慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
English

世界の幹細胞(関連)論文紹介


ホーム > 世界の幹細胞(関連)論文紹介 > 線維芽細胞からの直接的なエピブラストステムセルの誘導

線維芽細胞からの直接的なエピブラストステムセルの誘導

論文紹介著者

小坂 威雄(博士課程 4年)

小坂 威雄(博士課程 4年)
GCOE RA
泌尿器科学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Dong Wook Han/Nature cell biology, Jan;13(1): 66-71

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Han DW, Greber B, Wu G, Tapia N, Araúzo-Bravo MJ, Ko K, Bernemann C, Stehling M, Schöler HR. : Direct reprogramming of fibroblasts into epiblast stem cells. Nat Cell Biol. 2011 Jan;13(1):66-71.

論文解説

マウスのES細胞とヒトESの細胞は、名前は同じEmbryonic stem cell(胚性幹細胞)であるが、その性質において差異が存在していることが知られている。
例えば、マウスES細胞のコロニーは盛り上がった球状で、ヒトES細胞のコロニーは扁平な単層である。未分化性維持にはマウスES細胞においてはLIFやBMP4が重要であり、ヒトES細胞においてはbFGFおよびActivin Aが重要であるなどである。多能性の維持機構のシグナル依存性に顕著な差が認められていた。ヒトES細胞は、マウスES細胞よりもむしろマウスEpiSCに近く、発生に伴う、多能性幹細胞の性質の違いは、株化された多能性幹細胞の発生段階に違いに起因しているのではないか、では発生段階に沿った分類が可能と考えられてきている。そこで、それぞれの多能性の段階の移行は可能であろうか?という疑問が生じてくる。
本研究はマウス線維芽細胞にOct4, Sox2, Klf4, c-Mycを導入しEpiblast stem cell (EpiSC)の培養条件で培養することでinduced EpiSCs(iEpiSCs)を直接的に作製できることを示し、転写因子を介したリプログラミングにおける培養条件が細胞の運命を決定することを示した論文である。

EpiSCではKlf4の発現が非常に低いことから、Klf4を除くOct4, Sox2, c-Mycの3因子ではES細胞もしくはEpiSC様細胞を得ることができない。
Oct4遠位エンハンサーの発現制御下でGFPを発現するGOF18ΔPEマウス由来のMEFに4因子全てを導入し、培養したところ、EpiSCに類似したiPS細胞コロニーが出現した。EpiSCにおいては、Oct4-GFPレポーター(GOF18ΔPE)のサイレンシングが必要条件だが、EpiSC様のiPS細胞コロニーではOct4-GFP陽性細胞がコロニーの中心部に存在し、EpiSC様のiPS細胞コロニーはOct4-GFP陽性ES細胞様iPS細胞から間接的に誘導され、作製された可能性が示唆された。そこで、次に、FGF2, Activin A, LIF antibodyを含む培地(CDM培地)を用いたところ、Oct4-GFP陽性細胞が見られなくなり、約5週間でEpiSC様コロニーの形成が見られるようになった。
これらは、EpiSC特異的遺伝子発現パターンを示し、ES細胞特異的Oct4-GFP発現が見られないことから、CDM培養下で出現するEpiSC様iPS細胞(以降induced EpiSC, iEpiSCと表記)はMEFから直接的に形成されたことが示唆された。直接的に誘導されたことを証明するために、X染色体にGFPトランスジーンを持つreporter systemを用い、X-GFP陰性MEFからiEpiSC誘導実験を施行した。 CDMで培養した場合にはGFP陽性コロニーが現れないことから、iEpiSCはMEFから直接的に誘導されていることを証明した。iEpiSCはEpiSCと見分けがつかない扁平な特徴的なコロニーの形態を呈しており、iEpiSCは非常に弱いアルカリフォスファターゼ活性を示し、Oct4, Sox2, Nanogを発現しているものの、NanogとSox2の発現はiPS細胞よりもiEpiSCでわずかに低い発現レベルであった。また、グローバルな遺伝子発現プロファイルは、EpiSCとほぼ同様であり、MEF, ES細胞とは異なることを示した。iEpiSCはEpiSCとOct4-GFPとStellaのプロモーターが完全にメチル化されており、テラトーマ形成能を有し、三胚葉には分化できるがキメラ形成能は有していなかった。
次に、iEpiSCを、MAPKシグナルおよびGSK3の阻害剤およびLIFを添加した培地(2i+LIF培地)においてESの様の多能性の状態に移行できるかを検討したところ、その移行が不十分で、Klf4を強制発現(Klf4-2A-Td-Tomato)させ、2i+LIFで培養したところ、iEpiSCのES細胞様の多能性への転換が誘導され、多能性への移行が可能となった(iEpiSC-R)。iEpiSCが2i+LIF培地ベースのES細胞様状態へのreversionに抵抗性を示すのか調べるために、それぞれ2つのEpiSCとiEpiSC細胞株でマーカー遺伝子(Dkk1, Foxa2, Eomes, Acta2,Gata6, Sox17, Cer1, Gata6, Gsc)の発現を比較したところ、iEpiSC中の中胚葉マーカー遺伝子の発現が、2i+LIFベースのES細胞様状態への転換能と逆相関することが分かり、得られたiEpiSCはEpiSCと比べ発生学的には、後期の段階にあることが示唆された

Copyright © Keio University. All rights reserved.