慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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第9回ISSCR (International Society for Stem Cell Research)

氏名

大多 茂樹
GCOE 特任講師
総合医科学研究センター KVPC(慶應ベクタープロセッシングセンター担当)

詳細

GCOE Young Researcher Support Plan(2011年度)
参加日:2011年6月15日~2011年6月18日

活動レポート

2011年6月15日-18日にトロント(カナダ)で開催された第9回ISSCR (International Society for Stem Cell Research)にGCOEプログラムのサポートを受けて参加して参りました。本学会は幹細胞研究全般に関する国際学会で年一回開催されています。ちなみに、来年は横浜で開催予定です。参加者の約半数以上は北米から参加していますが、世界中のトップクラスの幹細胞研究者が集い、その成果を発表するため、幹細胞生物学研究者にとっては最新の学術的な知見を得るために大切な場となっていると同時に、グローバルなヒューマンネットワークを築くのにまたとない機会となっています。今回の学会会場は、トロント市内のダウンタウンより南に位置するユニオン駅の近くに位置し、会議場の近隣にはCNタワーや大リーグのトロントブルージェイズのホームグランドとして知られるロジャースタジアムが位置していました。日本からも多くの学会参加者があり、本学医学部からも私も含め多くの学会演題が発表されました。本学会での特記事項としては、京都大学の山中伸弥教授と高橋和利講師がマキュアンセンター・イノベーション賞を受賞されたことがあげられます。また、山中教授は日本でも大きく報道された新規山中因子とも呼べるGlis1の発見を報告されるとともに、iPS細胞の安全性に関して言及されていました。日本でもiPS細胞由来網膜色素細胞シートを用いた臨床研究が近い将来に予定されており、iPS由来細胞の均一性や安全性に関しては、今後とも重要な研究課題と言えます。本学会でもiPS細胞がなぜリプログラミングにより作製できるのかといった内容に関する報告が数多くありましたが、当然、再生医療の実現化のために神経・心筋・肝細胞と言った種々の組織細胞に如何に効率良くiPS細胞から分化誘導するかという手法に関しても多くの報告がありました。さらに、種々の疾患(例えば、パーキンソン病・自閉症・ALS・色素異常症等)からiPS細胞を作製し、さらにニューロンや色素細胞等に誘導して、試験管内でそれらの疾患の発症メカニズムを解明する試みに関しても多くの報告があり、一部の製薬企業等からはES細胞や疾患iPS細胞由来神経細胞を材料にして、それらの疾患治療薬シーズを探索したという報告がありました。疾患由来iPS細胞は、今後種々の疾患の機能解明や薬剤開発において強力なパワーツールになることが実感できました。また、iPS関連の話題といえば、直接繊維芽細胞に複数の転写因子を導入することにより、運動ニューロン等を作製することができるという直接分化法の開発に関する報告がありました。ニューロン産生のみに限らず、免疫担当細胞等でこの概念の有効性が近年証明されていますが、その簡便な方法から、今後ますます直接分化法に関する研究が加速されることが予測されます。

大会最終日には、イタリアのグループから角膜上皮幹細胞由来シートを用いた臨床研究に関しての報告がありました。本学でも同様な角膜上皮幹細胞由来シートを用いたスティーブンス・ジョンソン症候群患者への移植治療をGCOEプログラムの一環として行っておりますが、イタリアのグループからも、その高い有効性が報告され、当該研究の重要性を再認識致しました。さらに、幹細胞を用いた低分子化合物医薬品に関してもMerck, Novaritis, Pifzer といった欧米大手製薬会社の研究者よりの報告がありました。今後、これらの欧米大手製薬会社が幹細胞を材料としての創薬を加速させていくことが予想されます。国内でも当学を含め京都大学等で、iPS細胞を基盤とした製薬会社との共同研究が展開されていますが、今後日本のバイオ産業をさらに活性化するために、再生医療を基軸とした創薬の展開の重要性を認識しました。単純に再生医療というと、細胞治療をイメージしますが、幹細胞およびその分化細胞を用いて、これまでに成しえなかったヒト細胞を素材とした様々な疾患メカニズムの解明やその治療薬の開発が可能になることが期待されます。

日本の研究分野においても、グローバルな研究の重要性が指摘されて久しいことと思います。20年前と比較すれば、確実に日本のバイオサイエンスの研究レベルが向上したことは間違いありません。その要因としては、若い研究者や学生が早い時期から、海外の学会に参加したりして、国際的な研究レベルのスタンダードを肌で感じる機会を持ったことが考えられます。これには、格安航空運賃の出現が貢献していることは間違いありません。今回、カナダのあるチームはグローバルかつ大規模なiPS細胞オミックス研究を展開していることを報告しました。E-mail等で海外研究者と情報交換することが、日常茶飯事となった今日でも、実際に会って研究に関して話し合うと、以外な情報を得ることができたり、研究材料を簡単に送って貰うことができたりします。GCOEプログラムは、今後の日本の若いグローバルに活躍できる人材育成に重要な役割を果たしていることは間違いありません。今後もこのような充実したプログラムの継続が、人材形成や研究レベルの向上に欠かせないと考えます。

私自身、自分の研究関連分野の世界における研究進捗状況を本学会で確認できて、たいへん有意義な学会参加となりました。最後に、本学会参加をサポートして頂いたGCOEプログラムに御礼申しあげます。

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