルス個々に応じて攻撃すると共に、感染を記憶し(免疫学的記憶)、再び同じ外敵(抗原)により素早く、強い免疫応答をする機構である。

この獲得免疫は抗原に特異的(1対1対応した)な抗体というタンパク質を産生し、外敵排除を担うB細胞系と、抗原特異的に攻撃する細胞障害性 (cytotoxic) T細胞と、これらの獲得免疫系をコントロールするTヘルパー (Th) 細胞に大別される。

このTh細胞は、産生するサイトカインによってさらに細かく分類される。古くは細胞障害に関わると言われ、Interferon gamma (IFNγ) などのサイトカインを高産生するTh1細胞と、喘息などのアレルギーに関与すると言われ、Interleukin - 4 (IL-4) などのサイトカインを高産生するTh2細胞に大別されていた。近年IL-17などのサイトカインを高産生し、細菌感染や真菌(カビ)感染に対して重要な働きをするTh17細胞や、IL-10やTransforming growth factor beta (TGF-β)を高産生して免疫系を抑制する抑制性T細胞(Treg)が分類された。今回の論文はこのTh17細胞についてである。

今回主役のTh17細胞は健常人では先述の通り外敵に対する重要な防御機構である一方、関節リウマチや炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)などの自己免疫性疾患への関与が示唆されている。また、モデルマウスでもTh17細胞はEAE(実験的脳炎)モデルマウスでの病態形成に必須であることを始め、種々の自己免疫性疾患モデルマウスで病態関与が指摘されている。つまり、端的にいうと、自己免疫性疾患を始め、Th17細胞は悪者、つまり攻撃性の高い細胞という考え方が支配的である。

そこで、筆者らは、T細胞特異的に発現しているCD3に対する特異的抗体(抗CD3抗体)をマウスに投与し、全身のサイトカインストームと小腸を中心とした局所の炎症を引き起こし、敗血症類モデルマウスを用いて研究を行った。このマウスでは、小腸内でTh17細胞の分化誘導に必要であるTGF-βとIL-6の濃度が上昇し、実際にTh17細胞が増加している事が解った。さらにIL-6欠損マウスや、抗原提示細胞を薬剤で除去したマウスに抗CD3抗体を投与してもTh17細胞の増加はほとんど認められない事から、抗原提示細胞由来のIL-6産生がTh17細胞の増加に重要である事を示唆している。

さらに、このTh17細胞が小腸に特異的に流入するメカニズムを解明するために、筆者らは種々の自己免疫性疾患との関与が指摘されているCCL20というケモカインとそれを感知する受容体CCR6に着目した。抗CD3抗体を投与したマウスではCCR6は主にIL-17産生細胞に発現している事が解った。さらに、驚いた事に、抗CD3抗体を投与したマウスでは小腸、とりわけ十二指腸でCCL20の発現が時間経過と共に増加している事が明らかとなり、さらにCCR6欠損マウスではTh17細胞の流入は著しく減少する事が解った。このことから、Th17細胞に発現しているCCL20を感知する受容体CCR6がTh17細胞の増加に重要である事が示唆された。さらに、IL-17A (≒IL-17)欠損マウスではCCL20の産生が減少する事、抗CD3抗体投与によりCCL20は上皮からだけでなく流入したT細胞からも産生されるようになる事から、抗CD3抗体投与により、まず局所のTh17細胞からのIL-17刺激により腸上皮からCCL20が上昇し、CCR6陽性Th17細胞が流入、さらにCCR6陽性Th17細胞がCCL20を産生しさらにTh17細胞の流入を促す、というメカニズムが示唆された。

ところで、この抗CD3抗体投与モデルマウスは100%自然治癒するが、そのメカニズムは不明であった。流入したTh17細胞は十二指腸で壊死している事はなく、むしろIL-17非産生細胞より増殖能が高かった。そしてこの小腸のTh17細胞は脾臓のTh17細胞とは異なり、抑制性T細胞の代表Tregと同程度までにT細胞の増殖を抑制することが明らかになった。つまり、抗CD3抗体投与モデルマウスで小腸に流入したTh17細胞は抑制性Th17細胞(rTh17細胞)といえる。

さらに、EAEモデルマウスで中枢神経系に浸潤している悪玉Th17細胞の代表とrTh17細胞の遺伝子プロファイルを比較結果、Rorc、Rora、Il17a、Il22、Il23rなどのTh17細胞関連遺伝子や、CD69、CD25、CD44などのT細胞活性化遺伝子の発現は両者で変化を認めなかった。しかし、驚いた事に、EAEの悪玉Th17細胞ではTnf-αIl-2といった炎症性サイトカインの遺伝子発現が増加している一方で、rTh17細胞では炎症抑制性サイトカインの代表であるIl-10の産生が増加していた。実際に、rTh17細胞にIL-10やCTLA、TGF-βを中和するとT細胞増殖抑制能が減弱することから、rTh17細胞のT細胞増殖抑制能はこれらの抑制性サイトカインや表面分子によることが示唆された。CCR6欠損マウスではこの抑制活性を持たない事から、Th17細胞は小腸に流入して何らかの抑制活性の教育を受けることが推測される。

筆者らは抗CD3抗体投与の他にも、黄色ブドウ球菌投与、インフルエンザウイルス投与でも小腸内にrTh17細胞の流入を確認している。以上の事から、敗血症モデルマウスにおいて、元来Th17細胞は炎症惹起細胞と考えられていたが、炎症抑制能を持つrTh17細胞が小腸特異的に存在しており、免疫寛容に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。

用語解説

  • ※1 サイトカイン
    免疫担当細胞に作用するタンパク質。免疫担当細胞専用のホルモンの様なもの。
  • ※2 自己免疫性疾患
    免疫とは本来宿主にとっての異物を除去するための機構であるが、過剰な免疫反応により免疫が外敵でなく宿主自身を攻撃することで発症すると言われる疾患(病気)の総称。関節リウマチ、SLE、強皮症、天疱瘡、多発性硬化症、炎症性腸疾患、自己免疫性肝炎など様々な臓器が影響を受ける。
  • ※3 疾患モデル
    疾患と類似した表現形をもつ実験動物。完全に疾患と一致したモデルを作る事ができるとは限らないので、一つの疾患に対して何個ものモデルマウスが存在する事もあり、それぞれのモデルマウス毎にメリット、デメリットが存在する。
  • ※4 ケモカイン
    サイトカインの中でも、特に白血球の遊走などに関わるホルモンの総称。ケモカインの濃度勾配を感知して白血球が引き寄せられていくと考えられている。

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