慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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造血幹細胞のメンテナンスを行う新たな因子の発見

論文紹介著者

池尻 藍(博士課程 3年)

池尻 藍(博士課程 3年)
GCOE RA
微生物学・免疫学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

LiQi Li/Nature Immunology・12・2・129-136・February 2011

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

LiQi Li, Raja Jothi, Kairong Cui, Jan Y Lee, Tsadok Cohen, Marat Gorivodsky, Itai Tzchori, Yangu Zhao, Sandra M Hayes, Emery H Bresnick, Keji Zhao, Heiner Westphal and Paul E Love Nuclear adaptor Ldb1 regulates a transcriptional program essential for the maintenance of hematopoietic stem cells. Nature Immunology. Vol. 12. Number 2. 129-136. 2011

論文解説

動物の発生初期段階の胚から作られ、理論上全ての組織に分化することのできる幹細胞株である胚性幹細胞(embryonic stem cells ; ES cells)においては、自己複製や分化の際に必要な因子について明らかになっています。一方、生体の様々な組織に存在する体性幹細胞(somatic stem cells)は、胚性幹細胞と同一の因子により分化・増殖することが知られていますが、主力の調節因子が何であるかは未だ不明です。そこで今回は、体性幹細胞の一部である造血幹細胞の、新たに発見されたメンテナンス因子について紹介します。

<造血幹細胞とは・・・>

造血幹細胞(hematopoietic stem cells)とは、血球系細胞に分化可能な幹細胞で、白血球(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、マクロファージ)、赤血球、血小板、肥満細胞、樹状細胞を作り出します。造血幹細胞からの分化過程は造血(hematopoiesis)と呼ばれ、この造血の場は年齢ごとに変化します。胎児期では肝臓や脾臓が主な造血の場ですが、出生後は骨髄で造血が行われます。

<Ldb1は造血幹細胞のメンテナンスに働く>

Ldb1(LIM domain-binding protein 1)は様々なタイプの細胞が発生の過程で発現する核タンパクの一つです。造血幹細胞において、GATA-1やGATA-2などの転写因子*1と多重結合を形成することが知られています。Ldb1は胚性幹細胞においても発現していますが、胚性幹細胞のLdb1を欠損させても増殖や形態に異常は見られず、中胚葉*2発生のための遺伝子発現は正常に見られました。一方、造血幹細胞はLdb1が欠損することで、その数が減少していました。しかし胎生期の造血の場である胎児の肝臓と、成体マウスの骨髄中の造血幹細胞を比較したところ、胎児の肝臓では一過性に造血幹細胞の発生が見られますが、その数は急激に減少し、成体ではほとんど存在しなくなることより、Ldb1は造血幹細胞のメンテナンスに働く因子であることが明らかとなりました。

また、著者らはLdb1の役割を解明するために、Ldb1を欠損させた造血幹細胞における遺伝子発現を調べたところ、細胞のメンテナンスに関わる遺伝子であるMeis1、Runx1、Myb、Foxo3a、Ptenの発現が減少していました。すなわち造血幹細胞のホメオスタシス*3を維持するために、Ldb1はこれらの遺伝子に直接作用していることが示唆されました。

図

<まとめと感想>

著者らにより、Ldb1が造血幹細胞のメンテナンスに重要であることが新たに発見されました。今後さらにLdb1の働きが解明されることで、幹細胞を用いた再生医療研究が進展し、治療に繋がることが期待されます。

解説

  • *1 転写因子
    DNAに特異的に結合し、DNAの遺伝情報をもとにRNAを合成する過程を促進または抑制する因子。
  • *2 中胚葉
    胚葉とは動物の胚発生の過程で形成される細胞の層状の集団。外胚葉、内胚葉、中胚葉があり、中胚葉からは体腔や中皮、筋肉、骨格、心臓、血管、血液、リンパ管、脾臓、腎臓などが形成される。
  • *3 ホメオスタシス(恒常性)
    生体の内部や外部の環境因子の変化に関わらず、生体の状態が一定に保たれる性質。

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