慶應義塾大学 グローバルCOEプログラム 幹細胞医学のための教育研究拠点
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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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毛包の前駆細胞から生じるSKPs(皮膚由来多能性前駆細胞)は、成人真皮幹細胞としての特性を示す

論文紹介著者

川崎 洋(博士課程 4年)

川崎 洋(博士課程 4年)
GCOE RA
皮膚科学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Jeffrey Biernaskie/Cell Stem Cell・5(6)・610-623・2009 Dec

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Jeffrey Biernaskie, Maryline Paris, Olena Morozova, B.Matthew Fagan, Marco Marra, Larysa Pevny, Freda D. Miller. SKPs derive from hair follicle precursors and exhibit properties of adult dermal stem cells. Cell Stem Cell. 5(6):610-623, 2009

論文解説

皮膚は優れた再生能を持ち、表皮幹細胞やメラノサイト幹細胞などがその機能を担っていることが知られているが、真皮を維持し修復する真皮幹細胞はこれまでに同定されていない。筆者等は神経堤由来であり、そのnicheが毛乳頭にあるとこれまでに考えられていた、皮膚由来多能性前駆細胞(SKPs)が皮膚幹細胞としての役割を担っているのではないかと考えた。

毛包の幹細胞マーカーであるSox2陽性の毛乳頭細胞、毛根鞘細胞はSKPsを誘導し、毛包はそのnicheとして働くことがわかった。毛包のSOX2陽性真皮細胞は、毛包を再構成する能力をもち、神経系や真皮系細胞へ分化した。さらに、SKPsとSox2陽性真皮細胞は転写レベルにおいて高い類似性を示すことがわかった。SKPsが機能的にSox2陽性真皮(前駆)細胞と機能的に類似するかどうかを確認するために、YFPで標識した仔マウスの皮膚やGFP標識した生体ラットのSKPsをNOD/SCIDマウスの皮膚に移植したところ、標識細胞はSox2陽性細胞同様に真皮系の細胞への分化能を認め、移植したSKPsの一部は毛包の毛乳頭や毛根鞘に帰属した。また、障害した皮膚ではSKPsが毛包の再形成を誘導している像が確認されたことから、SKPsは毛包のNicheの維持に重要であることがわかった。Patch assayやサイズの大きいラットのGFP標識したSKPsをマウスに移入するin vivo実験によりSKPsは毛包形成の能力も有することがわかった。

さらに、本論文ではSKPsが幹細胞の最も特徴的な機能である自己複製能を有し、多分化能を維持していることにも言及している。生体ラットより樹立したSKPsのsingle cloneが毛包形成や真皮系の細胞への分化を認めることを示した。また、マウスへのPatch assayにより生体ラットのGFP陽性SKPsを用いた毛包形成を誘導し、ここから得られた細胞をSKPsコンディション下で細胞培養したところGFPで標識されたsphereが形成された。このsphereを継代し再度patch assayを行うとまた毛包形成が生じる、ということが3回まで繰り返されることが示された。そして、この毛包より得られたSKPsは脂肪細胞、平滑筋細胞、神経細胞などへの多分化能を有していることも示された。最後に、本論文では毛包の毛乳頭と毛根鞘に存在しているSox2陽性細胞及び移植したSKPsが、皮膚障害時には障害部位に移動し、真皮の維持と組織修復に貢献していることをwound healingモデルを用いて示している。

こうして、本研究ではSox2陽性の毛包の真皮前駆細胞から得られるSKPsは、真皮幹細胞として考えられるトランスクリプトーム、機能的特性を有し、真皮環境の維持、組織修復、毛包形成等に重要な働きを担っていることを明らかにした。

 
図

解説図:毛包断面図
毛を取り囲む組織のことを毛包(Hair follicle)という。
毛包内の毛乳頭には幹細胞のポテンシャルをもつ、Sox2+(陽性)細胞, Sox2-(陰性)細胞, SKPs(皮膚由来多能性前駆細胞)というそれぞれ異なって定義された細胞集団が存在する。しかし、これらの細胞の特徴、役割は明らかになってい ない。
(Kellner JC, Coulombe PA. Cell Stem Cell 2009より改変)

用語解説

  • ※1 SKPs (skin-derived precursor cells:皮膚由来多能性前駆細胞)
    皮膚由来多能性前駆細胞 :皮膚から分離されるSphereを形成する細胞。神経、グリア細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞などに分化する(Toma et al.2001. Nat Cell Biol)。神経堤由来であり、そのnicheは毛包の毛乳頭にあると考えられていた(Fernandes et al.2004. Nat Cell Biol)。
  • ※2 メラノサイト(melanocyte: 色素細胞)
    神経堤由来の遊走性、樹枝状の細胞。皮膚では主に基底層と毛母に分布する。
  • ※3 神経堤(Neural crest)
    脊椎動物の初期発生において表皮外胚葉と神経上皮の境界部に生じる細胞集団。神経堤に由来する細胞からは、末梢神経の神経細胞や色素細胞(メラノサイト)の他、筋や骨や軟骨、血管壁などの様々な細胞への分化が起こり、いわば胚性幹細胞に近い分化能を有することが知られている。
  • ※4 Niche
    幹細胞は通常、未分化性を維持し、活性化されて分裂・分化を開始する時を待っている。その際の、幹細胞が未分化な状態として維持される微小環境のことをNicheという。
  • ※5 Patch assay
    新生仔マウスの表皮・真皮解離細胞をヌードマウスに移植し、毛包を再構築する手法。

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