ヒトのからだにはくまなく血管が張り巡らされます。この血管網ができあがる過程は、単に枝分かれが増えるだけではなく、適宜不要となった部分を退縮させ、その時々のからだの成長にカスタマイズしていく必要があります。その1例が、眼球における硝子体血管です。通常、硝子体血管は胎児期のみに見られ、出生までに退縮しますが、退縮が不完全であった場合、「第一次硝子体過形成遺残」という視力を損なう先天性疾患を引き起こします。本研究でまず取り組んだのは、硝子体血管の可視化技術の確立です。様々な試行錯誤の結果、虹彩と一塊として取り出すことで、硝子体血管全体を一視野のもと観察することに成功しました。この技術を駆使し、硝子体血管の退縮は、神経による血管内皮細胞成長因子(VEGF)の取込み・消化により開始されることを見出しました。本研究は、マウスの組織を形態学的に観察する、という古典的かつシンプルな実験ですが、手先の小細工による可視化へのこだわりによりユニークさを打ち出していると考えております。飛躍的に解釈すれば、古典的な形態学的解析であっても、徒手的な技術の改良によって見出される重要な生命現象がまだまだ数多く残されていると考え、日々研究に励んでおります。
(坂口光洋記念 機能形態学講座 久保田義顕 79回、吉川祐輔 88回)