慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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ASCO annual meeting 2011

氏名

高本 やよい
GCOE RA
先端医科学研究所
遺伝子制御研究部門

詳細

GCOE Young Researcher Support Plan(2011年度)
参加日:2011年6月3日~2011年6月7日

活動レポート

第47回American society of clinical oncology(ASCO:米国臨床腫瘍学会)年次学術集会が、2011年6月3日~6月7日の5日間にわたり、イリノイ州シカゴの McCormick Placeにて開催され、GCOE Young Researcher Planにて参加させて頂きました。ASCOは、毎年世界中から約3万人の参加者が集まる世界最大規模の国際学会の一つです。この学会では、毎年多くのeducational sessionや現在世界中で進行中の治験・臨床試験に関する報告が行われ、臨床の方向性に関する討議が行われます。今回、私にとっては初めての国際学会参加であり、その規模の大きさに驚きの連続でした。私の専門とする乳癌は、大きく予防、診断(画像・病理)、手術療法、薬物療法、放射線療法の分野に分かれます。それぞれの分野で多くの論文やエビデンスを発信している名だたるexpertの先生方によるlectureをeducation session等で拝聴し、世界を身近に感じることができ、非常に良い刺激を得ることができました。また、日本からも乳癌領域を牽引している多くの重鎮の先生方が参加されており、ASCOの発表を通じての日本の医療システムの問題点や発表の解釈など貴重な意見を聞くことができ、非常に有意義な機会を得ることができたと感じています。

乳癌においては、遺伝子プロファイリングによる分類(intrinsic subtype) に応じた個別化治療の概念が広く普及し、それぞれのsubtypeにおいてのkey drugが提唱されその治療は標準化されつつあります。実臨床においては、estrogen receptor(ER),progesterone receptor(PgR),human epidermal growth factor receptor type 2(HER2)、Ki-67の免疫染色を行いその発現レベルをsurrogate markerとして用いて、intrinsic subtypeへのカテゴリー化が行われています。免疫染色にてER ,PgR,HER2のいずれもが陰性のtriple negative乳癌は、今もなお確立したtargeting therapyが存在せず、治療抵抗性の乳癌として知られており、乳癌の中でも最も予後不良のsubtypeとされています。 triple negative乳癌はさらにDNA microarrayによる解析でいくつかのサブタイプに分類されます。その中でも、Claudin-low subtypeは乳癌幹細胞のfeaturesを有するとして、乳癌全体の治療の発展、薬物耐性の原因解明、triple negative乳癌に対する効果的治療法の研究という観点から、非常に注目されています。 今回の学会でも多くのtriple negative乳癌に関する報告がなされていました。今回、非常に強調されていたのが、以前から指摘されている乳癌、引いてはtriple negative乳癌のheterogeneityであります。免疫染色ではtriple negative乳癌の表現系であったにも関わらず、DNA microarrayによる解析ではER,PgR,HER2が発現している腫瘍群を認める点は、triple negative乳癌の治療の難渋性をまさに意味していると感じました。 また、triple negative乳癌に対する有効性が期待されているPARP阻害剤、VEGF阻害剤の臨床試験の結果に対する報告もなされました。いずれも、現段階でtriple negative乳癌に対する臨床的有効性を決定づける結果は報告されませんでしたが、臨床試験の運用における問題点や臨床試験エントリー対象に関して問題点が提起される形となりました。 heterogeneity により、triple negative乳癌、そして乳癌全体は今後さらに多くのサブタイプに分類され、治療もさらに個別化したものになると感じました。 現在では、次世代シークエンサーによる網羅的解析アプローチが可能となり、先に開催された第102回American Association for Cancer Research(AACR:米国癌学会)において、50人の乳癌患者における遺伝子配列の解析結果が報告されています。 今後は、多量に得られた遺伝子情報から、研究の目的に適した信頼性の高い候補を選び出し、次の実験で扱える程度の数に、精度良く絞り込む方法を探ることが重要な課題であり、その方法そのものが研究のアドバンテージになると感じました。また、このような分析が、今後triple negative乳癌の治療標的発見に繋がるだろうと感じる一方で、まだまだ解析・検討・整備しなければならない事項が多く残されていることを痛感しました。 今回のASCOの会長であるGeorge W.Sledgeの講演の中で使われた、「ゲノム研究時代」「ゲノムカオス」という言葉にまさに集約されていると思います。  次回の国際学会参加の際は、私自身が世界の舞台に立って新たなエビデンス、研究成果を発信したいという強いモチベーションに繋がりました。今回の貴重な経験を今後の乳癌治療への貢献に生かすべく、日々精進してまいりたいと思います。

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