慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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Young Researchers' Trip report


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APDRC,1st(Taipei, Taiwan)

氏名

織原-小野 美奈子
GCOE PD
生理学

詳細

GCOE Young Researcher Support Plan(2011年度)
参加日:2011年5月22日~2011年5月25日

活動レポート

2011年5月22日から25日の日程で、台湾 台北市で開催されたAPDRC,1st, 第1回アジア太平洋ショウジョウバエ研究集会に参加することができた。APDRCはアジア太平洋地域のDrosophila 研究者の緊密な連携を目的に準備が進められてきた学術会議で、今回が第1回の開催になる。Drosophilaは細胞間相互作用、組織・器官の発生再生、個体維持と系統存続など多細胞生物の根幹をなす主立った現象のすべてにおいて優れたモデル系として用いられている。特に世代交代の早さや小規模のスペース、小予算で充分に研究活動が行えること、さらに研究者間での非常に活発な系統交換や抗体など研究資材の相互譲渡が行われることでDrosophilaを他の追随を許さぬ優れたモデル動物に押し上げてきた。また、Notch/Delta伝達経路に制御される幹細胞維持機構の基礎的研究は、Drosophilaの神経細胞系を用いた解析が端緒となって進展してきた。Drosophila melanogasterには他の生物種の及ばぬ精度でNotchおよび関連因子の変異体系統、改変動物系統などが蓄積しており、さらなる進展が期待される。今回我々は、視覚神経幹細胞(OOA/OPC)の未分化性維持にNotch/Delta活性化が細胞非自律的に機能することを発表した。視覚神経系では上皮性幹細胞維持機構のほか回路形成機構や網膜グリア細胞の発生機序などに関する解析も演題が出され、活発な議論がなされていた。Notch Delta signaling 経路に関して新規のトピックもだされており、この分野の元気のよさを感じた。

Taiwanは地理的にも文化的にも アジアの中間地点で、ほとんどの参加者が余裕を持って臨席することができたのではないだろうか。会場の劍潭青年活動中心は松山空港からほど近く、便利な場所であった(故宮博物館にも近い、実にいい立地である)。ほとんどの参加者は会議場の宿泊施設に滞在し、外部に泊まるにしても近隣に多くのホテルがあったので、不自由を感じることなく過ごすことができた。食事は『まあ 立食だろう...』などと勝手に想像していたが、8人着席の円卓で、台湾料理を昼、夜と(会議場のロッジに宿泊していると朝も)出していただいた。8人となると、ほぼ確実に2~3のグループと取り混ぜた相席になり、とりわけながら気軽に会話もできて楽しいものだった。ほとんど東アジアの出身らしく箸で頂いていたが、なかに「チャレンジ!」な方がいると応援したくなる。

会議はTaiwan出身で Neural Stem Cell 研究のまさに草分けであるYN Jan 博士の基調講演で始まった。現在はcell adhesion molecule によるdendritic arborization 形成などに 尽力している様子。cell type ごとにことなるdendritic pattern が精細にコントロールされる機序は多細胞生物の組織構築の理解一般につながるトピックであると感じた。続いてStem Cell 関連の演題がつづき、成虫の脂肪細胞における代謝関連分子の研究、血球系の分化、Neural stem cell の分裂回数制御に関するもの、など最新のdataを多数聞くことができて大変有意義な時間であった。日本からのspeakerも多く参加し、特に今年度情報・システム研究機構機構長を勇退されたYoshiki Hotta博士のご講演は大変に拡張高く、世紀にまたがる生物学研究の俯瞰図を示していただき、最終講義を聞かせていただいている気持ちだった。YN Jan 博士にしろYoshiki Hotta博士にしろ、ハエに脳なんてあるの?といわれた時代に(いまも時々聞かれますが)解析を始めた先駆者なので、重みが違う。さてtalkは、第一線の研究者と若手が程よく入り交じり、また質疑なしの5min talk の形式も入ってtempoよく進んだ。Posterは200題で、発生関連のものが多かったが、統計遺伝などさまざまな分野のものがあり、視野をひろげることもできた。imaging 技術やsimulation解析などを駆使している研究もかなりあった。適度な大きさの個体であるという利点を最大限に生かした研究成果だと思う。200題というとすぐに見終わっていまいそうだが、どの演題も非常にtopicsもmaterial も似通っているので興味深く、もっと時間があってもよいくらいだった。

coffee break に点心がとても種類豊富で、更にあまりなじみのない熱帯フルーツも(人間用に)盛り合わせで出ており、興味深かった。大規模学会もよいがひとつの議場で、すべての演題を腰を落ち着けてきける、というのは、specificな学会ならではの長所であろう。

Taiwan の研究コミュニティは準備に非常に力を入れてくださり、学部学生、大学院生、若手の研究者などがスタッフとして献身的に行動してくれていた。今回は第1回目の開催ということで、この成功が今後のアジア太平洋地域のショウジョウバエ研究環境の進展に大きく寄与すると考えられる。

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