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癌再発の指標になる幹細胞
論文紹介著者

樺嶋 彩乃(博士課程 2年)
GCOE RA
内科学(消化器)
第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月
Anna Merlos-Suarez/Cell Stem Cell 8, 1-14, May 6, 2011
文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)
Anna Merlos-suarez, Francisco M. Barriga, Peter Jung, Mar Iglesias, Maria Virtudes Cespedes, David Rossell, Marta Sevillano, Xavier Hernando-Mombloa, Victoria da Silva-Diz, Purificacion Munoz, Hans Clevers, Elena Sancho, Ramon Mangues, and Eduard Batlle
The Intestinal Stem Cell Signature Identifies Colorectal Cancer Stem Cells and Predicts Disease Relapse Cell Stem Cell 8, 1-14, May 6, 2011
論文解説
はじめに
幹細胞(stem cell)の概念を考える上で、腸管上皮は幹細胞を頂点とする階層システムを最も明確に観察することのできる臓器であると言えます。
その構造は至ってシンプルであり、図のように絨毛(villi) と陰窩(crypt)に分けられ、cryptの底部に存在するstem cellがvilliに向かってPaneth細胞、transit amplifying(TA)細胞、goblet細胞、enterocyte、enteroendcrine細胞、絨毛細胞へと下から上に分化していき、最終的には脱落するという階層構造を観察することができます。腸上皮の恒常性維持にはWntシグナル(※1)が重要とされており、これまでの報告によりcrypt底部に存在するWntシグナルの標的であるLgr5陽性の細胞が腸におけるstem cellであるいうことが明らかとなっています(Barker et al. Nature, 2007)。
癌の進展機序において、癌組織に存在する癌幹細胞(cancer stem cells: CSCs)が治療抵抗性や浸潤・転移、再発などに関し中心となって作用している可能性が高いと考えられています。CSCsは正常の組織幹細胞が何らかの原因で癌化したものであると考えられており、正常の幹細胞とマーカーを同じくすることもしばしばです。
今回紹介する論文は、正常の腸組織中に存在するstem cellマーカー陽性の細胞が癌組織においても同じように存在しており、その陽性細胞は病態のstageが高いと多く、再発や予後の予測とも相関があるというものです。(関連ブログ:2010/10/01 の「単一のLgr5幹細胞からのin vitroでの陰窩・絨毛構造の構築」)
正常組織における腸管幹細胞(intestinal stem cells:ISCs)
前述のとおり、腸管幹細胞(ISCs)はcrypt底部に存在し、腸管の恒常性維持の役割を果たしています。著者らは現在同定されているLgr5と同様にWntシグナルの標的であるEphB2に着目し、まず、cryptにおける発現を検討しました。EphB2の発現はcrypt底部から上部に行くに従い弱まり、EphB2の未分化細胞における発現を裏付けるものでした。更にEphB2とLgr5の発現量も相関しており、腸上皮を含む原形質類器官(organoid)を形成する能力を有していたことから、EphB2はLgr5と同様に、ISCに発現するタンパクであることが示されました。
大腸癌組織におけるEphB2, Lgr5の発現
次に筆者らは大腸癌組織におけるEphB2の発現について検討を行いました。癌組織においてもEphB2はcrypt底部に限局しており、更にそれらの発現がLgr5と一致していることを確認しました。また、癌幹細胞としての性質を明らかにするために、EphB2発現レベルに応じた3グループ(high, med, low )についてマウスへ皮下移植し、腫瘍形成能の比較を行いました。その結果、EphB2 発現レベルが上昇するにつれ腫瘍形成能力が高まり、EphB2 high グループにcancer stem cellが多く含まれているということが考えられました。
ISCの存在と再発予測
CSCsの特徴の一つに再発の鍵となっている可能性が指摘されています。もともとCSCsは他のnon-CSCsと異なり抗癌剤や放射線など各種治療に対して抵抗性の性格を持っており、たとえ治療後腫瘤が確認できなくなった後もどこかに潜伏し再び増殖してくるといった性格が考えられています。著者らはEphB2-ISCの発現は予測される再発率や治療後の生存率に影響しているのではないかと考え検討を行いました。ISC関連の遺伝子が高い組織は低い組織に比べ再発のリスクが10倍以上高まり、更にEphB2-ISC遺伝子が低いグループは治療後10年間は再発のリスクが低いということが示され、このEphB2-ISC遺伝子の発現は予後の指標とできるということが示唆されました。
今後の展望
これまで多くの研究者達がCSCを認識することのできるマーカーを報告しています。これらの発見はCSCの特徴をとらえて治療標的とするためだけでなく、今回の論文のように予後や再発予測のツールともなりうるということが明らかとなりました。今後、更に正常と癌のstem cell間に存在する特異的な分子の違いを見出すことができれば、CSCを標的とする診断・治療の構築にまた一歩近づいていけるものと思われます。
解説
- ※1 Wntシグナル
発生や形態形成など生命現象に重要な役割を果たしている。様々な臓器においてこのシグナルの重要性が知られているが、特に腸上皮の幹細胞においてこのシグナルが活性化されているとされており、腸管の恒常性維持・調節を担っていることが確認されている。癌領域においても胃癌や大腸癌においてこのシグナル異常が見られ、癌幹細胞研究分野において注目されている。今回注目したLgr5やEphB2はこのWntシグナルの標的分子となっており、幹細胞をとらえるマーカーとして有用である。

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