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細胞周期を制御する新規noncoding RNA
論文紹介著者

陶山 智史(博士課程 3年)
GCOE RA
生理学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Tiffany Hung/Nature genetics, VOLUME43, NUMBR7, 2011年7月
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Tiffany Hung, Yulei Wang, Michael F Lin, Ashley K Koegel, Yojiro Kotake, Gavin D Grant, Hugo M Horlings, Nilay Shah, Christopher Umbricht, Pei Wang, Yu Wang, Benjamin Kong, Anita Langerod, Anne-Lise Borresen-Dale, Seung K Kim, Marc van de Vijver, Saraswati Sukumar, Michael L Whitfield, Manolis Kellis, Yue Xiong, David J Wong & Howard Y Chang. Extensive and coordinated transcription of noncoding RNAs within cell-cycle promoters. Nature genetics. 43(7):621-9.
論文解説
様々な生物のゲノム解析の結果、タンパク質をコードする遺伝子領域はゲノムの中のほんの一部に過ぎず、ほとんどがタンパク質をコードせず機能を持たないジャンクな(役に立たない)領域であると考えられてきた。しかしながらその後のtranscriptome解析の結果、この領域のほとんどの部分が転写されていることが明らかとなり、これらの領域から転写されたRNA (noncoding RNA)が何らかの機能を果たすことで遺伝子の機能だけでは今まで説明のつかなかった生物の複雑さを決定しているのではないかと考えられるようになった。これを証明するように、様々な種類のnoncoding RNAが転写、翻訳、シグナル伝達など多岐にわたった生命現象に関与していることが近年多く報告されている。
本論文では、筆者らはcell-cycle関連遺伝子座promoter領域近辺に存在する新規の機能を持つnoncoding RNAの探索を行った。転写が活性化している遺伝子のpromoter領域では、RNA polymeraseの分岐転写によりnoncoding RNAが産生されることが報告されており、またcell-cycleに関連した遺伝子座には(INK4a遺伝子座のANRILやp21遺伝子の上流領域に存在するlinc-p21など)機能的noncoding RNAの存在が既に知られていたため、筆者らは、cell-cycle関連遺伝子座のpromoter領域には他にも新規の機能的noncoding RNAが存在するのではないかと仮定し、探索を行った。筆者らは、まず超高解像度の56個のcell-cycle関連遺伝子のpromoter領域のgene chipを作製し、増殖細胞、癌細胞、細胞周期を同調させた細胞など様々な細胞から抽出したRNAを用いてtilling arrayを行った。その結果、筆者らは216個の新規non coding RNAを発見した。これらの新規のnon coding RNAには、cell-cycle、自己増殖や癌と関連があり、近傍の遺伝子座の遺伝子に影響するものだけでなく、他の遺伝子座の遺伝子に影響するものも存在していた。その中で、筆者らはストレスを与えるなど様々な状況における発現パターンの変化を観察し、DNA 損傷によって発現が誘導されるCDKN1A遺伝子座5kb上流のnoncoding RNA (PANDA : p21 associated ncRNA DNA damage activated)を同定した。PANDAはp53によりp21とともに転写され、p21には影響せず、NF-Y転写因子に結合し、FASやAPAF1などの細胞死に関する遺伝子の発現を抑制する因子であることが分かった。
このように役に立たないゲノム領域と思われていた部位が転写され、生命現象における多様な機能に関連していることが明らかになってきた。幹細胞の分野においても、noncoding RNAの重要性を示す報告が多くなっており、未だ機能の分からないものが多く存在しているため、非常に興味深い研究分野となっている。
用語解説
- ※1 noncoding RNA
タンパク質には翻訳されないRNAの総称 - ※2 promoter領域
転写開始に関与する遺伝子の上流領域 - ※3 分岐転写
遺伝子の転写が起こる時、遺伝子と逆方向にアンチセンス鎖が転写される現象 - ※4 tiling array
ゲノム配列を等間隔でchip上に配置したchipによる発現解析
細胞から抽出したRNAをハイブリダイズさせることで、トランスクリプトーム解析が行える。

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