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ショウジョウバエの腸管幹細胞の増殖は活性酸素により制御される
論文紹介著者

小林 千春(博士課程 2年)
2010年度 GCOE RA
発生・分化生物学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Christine E. Hochmuth/Cell Stem Cell 8(2),188-199,2011
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Christine E. Hochmuth, Benoit Biteau, Dirk Bohmann, and Heinrich Jasper. Redox Regulation by Keap1 and Nrf2 Controls Intestinal Stem Cell Proliferation in Drosophila.
Cell Stem Cell 8, 188-199,2011
論文解説
私たち人間を含めた生物は、呼吸により酸素を取り込んで生きています。これは大昔に生物が、小さいバクテリアの仲間(現在はミトコンドリアと呼ばれています)を体の中に吸収して以来、行われています。この呼吸により、生物はたくさんのエネルギーを効率よく得て、多細胞生物へと進化することができました。一方で、呼吸では活性酸素という反応性の高い有害な物質が生じることが知られています。生物は進化の過程で、活性酸素を除去する仕組みも発達させてきました。しかし最近になり、活性酸素はただ有害なわけではなく、生物の体の恒常性を保つのに重要な役割を担っていることが明らかになってきました。今回は、ショウジョウバエの腸管で活性酸素が重要であることを示した論文を紹介します。
筆者らは、活性酸素を制御する経路の一つであるKeap1/Nrf2経路に着目しました。Keap1は普段はNrf2を分解しますが、活性酸素があるとNrf2を分解しなくなり、Nrf2が活性酸素を除去する様々な酵素を発現させます。筆者らは、ショウジョウバエの腸管の幹細胞でNrf2が発現していることを確認した上で、人工的にNrf2を過剰に発現させたところ、腸管幹細胞の増殖が抑制されることがわかりました。また、パラコートという活性酸素を上昇させる物質をショウジョウバエに投与したところ、腸管幹細胞を含めた腸管細胞全体で細胞内の活性酸素の濃度が上昇しましたが、腸管幹細胞では他の腸管細胞と比較してNrf2の活性化が抑制されました。ここで腸管幹細胞でNrf2を過剰に発現させると、腸管幹細胞内の活性酸素の濃度が低下することから、Nrf2が腸管幹細胞において活性酸素の上昇と細胞増殖を抑制する働きをもつことが示されました。さらに、活性酸素の濃度を上昇させると腸管幹細胞が増殖すること、Nrf2により活性化される活性酸素除去酵素であるjafrac1の機能を低下させた上でNrf2を過剰に発現させても腸管幹細胞の増殖が抑制されないこととあわせ、Nrf2による腸管幹細胞の細胞増殖抑制には活性酸素を除去することが重要であることが示唆されました。ところで、加齢したショウジョウバエでは腸管細胞の変性が進むことが知られています。筆者らは、加齢したハエの腸管細胞全体で若いハエと比べ活性酸素の濃度が上昇していること、また腸管幹細胞でNrf2の活性が低下していることを見つけました。そこで若いハエの腸管幹細胞でNrf2を過剰に発現させて経過をみたところ、腸管細胞の変性が抑制されることがわかりました。
以上の実験結果から筆者らは、ショウジョウバエの腸管幹細胞は普段はNrf2により活性酸素が低く保たれ、細胞増殖が抑制されていますが、Keap1などによりNrf2が抑制されると活性酸素が上昇し、細胞増殖が促進される、というモデルを提唱しました(図1)。おそらく、細胞増殖が必要となる様々なストレス時(細菌感染などで腸管が破壊される時など)に、腸管幹細胞でNrf2が抑制され、活性酸素を調節することで細胞増殖が行われていることが推測されます。また、加齢に伴い、腸管幹細胞でNrf2の発現が低下し活性酸素の濃度が上昇することが、腸管幹細胞の変性につながることも示唆されました。
用語解説
- ※1 多細胞生物
複数の細胞で体が構成されている生物のこと。 - ※2 活性酸素
生物が酸素を利用してエネルギー産生する際に生体内で発生する、反応性の高い酸素種のこと。一般的に非常に不安定で強い酸化力を示す。

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