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幹細胞の"状態"をつくりだす細胞外環境
論文紹介著者
山田 幸司(博士課程 3年)
GCOE RA
病理学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Christina Scheel/Cell, 145, 926-940, June 10, 2011
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Christina Scheel, Elinor Ng Eaton, Sophia Hsin-Jung Li, Christine L. Chaffer, Ferenc Reinhardt, Kong-Jie Kah, George Bell, Wenjun Guo, Jeffrey Rubin, Andrea L. Richardson, and Robert A. Weinberg
Paracrine and Autocrine Signals Induce and Maintain Mesenchymal and Stem Cell States in the Breast
Cell 145, 926-940, June 10, 2011
論文解説
研究の背景
ヒトの体を構成する細胞はタンパク質をつくることで細胞としての機能を発揮しています。例えば、胃の主細胞はタンパク質分解酵素の前駆体であるペプシノーゲンを作り、膵臓に存在するβ細胞は血糖値を減少させるインスリンを作って分泌する特性を持っています。では、胃とか膵臓に存在するこれら細胞はどのようにしてそれぞれの場所で特化したタンパク質をつくっているのでしょうか。
タンパク質は細胞の核内に存在するDNAの情報を読みとって、その情報をもとに合成されます。そのため、作られるタンパク質の種類は、読まれたDNAの場所に依存します。細胞はその細胞を取り巻く細胞外環境から絶えず指令を受けています。その指令は細胞膜から核内のDNAまで伝言ゲームのように伝わっていき、指令の種類によって伝言ルートのみならず、結果的に行き着くDNAの場所も異なることがわかっています。この伝言ゲームのことを生物学的に(細胞内)シグナル伝達と呼びます。つまり、指令の種類に応じて異なったタンパク質が合成されるわけで、細胞外からのシグナル伝達経路の支配が細胞機能に大きく影響を与えるといえます。今回紹介する論文は、細胞の性質を変化させるメカニズムが細胞外環境によって決定されている、というお話です。
研究内容
今回紹介する論文の著者であるSheelらは、乳腺の上皮細胞をシャーレで培養していると、幹細胞の性質を持った間葉系の細胞の集団 (MSP)が少数ながら発生することに気がつきました。さらにこのMSPは、単離して培養しても間葉系の性質を長く維持し続けていました。Sheelらは、この現象を説明するために重要と思われる3つのシグナル伝達経路 (※1)の存在を突き止めました。興味深いことに、この3つのシグナル伝達を動かせば、すべての乳腺上皮細胞を強制的にMSPにすることができます。さらに、MSPはこれら3つのシグナル伝達経路をONにする"指令"に該当するタンパク質を自ら合成して細胞外に分泌することで、結果としてMSPとしての状態 (つまり間葉系だという性質)をキープしていました。
つまり、乳腺上皮細胞はこれら3つのシグナル伝達をONにする指令が細胞外環境から供給されてMSPになります。そしてMSPは自ら3つのシグナル伝達をONにするように細胞外環境に働きかけて、自らの"状態"を維持し続けることがわかりました。
今後の展望
現在、幹細胞研究で注目を集めているニッチ(※2)という言葉がありますが、幹細胞をはじめとする種々の細胞は、細胞外環境の影響を受けてそれに依存した働きを持つ細胞になります。本研究によって、その一例が示されましたが、こうした現象は、多種多様なシグナル伝達の組み合わせが存在し、乳腺以外の様々な細胞にも成り立つ可能性があります。特にiPS細胞では外来的に遺伝子を導入して繊維芽細胞から多能性幹細胞を作製しますが、生体内でも実は普遍性高く、細胞外環境の内在的な変化によってシグナル伝達系に影響を与えて幹細胞の性質を自在に変えているのかもしれません。そしてこの現象に基づくアプローチは損傷を受けた上皮細胞の再生治療に有用となる可能性が考えられています。
用語解説
- ※1 3つのシグナル伝達経路
TGF-βシグナル経路 (左)、Canonical Wntシグナル経路 (真中)、Noncanonical Wntシグナル経路 (右)の独立した3つの経路のことです。 - ※2 ニッチ
造血幹細胞研究で主に使用される用語で、生体内において、造血幹細胞の多分化能や自己複製能を維持するための特別な場所のことで、造血幹細胞はこのニッチに遊走し細胞分裂を行うことで、血球細胞を供給しています。
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