- 2012年度
- 2011年度
- 新たに判明 がんの転移を促進するメカニズム
(2012/03/23) - 神経発達と加齢における5-hmCを介したエピジェネティクス
(2012/03/23) - TACEを調節するiRhom2は、リステリア菌やLPSの反応により産生されるTNFを制御している
(2012/03/09) - HIV-2って何?
(2012/03/09) - 自殺遺伝子を持ったiPS細胞
(2012/03/09) - リハビリって神経幹細胞も殖やすんです!
(2012/02/24) - 癌幹細胞を制御するHippo pathway
(2012/02/10) - 吸血鬼が若い血を好むのには根拠があった?!~若い生き血でボケ防止~
(2012/02/10) - 癌幹細胞を特異的に標的とした治療法を開発できる可能性!?
(2012/01/27) - 骨の再生には、本来体を守る役割を持つはずのサイトカインは邪魔になる!?
(2012/01/27) - 骨格筋の老化は防げる?
(2012/01/13) - 意外に他力本願???他者の掘ったトンネルを行く癌細胞
(2012/01/13) - 新しいRNA間コミュニケーションのカタチ@筋肉
(2011/12/23) - 精子形成に必須なタンパク質Miwiによるトランスポゾンの発現抑制
(2011/12/23) - Dying well with dementia
(2011/12/09) - Recent insights into the epigenetic regulation of the hair follicle bulge stem cells
(2011/12/09) - ヒトiPS細胞から誘導した神経幹細胞における脳梗塞に対する移植治療の可能性
(2011/11/25) - 体細胞の再プログラム化を阻む"小さなRNA: miR-34"
(2011/11/25) - 薬剤性過敏症症候群 - DIHSがつなぐ薬疹とウイルスとの関連性
(2011/11/11) - 線維芽細胞より作製したドパミン作動性ニューロンは生体内において機能的であるのか?
(2011/11/11) - 終末分化した肝細胞から機能的な神経細胞への直接的な系統転換
(2011/10/28) - Nerves and T Cells Connect
(2011/10/28) - Rapid and robust generation of functional oligodendrocyte progenitor cells
(2011/10/28) - 脂肪細胞が発毛を促進する!?
(2011/10/14) - ADAM13はClass B Ephrinsの分解とWntシグナルの調節により頭部神経冠を誘導する
(2011/10/14) - 多能性の維持に働くchromatin remodeling複合体esBAF
(2011/09/30) - 造血幹細胞の維持にはp57が重要である
(2011/09/30) - IGF-II : 記憶力がよくなる分子!?
(2011/09/16) - 固形腫瘍に存在する間葉系幹細胞は癌幹細胞を増加させる
(2011/09/16) - 小腸は抑制性Th17細胞の宝庫
(2011/09/02) - 細胞周期を制御する新規noncoding RNA
(2011/09/02) - Sema3A play an important role in remyelination failure in multiple sclerosis
(2011/08/19) - Drosophila Sex lethal Gene initiates Female Development in Germline Progenitors
(2011/08/19) - Wnt signaling is a key pathway for regulation of Melanocyte stem cells.
(2011/08/05) - A step closer to understanding the heart
(2011/08/05) - 神経再生を阻む「死」のシグナル
(2011/07/25) - テロメラーゼの再活性化によりマウスの組織老化が回復する
(2011/07/25) - 新遺伝子「Glis1」により、安全なiPS細胞を高効率に作製可能
(2011/07/08) - 幹細胞の"状態"をつくりだす細胞外環境
(2011/07/08) - 毛包幹細胞、色素幹細胞を維持
(2011/06/24) - BCL6を標的とした白血病の新たな治療戦略
(2011/06/24) - 自家移植におけるiPS細胞の免疫応答について
(2011/06/03) - ヒト疾患iPS細胞のウィルソン病への応用
(2011/06/03) - FOP(進行性骨化性線維異形成症)の異所性骨化部の起源は?
(2011/04/22) - 非対称分裂がNotchシグナルの活性化を介して皮膚の分化を促進する
(2011/04/22) - ショウジョウバエの腸管幹細胞の増殖は活性酸素により制御される
(2011/04/22) - 線維芽細胞からの直接的なエピブラストステムセルの誘導
(2011/04/08) - 抗リウマチ薬DHODH阻害剤はメラノーマの進展を抑える
(2011/04/08) - 癌再発の指標になる幹細胞
(2011/04/08)
- 新たに判明 がんの転移を促進するメカニズム
- 2010年度
ホーム > 世界の幹細胞(関連)論文紹介 > FOP(進行性骨化性線維異形成症)の異所性骨化部の起源は?
FOP(進行性骨化性線維異形成症)の異所性骨化部の起源は?
論文紹介著者
荒木 大輔(博士課程 3年)
GCOE RA
歯科口腔外科学教室
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Damian Medici/Nature Medicine, 12:1400-1406, 16 Dec,2010
論文解説
はじめに
FOP(Fibrodysplasia ossificans progressive;進行性骨化性線維異形成症)という病気をご存じでしょうか?小児期から全身の骨格筋や筋膜、腱、靭帯などの線維性組織が進行性に骨化(異所性骨化)し、このため四肢・体幹の可動性低下や変形を生じる病気です。有病率は200万人に1人といわれており、日本では50~80名程度の罹患者がいるとされています。発病は203歳、生後拇指部分が外反拇指のように変形していることが特徴で、異所性骨化は生後数年たってから出現します。骨化が始まる前に、フレアアップと呼ばれる発赤・熱感・圧痛を伴った腫脹が出現し、その度に異所性骨化が広がり、関節の可動性が失われます。骨化は体幹から始まり、徐々に末梢へ進行する傾向があります(注1)。
近年この疾患の責任遺伝子の解明がなされ、その本態はBMP typeⅠ受容体であるACVR1(ALK2)遺伝子のR206H変異(206番目のアミノ酸であるR;アルギニンがヒスチジンに置換)であることが報告されました(Nature Genetics - 38, 525 - 527.2006.Shore et.al)。筆者らはこの報告を元に、異所性骨化を引き起こす細胞がいったいどこに由来するのか、ということが今まで解明されていないことに注目し研究をすすめています。そこでさらにその供給源として着目したのが上皮間葉転換(epitherial-mesenchymal transition;EMT)や内皮間葉転換(endtherial-mesenchymal transition;EndMT)といった概念です(EMTとは上皮細胞が間葉系細胞へと形態を変化する現象で、生物の発生段階における器官形成やがん細胞の浸潤において研究がなされています;注2)。
これらをふまえ筆者らは異所性骨化を引き起こす細胞は血管内皮に由来するのではないかという仮説を立て研究を進めていきます。
研究内容
i)まず筆者らは、恒常的にALK2を発現するマウス(caALK2 mouse)を作製し、そのマウスで認められた異所性骨化部位とFOPの患者さんの異所性骨化部位を解析しました。その結果実際に両者の骨化部位において、内皮細胞マーカーであるTie2・vWFの発現がみとめられました。
→異所性骨化部位の細胞は内皮細胞に由来することが示唆される。
ii)さらにヒトの臍帯静脈内皮細胞(human umbilial vein endotherial cells;HUVECs)と皮膚の内皮細胞(human microvascular endotherial cell;HCMECs)に遺伝子の変異の入ったR206H ALK2をウイルスを用いて感染させ強制発現させたところ、間葉系細胞のマーカーであるFSP-1の発現が優位に増加し、さらには間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell;MSC,注3)のマーカー(Stro-1/CD10/CD44/CD71/CD90/CD117)の発現を認め、多分化能の指標である骨・軟骨・脂肪への分化を確認しました。
→内皮細胞は遺伝子変異型ALK2(R206H)により間葉系幹細胞の形質を獲得する。
iii)最後に彼らは、前述のHUVECsとHCMECsにALK2のligandであるTGF-β・BMP4を添加したところ、同様に間葉系幹細胞の形質を獲得しました。さらにこの形質の変化はALK2特異的なsiRNAを導入することでキャンセルされることがわかりました。
→ALK2を介してTGF-β・BMP4の作用によりEndMTが引き起こされる。
今回の論文について
今回彼らが示した新しい知見は,FOPに認められる異所性骨化は何が原因で引き起こされるのかという疑問に対し示唆をおこなった点ではないでしょうか。それはACVR1(ALK2)遺伝子のR206H変異により、血管内皮細胞が間葉系幹細胞様の形質を獲得(EndMT)することで、その細胞が骨格筋や筋膜、腱、靭帯に集積することで異所性骨化が引き起こされるというものです。現在、FOPに対する有効な治療法が確立されているわけではありません。この知見によりFOPにおける異所性骨化を防ぐ方法として、血管内皮細胞のEndMTを防ぐことで有効な治療法につながることも考えられます。
解説
- 注1
財団法人 難病医学研究財団/難病情報センターのホームページにFOPについての情報が載っています、ご参照ください。 - 注2
Epithelial-Mesenchymal Transition (EMT;上皮間葉移行):上皮細胞が間葉系様細胞に形態変化する現象で、初期胚発生における原腸陥入、神経提細胞の運動や器官形成過程特に、心臓や腎臓また口蓋形成での重要性がこれまでに明らかとなっています。一方、EMTの獲得が運動性の亢進や細胞外基質の蓄積をもたらすことから、癌細胞の浸潤や線維症との関連も示唆されています。 - 注3
Mesenchymal stem cell(MSC;間葉系幹細胞):間葉系幹細胞は、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への多分化能を有する組織幹細胞です、間葉系に属する細胞への分化能をもつとされる細胞で、骨や血管、心筋の再構築などの再生医療への応用が期待されています。
Copyright © Keio University. All rights reserved.