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ヒトiPS細胞から誘導した神経幹細胞における脳梗塞に対する移植治療の可能性
論文紹介著者
井上 賢(博士課程 3年)
GCOE RA
脳神経外科/生理学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Matthew B. Jensen/J Stroke Cerebrovasc Dis. 2011 Nov 10. [Epub ahead of print]
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Jensen MB, Yan H, Krishnaney-Davison R, Al Sawaf A, Zhang SC.
J Stroke Cerebrovasc Dis. 2011 Nov 10. [Epub ahead of print]
論文解説
背景
脳卒中は、運動障害や機能障害の後遺症の主な原因であるが、効果的な治療法がほとんどない。細胞移植療法が、脳卒中から回復を見込める治療法として期待されている。神経幹細胞(NSCs)は、神経細胞やグリア細胞の前駆細胞であり、脳卒中で失った細胞の元となる細胞である。NSCsは胎児組織から得られてきたが、倫理的問題があり、移植片拒絶反応を防ぐため長期の免疫抑制が必要となり、以前は有用性が制限されてしまっていた。NSCsは、ES細胞と類似した性質を持っているiPS細胞(iPSCs)からも誘導でき、皮膚の線維芽細胞のような成人の細胞から作られる。これらの細胞を、脳卒中になってしまった患者から作成すると、倫理問題も免疫抑制の必要性も避けられる。筆者らの研究は、ラットの脳梗塞モデルにおいて、ヒトiPSCsから誘導したNSCsが移植後の生存と分化を調べ、脳卒中に対する治療法としての可能性を見いだした。
方法
ヒトiPSCsから、in vitroでNSCの状態に誘導する。1μl当り5万個の細胞密度に調節する。300g前後の成体のラットを全身麻酔下に脳梗塞モデルを20匹作成する。中大脳動脈の中に塞栓糸を30分挿入する方法にて作製。ランダムに治療群と対照群に振り分け、7日後に脳内に25万個5μの細胞を、ブレグマから外側に3mmの所に移植する。深さ6mmから5,4,3,2,mmの所に1μlずつ注入する。対照群には細胞の入っていない液体を注入する。サイクロスポリンを、移植2日前より 10mg/kg/day7日間皮下注する。その後、飲水に100mg/ml混ぜ投与する。
行動評価は、術前、1,3,5週間後に行う。体幹の動きの評価、前肢の動きの評価、前肢の感覚の評価を行う。5週間に麻酔下に潅流固定を行い、免疫組織学的評価を行う。
結果
移植4週間後、細胞移植した10匹中8匹(80%)で,移植細胞を認めた(HuNu陽性)。移植した25万個の細胞の約2倍47万個前後の細胞となっていた。その8匹の内、神経細胞のマーカーとしてβIII-tubulinやMAP2を発現しているのを8匹(100%)に認め、細胞の約41%を占めた。アストロサイトのマーカーとしてGFAPを発現しているのを4匹(50%)認め、細胞の約5%を占めた。オリゴデンドロサイトへの分化は認めなかった。腫瘍化は認めなかったが、5匹(63%)でNSCsのマーカーのネスチンを認めた。細胞増殖のマーカーのKi67は4匹(50%)に認めた。
移植群と対照群で、脳梗塞巣の大きさや行動評価の改善の差を認めなかった。
A 代表的な脳梗塞の脳の切片
B 対照群として治療した脳の切片
C 大脳半球における脳梗塞の割合
DEF 行動評価の結果:いずれも優位差を認めなかった
まとめ
ヒトiPSCsから誘導したNSCsを脳梗塞ラットの脳に移植し、神経細胞への分化を認めた。しかし、脳梗塞巣は縮小せず、症状も回復は優位差を認めなかった。
脳梗塞巣の近くに最大限、直接的に移植したが、最適なルートだったかはっきりしない。症状が改善しなかったのは、多くの要素が寄与しており、移植の時期や、使用する細胞の量、細胞の状態(材料、培養条件、分化状態)などである。加えて、ヒトNSCsは、成熟に月日を要し、成熟前では、移植細胞の機能回復への寄与は難しい。さらに1ヶ月あれば神経の再構築なされると考えられ、今後の課題である。
これまでの報告では、筆者らと同様で、脳梗塞後1週間後の移植、直接的な脳内注入による移植の報告が多いが、筆者らが違うのは胎児脳組織からでなく、iPSを用いた点である。また組織学的に神経細胞や他のマーカーを認めた点も、筆者ら同様であり、多くの報告で脳梗塞のサイズの縮小を認めていないが、筆者ら以外の研究では、症状の改善を認めている。それゆえ、NSC移植がさらなる発展は必要だが、将来的な脳卒中の治療として可能性が見込まれる。
筆者らの報告は、ヒトiPSCsから誘導したNSCsを脳梗塞に移植した最初報告であり、今後の実現可能性と検討すべき多様性を見いだした。
用語解説
- ※1 Elevated Body Swing Test
ラットを尾の付け根で持ち上げ、左右どちらかの側に体幹を振るかで左右差を調べる - ※2 Cylinder Test
ラットを透明なプラスチックシリンダーの中に入れ、両前肢の使用の左右差を調べる - ※3 Adhesive Removal Test
ラットの両前肢の足部分に粘着テープを貼り、テープを除去するまでの時間を調べる
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