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世界の幹細胞(関連)論文紹介


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恐竜は何色?

論文紹介著者

横内麻里子(博士課程 4年)

横内麻里子(博士課程 4年)
GCOE RA
皮膚科学教室

第一著者名・掲載雑誌・号・掲載年月

Fucheng Zhang/Nature Vol 463 1075-1078, 2010

文献の英文表記:著者名・論文の表題・雑誌名・巻・号・ページ・発行年(西暦)

Fossilized melanosomes and the colour of cretaceous dinosaurs and birds Fucheng Zhang, et al: Nature Vol 463 1075-1078, 2010

論文解説

果たして、恐竜は何色だったのか?

筆者が子供の頃は、恐竜図巻や絵本に描かれた恐竜は茶色やくすんだ緑色など地味であったように思う。これは当時、恐竜は体温が気温に左右されやすい変温動物で、爬虫類から進化したものであると信じられていたからであるらしい。そして恐竜が鳥類の先祖であることがほぼ定説となった現在では、赤やオレンジ、鮮やかな緑やブルーなどカラフルな恐竜の復元画が主流となっている。つまり、われわれが日ごろメディアなどで目にする恐竜の色はあくまでも現生動物をもとにした推測であり、想像の域を出てはいないのである。

ところがこのほど、Zhangらは、中国東北部遼寧省から出土した白亜紀前期の恐竜の化石の羽毛から、恐竜皮膚の色調や模様を解明する重要な手がかりを発見したと報告した。

鳥類の羽色を決定する色素には、メラニン、カロチノイド、ポルフィリンなどがあり、メラニンにはほ乳類と同様に黒~褐色を呈するユーメラニンと、栗色から赤褐色の色彩を呈するフェオメラニンとがある。それぞれのメラニン合成に働くメラノソームを、ユーメラノソーム、フェオメラノソームという。鳥類の羽毛の化石では、これらのメラノソームも化石化して保存されており、ユーメラノソームは長径約1μm、短径約300nmの棍棒型、フェオメラノソームは長径約600nm、短径約400nmの卵型をしている。

獣脚類とよばれる恐竜は三畳紀後期に出現し、白亜紀の終わりまで繁栄した細長い体に比較的長い後肢を持つ二足歩行の肉食恐竜である。獣脚類は羽毛を備え、さらに電子顕微鏡による解析によって、羽毛の構造内部にメラノソーム様構造がみられることが近年の研究で明らかとなっていた。ところがこのメラノソーム様構造については、化石化した羽毛中のメラノソームであるのか、バクテリアが化石化したものであるのか、長らく議論が分かれていた。

Zhangらは、小型の獣脚類であるSinosauropteryx、Sinornithosaurusの羽毛の化石の微細構造を、走査電子顕微鏡を用いて詳細に検討した。Sinosauropteryxの羽毛からは球型のフェオメラノソーム、Sinornithosaurusからは棍棒型のユーメラノソームとフェオメラノソーム両方の構造がみられた。そして、これら獣脚類恐竜と鳥類の化石における両メラノソームの配列、羽毛構造中の局在が非常によく似ていることから、この構造が化石化したバクテリアである可能性はきわめて低いと結論づけた。

さらに、羽毛にフェオメラノソームのみが認められたSinosauropteryxの体色は、栗色から赤褐色の色調であったと推測している。

鳥類の羽毛色のバリエーションは、主としてユーメラニンとフェオメラニンの量比や分布の違いで決定される。羽に覆われた恐竜の保存状態の良い化石が見つかれば、化石化したユーメラノソームとフェオメラノソームの量や分布を統計学的に解析することで、よりオリジナルに近い色や模様を推定することができるだろう。

体色は、それぞれの種において生存戦略上極めて重要な要素である。恐竜の体色を知ることは、私たちを楽しませてくれるだけでなく、生物進化や多様性創出の分子基盤を考察する上での、重要な一助となるはずである。

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